剣岳 チンネ左稜線

2009/8/22-24
山本(武)、玉田、久保田  久保田 記


■ 1日目 8/22(土) アプローチ

寒冷前線はまさに頭上を通過中。雨の中を歩くことを考えると憂鬱な気分になる。扇沢へ向う途中、すでに雨は降っており、真夜中に扇沢に着いた頃も雨が止む気配はなかった。新車の玉田号の中で一杯やり、明日からの山行に不安を持ちつつも、3人で川の字になって寝た。
天気の心配も杞憂に終わる。朝、起きてみると、抜けるような青空が広がっていた。昨年のピラミッドフェースも奇跡的に晴れて登れてしまったのだが、今年も登れる気がしてきた。
いつも晴れてしまって申し訳ない。

200908_chine01

多くの登山者と一緒にトローリーバスに揺られる。初めて観る黒部ダムに感激。もちろん室堂も初なのだ。
10時室堂を出発。別山乗越を越え剣沢を下る。しばらくすると雪渓が現れるので、アイゼンを履く。
2本目の大きな沢が長次郎沢だ。ここから果てしない登りが続く。さすがに8月の終わりということもあり、雪渓がところどころ崩壊している。途中、雪渓が崩壊していて口を大きくあけている個所があった。
落ちたらひとたまりもない。武さんが岩に飛び移り、ロープを出した。
その後もひたすら急な雪渓を登り、17時頃、某岩場に到着。他にパーティーはいない。どうやら貸切のようだ。
ツェルトを張り終え一息つくと、玉田さんがおもむろにザックから350mlビール缶を取り出した。荷物を極限まで減らしてきているはずなのに、酒だけは欠かさない。恐るべし山岳会。でも素敵過ぎる。350ml缶を3人でわけて飲んだ。乾いた喉に沁みわたる。早々に就寝。

200908_chine02 200908_chine03

■ 2日目 8/23(日) チンネ左稜線
4時起床。薄明が始まっていた。今日もどうやら晴れのようだ。予報通りなら今日から晴れが続くはずだ。
5時出発。長次郎沢の右俣を詰める。右俣は雪渓が繋がっているようにも見えるが下からではよくわからない。
雪渓が途絶えていても登れるだろうと思い、右俣を詰めることにした。予想通り雪渓は途切れており、ガレ場をアイゼンで通過、再び雪渓を登る。斜面が急なので、正確なアイゼンピッケルワークが要求される。
1時間ほどで池ノ谷乗越へ到着。ここに余分な荷物はデポしていくことにした。チンネの取付きまでの雪渓トラバースがどんな状況かわからなかったので、アイゼンとピッケルは一応持っていくことにした。
池ノ谷ガリーの下りは、かなりガレガレしている。滝谷四尾根の下りよりは全然ましだと玉田さんが言っていたが十分悪い。忠実にガリーを下っていくと三ノ窓へ到着する。三ノ窓からチンネの全景が見渡せる。すっきりとしたフェースで快適そう。我々のほかに取り付いているパーティーはいない。なお、三ノ窓からチンネ左稜線取付までの雪渓はやや立っているので、ピッケルとアイゼンはあった方がいいと思う。
取付のテラスへは、左側からノーザイルで上がった。取付きには、ぼろいハーケン2枚が申し訳なさそうにささっていた。
ゆったりと準備して玉田さんがトップで7:50登攀開始。

1P目(1-2P) 玉田リード
フェースを直上。クラックがあるのでカムが有効。
※以降かっこ内は「日本の岩場」のピッチ数

2P目(3-4P) 玉田リード
ピナクル直下まで伸ばす。

3P目(5-6P) 玉田リード
正面に見える悪そうなルンゼを登っていくが、ほとんどプロテクションが取れない。
どうやらⅠ級のリッジまで出てしまったようだ。正面のルンゼは登らず、もっと手前の岩溝を登るのが正しいと思われる。

4P目(7P) 久保田リード
ここでトップ交代。Ⅰ級のリッジ。やさしい岩稜歩き。

5P目(8P) 久保田リード
やさしいが岩が脆いので神経を使う。ところどころでカムを使用。

6P目(9P) 久保田リード

フェース。
7P目(10P) 久保田リード
ピナクルが林立するリッジ。これを目の当たりにしたとき、ぞくっときた。核心のハング下のT5へ向う。

200908_chine04  200908_chine05

8P目(11P) 玉田リード
核心。ピンが豊富にある。ホールドはたくさんあるので、落ち着いていけば問題なし。フリーで突破する。
9~10P目 山本武リード
せっかくだからと武さんにトップ交代。岩峰は巻かずに正面突破。

11P目 玉田リード
高度感が素晴らしい。

200908_chine06  200908_chine07

12P目 久保田リード
やさしいナイフエッジを越えていく。
13時半頃チンネの頭に到着。最高到達点で記念撮影。足元があまりよくなく、おまけに風が吹いているので、かなり怖い。腰がひけるのはうなずける。キャメ#2があれば足元のクラックにプロテクションが取れるのは内緒だ。

200908_chine08

チンネの頭から1ピッチ分懸垂する。そこから崩壊している岩場をクライムダウンするが、かなり脆い。
武さんが浮石を掴んで滑落しそうになる。懸垂用の支点があるので無理せずロープを出した方がよい。
池ノ谷ガリーへまで降り、池ノ谷乗越まで登り返す。池ノ谷乗越にデポした荷物を回収し北方稜線へ向う。
北方稜線で懸垂下降するための支点が一箇所あり、懸垂した。
北方稜線は何度も登ったり降りたりするので心が折れそうになる。クライミングをした後に、重い荷物を背負っての稜線歩きは、かなりこたえる。16時40分剱本峰到着。さすがにこの時間になると登山者は皆無。
そろそろ暗くなり始めてきていた。記念撮影を簡単に済ませ、本峰を後にする。
19時前に剣山荘にへろへろになり到着する。キンキンに冷えたビールと暖かい布団を目の前にして、ツェルトでもう一泊するという選択肢は、もはやなかった。相談するまでもなく素泊まり決定。

■ 3日目 8/24(月)
晴れ時々曇り。今日もまた雨には降られなかった。奇跡としか言いようがない。
私は雄山に登ったことがなかったので、玉田さん、武さんとは別山乗越で一旦分かれ、単独で雄山へ向う。
雄山山頂で500円を払う気などまったく起きず、山頂は眺めただけ。室堂まで駆け下りた。
このチンネ左稜線を登るにあたり天候を最も心配していた。まさか、3日間晴れが続くとは思っていなかった。
ロケーションといい、スケールといい、日本を代表するアルパインルートだというのは、うなずける。
ルート自体の難易度は高くないが、登攀能力はもちろんのこと、体力、アイゼンピッケルワーク、ルートファインディング、様々な力が要求される。一生に一度は登っておきたい素晴らしいルートだと思う。
武さん、玉田さん、どうもありがとうございました。

■ 日程 2009年8月22日(土)
10:00 室堂
12:05/12:30 別山乗越
13:00 剱沢小屋
14:25 長次郎沢出合
16:50 熊の岩
2009年8月23日(日)
4:00 起床
5:00 出発 (長次郎沢右俣)
6:00 池ノ谷乗越
6:50 三ノ窓
7:25 チンネ左稜線取付
7:50 登攀開始
13:30 チンネの頭
14:45 池ノ谷乗越
16:40 剱岳山頂
18:45 剣山荘
2009年8月24日(月)
7:10 剣山荘 出発
8:15 別山乗越
10:05 雄山
11:00 室堂

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