黒部上ノ廊下~赤木沢

2012/8/10-15
鈴木博 桜井、大沼、A氏 桜井 記


「沢登り愛好者なら誰でも一度は遡ってみたい憧れの谷」と言われる黒部上ノ廊下であるが私はこれまでそれほど行きたい思ったこともなかった。

第一に日数がかかり最も遡行しやすいといわれる8月後半から9月にはまとまって休みを取ることが出来ないと思っていたからである。
7月の初めに都岳連講習会の三つ峠の帰りに博道さんと盆休みの計画を話しているときに上ノ廊下のことが上がり時期的にちょっと早いけど行こうよということになり盆なら5日位休めるかなということで今回の計画が始まった。集会で話をするとアクさんと大沼さんが乗ってきて4人パーティとなった。
下山場所と交通機関を色々検討した結果、車で扇沢まで入り下山は水晶から竹村新道を湯俣へ下り七倉からタクシーで扇沢へ戻ろうということになった。
出発前に大沼さんが色々情報をとってくれたが室堂山荘の話によると・・・
・例年8月上旬に入渓したパーティーはほぼ全員戻ってくる。強行した人は遭難。
・昨年は1パーティーだけ、よく来ている人達がガイドつきで抜けた。
・皆さん休みの関係でお盆に入ろうとするが、半分以上は戻ってくるし、行った人はよく遭難している。
・警備隊に言わせれば9月以降、我々は少なくとも20日以降でないと無理とお答えしている。
・昨年は20日に数パーティーが入渓、1パーティーだけ引き返さずに進み、遭難、死亡。
・ただ、今日の時点で言えば、黒部川上流域ではここ10日以上ほとんど雨が降っておらず、多少は減水しているかもしれない。
この情報を聞くとお盆の時期に入渓するのはほぼ絶望的という感があり無理して入ってもしょうがないかのなという思いが膨らんで来た。
それでも行けるところまで行って見ようという楽観的な意見もあり出発することになった。

8/9小田急線柿生駅21時30分集合で大沼さんの車で出発する。
約4時間で扇沢に到着、下の無料駐車場の空きを捜してテントを張る。

8/10 扇沢~上ノ廊下

7時30分始発のトロリーバスで出発するべく切符売り場に並ぶが観光客と登山者で行列である。
トンネルを抜けると黒部ダムに到着、観光客に交じってダムの上を行くがアルペンルートを外れて黒部湖岸の登山道をを行くのは我々だけだ。
舗装路に沿って進み黒部湖の遊覧船乗り場で休みパッキングをし直す。ロッジくろよん、御山谷などを抜けて黒部湖の左岸ぞいを登ったり下ったりの道を辿って平ノ小屋に11時過ぎに到着しここで大休止となり小屋のご主人から色々な話を聞く。
今シーズンはまだ上ノ廊下に向かったパーティはいないので成功すれば我々が初遡行になるという。
12時発の船で対岸へ渡る。約20分程で平ノ渡し場に到着する。ここからはハシゴの連続でアップダウンが激しい。昨年の地震で崩れたところも多く未だ修復作業が続いているようだ。
ハシゴが終わり平坦な道になりしばらく行くと奥黒部ヒュッテに到着する。当初の予定ではここに泊まることも考えたが時間も早いので入渓の支度をしてビールを仕込んでテン場の脇を抜けて黒部川に降りていく。
まだ川幅も広く深い所もあり右へ左へスクラムで渡渉を繰り返す、さすが北アの沢は冷たい。
2時間ほど遡行し左岸の砂地のビバークサイトに到着、今夜の宿とする。薪は沢山集められたので焚火の心配はいらなかった。釣り糸を垂らすが今日の収穫は無だった。焚火とビリー缶で米を炊くのだが水を多くしてガンガン焚き沸騰したお湯を溢れさせるというワイルドな炊飯で美味しく焚けた。

