黒部丸山東壁緑ルート

2015/9/12-13
桜井、大沼、N  記 N


9月12、13日の週末、一年前のちょうど同じ時期に時間切れ敗退を喫し、宿題となっていた丸山東壁緑ルートを再訪。天候と仲間に恵まれ、ようやくリベンジを果たすことができた。お付き合いいただいた大沼さん、パートナーの桜井さんに感謝したい。
○行程
<9月12日>
前夜11日夜発-扇沢
扇沢7:30-7:50黒部ダム8:50内蔵助谷出合~BC設営 10:15緑ルート取付-10:30登攀開始-15:30中央バンド ホテル丸山泊

<9月13日>
5:30起床-6:45上半部登攀開始-9:00テラス上で終了-10:15緑ルート取付-10:45BC-12:15黒部ダム-12:45扇沢-帰京

○記録
丸東リベンジは今年の目標の一つとして当初7月に計画していたものの、私が仕事の関係でタイミングを逃していたところ、夏の涸沢合宿の帰りに桜井さんにお願いし、9月12、13日の実施が決まった。

しかしながら、その週は前半に台風18号が発生し、今回もまた無理かと半ば諦めかけていたのが、予想外に台風が早く列島を縦断。北関東は甚大な被害となるも、長野県北部の降雨は限定的で、土日も晴れるという予報に急遽決行することになった。

昨年は3日間の計画であったが、今年は土日しか休みが取れなかったため、前夜発での二日日間の計画となった。出発の一週間前に、我々が黒部方面に行くことを聞きつけた釣り師の大沼さんがテントキーパー兼ドライバーとして同行していただくこととなり、桜井さんと私は登攀に集中することができた。

9月11日の夜に大沼さんに車でピックアップいただき、ほとんど渋滞に巻き込まれることなく、まだ日の変わらないうちに扇沢駐車場に到着。車内で登攀の成功を祈念し皆で恒例の乾杯。当初、軽量化して土曜に上部まで登り切るワンデー・トライも考えたものの、今回はもう後に宿題は残せないということで、何かあってもビバークできるようお泊まりセットを持参することに決定。そうと決まれば早めに就寝。夜空には満天の星。明日の好天は約束された。

翌日は7時半始発のトロバスに間に合うようやや遅めの6時起床。簡単な食事を取り扇沢バス停へ。紅葉シーズン前にもかかわらず、既にたくさんの登山客が切符売場の前に列をつくっていたが、黒部ダムに着いてからそのまま地下道を通って黒部川に降りる登山道につながる出口に向かったのはほんの10名程度。見たところ。我々以外にクライマーらしき姿はなく、今年も丸東の岩場独占の予感が走る。

それにしても今年の夏は本当に天気に恵まれず、長らく満足のいく山行から遠ざかっていたが、ようやくここにきて一矢報いるチャンスが到来したことに気分の高まりを感じる。荷づくりもそこそこにダムを出発。なるべく早く取付に着きたいと、はやる気持ちを抑え、1時間足らずで内蔵助谷出合に到着。速やかにBCキャンプを設営し、緑ルートの取付に向かう。

内蔵助谷を詰めていくとすぐに丸山東壁の巨大な岩壁が目に飛び込んできた。今回も岩壁に人の気配はなく、昨年と同じ雲ひとつない青空が広がっていた。私にとっては昨年来二度目だが、桜井さんは間に1回挟んでいるので三度目となり、緑ルートの取付までの道筋に不安はない。さらに昨年来た時は見当たらなかった赤ペンキの目印もあり、道迷いなく10:15に懐かしの取付に到着。もっとも、取付までは背の高い草が生い茂り、踏み跡も薄く、直近、人が入った形跡は見受けられなかった。

取付にてガチャを装備し、とりあえず不要なアプローチシューズのみ残置し、10時半に登攀開始。前回は桜井さんに全ルート、オールリードしていただいたが、今年はそういうわけにはいかない。下部は4ピッチ目にある扇ハングのリードを志願し、奇数ピッチを桜井さん、偶数ピッチを私が担当することになった。

<1ピッチ>
出だし傾斜は緩いが手掛かりが少ないスラブは例によって濡れており、桜井さんはここを空身でクリアーし、ザックを引き上げ。1ピン目が遠く緊張を要するが、取付から2メートルぐらいの草付きに隠れたハーケンあり。

