剣岳 八ッ峰Ⅵ峰Cフェース~上半縦走~本峰

2013/9/21-23
山本(武)、A、M、中村、N、K  記 N


9月後半の3連休は、雪と岩の殿堂、剣岳でアルパイン・クライミングの入門ルートに挑戦。

全行程にわたり素晴らしい好天と気心の知れた仲間に恵まれ、ほぼ予定通りの行動時間で、Ⅵ峰Cフェースから八ツ峰上半を本峰まで縦走し、暗くなる前にテン場まで戻ってくることができた。

自分にとっては、今期初の本格的なアルパイン・クライミング、かつ小さい頃から憧れていた剣岳を八ツ峰からのバリエーション・ルートで初登頂することができ非常に感慨深いものがあった。

今回、まだ経験が浅く未熟な我々新人を引き連れ、山行をリードしていただいた山本さんをはじめ、前週の谷川でのクライミングにお付き合いいただいた会の皆さんに感謝したい。

9月21日
前夜21時過ぎに車2台で東京・横浜を出発。
扇沢のバスターミナルに到着したのは午前3時を回っていた。
無料駐車場は既にいっぱいで、仕方がなく有料駐車場へ。
就寝前に軽く乾杯し、暫し仮眠する。

初日はテン場までの行程なのでゆっくり出発すればよいと思っていると、まだ明るくなる前から車が続々と到着し、準備をする登山客で騒がしい。
我々も6時半には起きて荷造りをする。
8時に出発。

前週の3連休は台風18号が日本列島を縦断し、楽しみにしていた「勝手に涸フェス」もあえなく流れてしまったが、今日はそれと打ってかわって雲ひとつない絶好の山日和。
皆、前週のリベンジとばかりウキウキとした気分で一路室堂へ。
途中、黒部平からは後ろ立て山の山並みが一望できた。

室堂のバスターミナルをでたところで、一昨年前に都岳連の雪山教室でご一緒したSさんに偶然出会う。
北方稜線に向かうとのことで、久しぶりの再会を喜んだ。
色づきはじめた紅葉に華やいだ気分で剣沢のテン場に向かうが、酒と食糧がたんまりと入ったザックをしょっての雷鳥沢の登りは思いのほか厳しいものがあった。

汗だくになりながら、それでも14時前にはテン場に到着。
威風堂々の剣岳が我々を出迎えてくれた。
まだ日も高いうちから冷やしたビールで乾杯。
この世の天国なり。
山本さんに持参いただいたマツタケでテン場の注目を集める。
スダチも用意する周到さはさすがです。
夕飯は、山本さんお得意のチリコンカンとトルティーヤ。
スパイシーでチーズとの相性もばっちり。
タバスコをたっぷりかけて一人三枚でお腹いっぱい。

この日、剣沢のテン場には、我々6人のほかに、翌朝源次郎尾根から本峰を目指す高坂さん、川村さんのパーティと、森田さんが幕営。
また、眼と鼻の先の剣山荘には松元さんと桜井さんが別の山行で宿泊されており、この狭い山域に嵓のメンバー総勢11名が大集結することとなった。
翌日の長丁場に備えて19時には消灯。
明日の山行への不安から、「いよいよ来ちまったなぁ」とちょっぴりおセンチな気持ちになったが、疲れていたためか皆早々に眠りに就いた。

9月22日
翌朝は予定通り、午前2時に起床。
軽く炙ったナンをコンソメスープで流し込み、3時過ぎにハーネスを装着してテン場を出発。
暗闇の中、ヘッドランプを点灯し、剣沢雪渓へ急ぐ。
しばらく夏道のガレ場を下ってからアイゼンを付けて雪渓に降りる。
夜の寒さで引き締まった雪面はアイゼンの歯がよく効く。
ところどころシュルンドが口をあけていたが、危なげなく快調に雪渓を下っていくと、山本さんのアイゼンが壊れてしまう。
そこからはAさんが先行し、4時半頃に長次郎出合に到着。

その先はひたすら長次郎谷を詰めていくが、割合に雪渓は安定しており問題なく高度を上げていくと大きな岩場にぶつかり、そこでいったん雪渓が切れる。
アイゼンを外して岩場を直上し、右手の八ッ峰側のガレた斜面からさらに上部を目指す。
このあたりで徐々にあたりが白みはじめ夜明けとなる。

浮き石の多い急峻な斜面をさらに登っていくと前方に熊の岩が見え、その右手にⅥ峰と思われる岩稜が現れる。
取り付きには既に先行パーティーが登攀の準備をしており、我々の後ろからも後続パーティが続々と登ってくる。
急いでCフェースの取り付きへ6時半到着。
空は雲ひとつない青空。
ギアとロープを装着し、山本さんの「Let’s enjoy Climbing!」の掛け声の下、①A・中村組、②M・N組、③山本・K組の順番で登攀を開始。

Ⅵ峰Cフェース(以下、M・N組の記録)