8/11 上ノ廊下~金作谷上

今日は核心の日でどこまで行けるかが今回の山行の成否を握っているといっても過言ではない。
前夜のビバークサイトからしばらく行くと下ノ黒ビンガが現れる。ここは淵になっており左岸からヘツリ
流れに飛び込み対岸へ泳ぎになる。博道さんがトップを行き後のメンバーはザックピストンとする。
ビンガの岩壁は凄いものがありここまでのアプローチをかけてこの壁も登られている。
ここからは渡渉の連続になり何回繰り返したか数えられない。スクラムを組み渡渉するか流れが早かったり深い所はトップが泳ぎロープを張って後続がクリアすることの繰り返しだ。
やがて上ノ廊下の核心部といえる口元ノタルの淵になる。ここの通過にはいくつかの方法があるようだが我々は左岸をヘツリ途中から泳ぎ岩に登る方法をとった。トップが泳ぎ着けば後続はロープに引っ張られていくだけなのでさほどの労力はない。ここを突破すると長いこと水に浸かっていたので体が冷えてしまった。本来なら暑い中で冷たいそうめんを昼食にする予定だったが暖かいそうめんを食べて体を温めることにする。テルモスに用意した暖かい飲み物も美味しかった。
大休止の後出発する。天気は曇りから時折雨も落ちてくるという感じで黒部の谷を遡行するには少し寒いようだ。やがて上ノ黒のビンガになるが下ノビンガに比べると大きな岩壁ではないが小規模の岩壁が長いという感じでいかにも上ノ廊下という風景が広がる。
この先で雪渓を残す金作谷が右から出合い幾つかの淵を過ぎると少し川幅が広がりビバークサイトを捜せるようになる。
幾つかの候補地があったが右手の少し高くなった台地を今日のビバークサイトとする。
夕飯のおかずに暗くなるまで魚釣りをするが今日も収穫はなかった。

8/12 金作谷上~薬師小屋下

今日は朝からいい天気になった。ビバーク地から暫く行くと淵が現れ泳いでの突破が何か所か現れる。
やがて左岸の岩をトラバースする箇所が出てくる。ここは最後降りるところが厳しいのでロープを出して数メートルの懸垂とする。
赤牛沢を左から迎え岩苔小谷との二股を過ぎると先行パーティに追いついた。平ノ小屋に泊まって我々より半日早く先行していたようだが2人パーティではきついのだろうか。この先も我々が泳いで突破したところも高巻をしていたようだった。
この先立石の奇岩になるともう安全圏という感じである。写真を撮ったりして大休止とする。
ここからもまだ深い淵があって何回か泳ぐところも出てくるが流れが緩やかになってきたのでさほどの苦労はなく通過できた。
E沢~A沢まで右岸から5本落ちてくる沢を数えながら行くが最後のA沢のところで高巻があり5mの懸垂があるとガイドブックにあるのだがそれはなかった。やがて大東新道とぶつかる地点に来ると登山者ともすれ違うことがあったがこの道は高天原に続いているのだがなかなか登山者には厳しい道だと思う。
今夜のビバークサイトは薬師沢出合の少し手前にする。今日は少し早く終了して明日以降釣りもできなくなるのでアクさんが釣りに専念する。その結果岩魚を4匹吊り上げた。最初の1匹は刺身でいただき残りの3匹は唐揚げとする。うなぎのタレを付けた岩魚の唐揚げ丼は最高で酒も進んだ。

8/13 薬師小屋下~赤木沢~黒部五郎小舎

今日は朝から雨が降ったり止んだりで気が重い。ビバークサイトから暫く行くと薬師沢出合いの赤い吊り橋が見えてきた。吊橋を渡ると薬師小屋に到着しここで小休止をする。小屋からは梯子を下り再び沢床に降りトレースを辿る。しばらく行くと先行パーティに追いついた。結構な人数で軽装なところを見ると前夜は薬師小屋に泊まりここをBCにしての日帰りなのだろうか。一か所淵がありここはトップが右岸の岩の上を空身でトラバースし後続は水の中をロープに引かれ泳ぎ岸に着いたところから岩に這い上がることにした。ここを過ぎると難しい所もなく赤木沢の出合に到着した。
この場所は黒部本流の中でも美しい所でナメ滝が落ちていて赤木沢が出合っていることの美しさが写真で良く紹介されている。本当はもう少し天気の良いときに水面に光が当たりキラキラしていれば良いのだがこればかりはしょうがない。今度は晴れた日に来たいものだ。
赤木沢に入ると黒部本谷に比べると稜線まで一気に高度を上げるべく滝が多くなり高度をぐんぐんと稼げるようになる。
赤木沢の名の通り沢床が赤いナメ滝が次々と現われほとんどが登れる滝を超えていく。ウマ沢の先の滝は右から巻き2段35mの大滝は右から巻くがどちらも人気の沢なのでしっかりと踏み跡がついていて迷うことはない。本流は二股から右股を行き赤木岳に至るが我々は黒部五郎岳を目指すので少しでも行程を減らすべく左俣を行き中俣乗越を目指す。少し迷うところもあったが基本的に左へ左へ登り最後は草原の中ガスの中、雪渓も現われてしばらく這松帯を行くと縦走路に飛び出た。互いに握手して完登の喜びを分かち合う。
小雨の中視界も悪く黒部五郎岳への登りでは強風の通り道と急登でとても疲れた。やがて傾斜が緩くなり分岐に到着し小休止とする。わずかに登れば黒部五郎岳のピークに着くが視界も悪く疲れていたので100名山は諦めてパスすることにする。
ここからは下りとトラバースで大きな登りもなく黒部五郎小舎へ向かう。天気が良ければ素晴らしい風景の所もあっただろうがとにかく小屋を目指す。
小舎に着き幕営のことはもう頭になく小屋泊まりに皆の意見はまとまっていた。早速ビールで乾杯という場面だがこの気温では小屋に入ってストーブで体を温めてからにする。
お盆の時期で込み合っているかと思ったがさすが北アルプスの最奥の地なのかさほど混雑もなくゆっくりと出来た。
夜中から朝方にかけて結構強い雨が降っていてテント泊まりでなくて本当に良かったと思った。