<2、3ピッチ>
ルートを直上。ピン間隔が長いところもあるが、状態はさほど悪くない。

<4ピッチ>
扇ハングはピン間隔短く問題ないが、荷が重く体力を消耗。当然、フィフィを多用。

<5ピッチ>
徐々に傾斜のきつくなる垂壁を中央バンドに向かってひたすら直上。

<6ピッチ>
さらに壁を直上した後、バンド下のブッシュ帯の手前をハーケンに導かれて右にトラバース。高度感がハンパ無く、ハーケンもボロボロで緊張する。これまたぼろい支点でハンギングビレー。

<7ピッチ>
最後の草付を灌木にランナーを取りながら中央バンドまで。

この時点で目標の15時を少し回ってしまい、東壁は日の陰りも早く夕闇が迫っていた。天気は明日の午前中までは天気はもつだろうとの読みもあり、体力の消耗もあり、その日はここで行動終了。下半部の終了点でしばし休憩を取った後、ロープを解いて本日宿泊予定のホテル丸山に移動し、チェックイン。

バンド上は幅も狭く片側がすっぱり切れ落ちており、生い茂った草が岩壁上部からの水滴で濡れていたため移動には細心の注意を要する。水滴の量は、ここのところ雨が多かったせいかかなり多めで2~3分でシェラカップがいっぱいになるほどであり、そのまま飲むのはやや気が引けるが、火を通せば十分飲めそうであった。

ホテル丸山は大人3人が横になれる、細かい砂利が敷き詰められた平らなスペースがあり、快適そうに見えたが、天井からの雨漏りには閉口した。桜井さんも私もシュラフを持参し、一枚のツエルトを被って寝たのだが、朝にはシュラフがびしょぬれになってしまい、シュラフカバーを持ってくればよかった。

ひとしきりついて、桜井さんとホテル丸山の入り口に腰かけ、持ちあげたビールで乾杯。早めの夕食を取り、焼酎をちびりながら登攀の余韻に浸る。そうしていると、あれほど澄み渡っていた空ににわかに雲が立ち込め、空を覆ってしまった。結局、その日は期待していた星空は望めなかったが、奥深い黒部の山々に囲まれ、荘厳な気分に浸ることができた。18時半過ぎには日もとっぷり暮れ、二人とも疲れのためか20時過ぎに寝入ってしまった。

翌朝は5時起床のつもりが30分寝坊してしまい、慌てて簡単な行動食を口に入れて行動開始。余計な荷をホテルに残置し、バンドを30メートルほどトラバースして上部岩壁の取付まで移動。6:45から登攀開始。

上部は大ハングを桜井さんにお任せし、自分は1ピッチ目をリード。いきなりの空中からのスタートは朝いちには堪えたが荷が軽いのでなんとかクリアー。カンテ沿いをハング下のビレー点まで直登し、桜井さんの到着を待つ。頭上の大ハングのプレッシャーが重々しくのしかかってくる。

2ピッチ目は桜井さんのリードで、ハング下をボルトに導かれて左上していく。下部と異なり古いハーケンが主体で、一箇所、桜井さんがアブミをかけた際にハーケンが根元からポキッと折れるアクシデントがあったが、重心を移す前だったため事なきを得た。ハングを乗っ越す前に左壁に移る際のピンが遠い。ハングを越えた後、さらにフェースを直上し、もう一段上がったところが2~3人立てるビレーポイント。

他の多くの記録に倣って、そこをルートの終了点とし、9:15登攀終了とする。黒部の谷を吹きあがる心地よい風が祝福してくれるようであった。ようやくここまで来られたことに感謝する。

中央バンドまでは50メートルの懸垂1回で降りることが可能。ホテルの残置物を回収し、懸垂5回であっという間に取付に舞い降りる。登りの大変さに比べると、下降はあっけないほど。

ここで桜井さんとがっちり握手。アプローチシューズに履き替え、藪こぎ、ルンゼを下って谷沿いの道をBCへ。笑顔の大沼さんが我々を迎えてくれた。大沼さんの方でも昨日はまずまず釣果があったそうで、自然の恵みを堪能したそうだ。ご相伴に預かれずに残念。

すでに大沼さんがテントを撤収してくださっていたので、テント、残置物をザックに放り込んで、黒部ダムに向け出発。その道すがら、ようやく一年越しのリベンジを果たせたことに満足しつつ、今にもポツリときそうな曇り空の下、疲れた足を引き摺り重荷に喘ぎながら帰路を急いだ。

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