1ピッチ目(Mリード)
スラブの末端からバンドを左上し、リッジ上のテラスまで約30メートルのフェース。
ホールドも豊富でとくに危ないところはないが、その分、ピンが少ない。
Mさんはバランス良く登っていく。

2ピッチ目(Nリード)
ハイマツの間の凹角を抜けて快適なフェースを約40メートル直登。
ここもホールド豊富でとくに問題となる箇所はない。

3ピッチ目(Mリード)
Cフェースのハイライト。
高度感のあるフェースを左上し、ハイマツのあるテラスまで40メートル。
浮き石が多く、神経を使う。
このあたりから隣のRCCルートから登ってきたパーティと合流し渋滞となる。
先行パーティは登山靴で登攀しているらしく少し苦戦している模様。

4ピッチ目(Nリード)
フェースからハイマツを越えナイフエッジをトラバース。
ホールドはしっかりしているが、下部が切れ落ちているため慎重に登る。
トポではナイフエッジの先でいったんピッチを切っているものもあったが、そのまま5ピッチ目も継続し右側からテラスまで、40メートル。

4ピッチ目から少し上がったところが終了点。
かなり待ち時間もあったが、9時過ぎには終了点に到着。
A、中村さんとともに、後続を待つ。
雪渓の上をからの涼やかな風が心地よい。

Cフェースを無事に登り終え安堵したのも束の間。
真の核心はこのあとの八ッ峰上半の縦走にあった。
ルート自体は踏み跡もあり明瞭であったが、八ッ峰の頭まで大小の峰々を越えていかなければならない。
足場も悪く、気を抜けない場面が続く。
ロープを出して、慎重に一つずつクリアーしていく。

下降する場所にはしっかりとした懸垂用の支点が打ち込まれておりスリングも数多く残置くさていた。
CフェースからDフェース、Eフェースとアップダウンを繰り返し、Ⅶ峰へ。
Ⅷ峰への下降は2段階の懸垂下降となる。
短いながらも切り立った絶壁からの下降は緊張を強いられた。
続くⅧ峰は長次郎谷側から巻くこともできたが足場が悪そうだったので、我々は無理をせずⅧ峰を登りコルまで懸垂下降した。

八ツ峰の頭までの登り返しはかなり切り立っており、もろい岩場を越えて、ようやく八ツ峰の頭に到着したのは13時過ぎになっていた。
背後にはそれまで辿ってきた八ッ峰の峰々、眼下には三ノ窓の頭とクレオパトラ・ニードルを臨む。
そして、遥かかなたには北アルプスの山々と槍の穂先が確認できた。

頭から懸垂下降で池ノ端乗越へ。
ここからは北方稜線に続く一般ルートと思いきや本峰への登り返しはまだまだ油断ならない。
クライミングシューズを着けたまま崖を攀じ登り、偽ピークを1、2つ越えて14時半にようやく剣岳本峰に登頂することができた。

この先も鎖場や登り下りの長丁場が延々と続く。
重い足を引きずり、ヘトヘトになりながら一服剣を越え、剣山荘が見えてくると一気に安心感が広がり、あとはゆっくりとしたペースで休み休み下山する。
テン場到着は17時過ぎ。
出発から数えると、途中、待ち時間や休憩もあったが、14時間以上行動し続けたことになる。
本当に長い道のりだった。

ベースでは、一足先に源次郎尾根をやっつけた高坂・川村パーティが我々を出迎えてくれ、大変嬉しかった。

その日は、荷物の後片付けもそこそこに冷えたビールで八ッ峰の成功を祝した。
夕食は山本シェフ特製の野菜と豚肉たっぷりのキムチ鍋2ラウンド、締めはうどん。
私は疲れていたためか、いつものようには酒が進まず、ふと気がつくと眠りこけてしまったのはもったいないことをした。

9月22日
最終日もこれまた眼が覚めるような好天の下、そぞろ6時半に起床。
皆で「早起きすればもう一本登れたのになあ」なんてうそぶきながらそんな気もなく、帰りの渋滞も心配なので各自撤収の準備。
朝飯は、昨晩のキムチ鍋にうどんを入れたものと、残りもののナンにキーマカレーのペーストを付けて早々に済ませ、8時半にはテン場を出発。
ゆっくりとしたペースで11時半に室堂のバスターミナル到着し、アルペンラインで扇沢へ。

帰りは大町温泉郷の薬師の湯に立ち寄り、お馴染みのガストで遅めのランチ。
3連休最終日の中央道は小仏トンネルを先頭に30km超の大渋滞であったが、我々は皆満ち足りた気分で帰途についたのであった。

最後に
今回は、結果的に全員怪我もなく、大満足の山行ができたが、これは多分に天候や外部環境に恵まれたことによるものと認識。
もしも雨が降ったり、雪渓の状況が悪かったり、パーティーのメンバーが怪我したりした場合には、厳しい状況に追い込まれた可能性が大きい。
そのようなリスクもある程度織り込んだ上で余力を持ったパーティー編成や計画とする必要がある。
自分自身、何か起きた場合でも自分で対処できるよう、技術、体力、経験を積んで、さらにレベルアップしてまいりたい。

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