8/14 黒部五郎小舎~新穂高温泉

朝から強い雨が降っていて出発するのに躊躇する。天気予報だと昼過ぎからは雨も上がる予報を聞き夕方までに新穂高に降りればよいのでゆっくりと小屋を出る。
今日の行程は三俣蓮華岳までが登りそこからは稜線歩きと下りなので2時間ほどの登りを我慢すればよい。雨の中登って行くが登山道を水が流れ沢登り状態である。三俣蓮華岳を超え小雨とガスの中を行き双六岳のピークはパスして中道ルートから双六小屋に到着する。この小屋は結構大きく槍ヶ岳へも向かう人も多いのかにぎわっている。前の日から決めていたのだが昼食はここの小屋に入って取ろうということにしていた。牛丼かカレーにするか迷ったが私は最初から決めていたカレーを迷うことなく頼んだ。
大休止の後縦走を続ける。天気は曇りから時々晴れ、曇ったり時々雨が降ったりとスッキリしないが大きく崩れることはないようだ。弓折岳を経て鏡平小屋に至り小休止。
小池新道の樹林の中の緩い道を下って行くと下から上がってくる人とすれ違いが多くなる。視界が開け左下に蒲田川左俣谷が見えてくると新穂高も近い。ゲートのある合流点からは車道歩きとなりしばらく行くとわさび平小屋に到着する。
ここまで来るともう終わったと一緒ということで博道、桜井は缶ビールで乾杯とする。
新穂高温泉にたどり着き今日の天場をどうしようか探すがバス停前とか林の中かとも考えたが近くにオートキャンプ場があることが分かり電話して確認しタクシーで移動することにする。
ここは中尾温泉から少し上がったところにある合掌の森中尾キャンプ場である。露天風呂付きで1,000円はお得だろう。

8/15 新穂高温泉~扇沢

今日も朝から小雨が降っている。中尾温泉口のバス停まで前夜大沼さんが偵察しておいたわかりずらい道を行く。普通ならここから松本か高山を経て東京へ帰るのだが我々は扇沢に車をデポしているのでそれを取りにいかなければならない。
途中平湯で乗り換えバスで松本へ向かう。さらにそこから大糸線に乗り大町へ戻る。大沼さんが先行し大町からバスで扇沢へ向かい車を取って大町駅で合流する。昼食を取ろうと店を探すがどこもこれといった店がな。大町温泉郷まで行き温泉に入りコンビニで弁当を買って車中で食べることにする。
帰りの中央高速はちょうど諏訪湖の花火大会と重なり大渋滞であった。

久々に長い今回の山行であった。出発前の準備から山行中も皆さんにお世話になりっぱなしでほとんど何もしなかった感がある。
この報告書で改めて今回同行してくれたメンバーにお礼を申し上げます。
またどこかへ行こうね。

8/10 扇沢7:30-平ノ小屋11:10-渡舟12:00-黒部ヒュッテ14:10-ビバーク地16:30
8/11 ビバーク地7:30-上ノ黒のビンガ8:30-口元ノタル9:30- 下ノ黒のビンガ14:20-ビバーク地 17:30
8/12 ビバーク地 7:30-赤牛沢出合い9:30-立石の奇岩10:30-ビバーク地 16:30
8/13 ビバーク地 7:30-赤木沢出合い-9:30-赤木沢大滝11:00-中俣乗越-13:00-野口五郎小屋16:30
8/14 野口五郎小屋8:20-双六小屋11:30-鏡平小屋13:30-新穂高温泉16:30-中尾キャンプ場17:30
8/15 中尾キャンプ場7:00-平湯温泉8:45-松本10:10-信濃大町12:00

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