甲斐駒ヶ岳 Aフランケ 同志会左フェース

2006/7/27-29
玉田、横澤  横澤 記


久しぶりに”大きな壁”を登りたくなった。

僕のなかで”大きな壁’といわれて思い出すのが、3年前に裕さんと登ったAフランケ赤蜘蛛ルート。
3年前といえば、アルパインクライマー必携「日本のクラシックルート」に載っているルートを全部登りつくしたいと本気で考えていた時代のお話である(実は、今でもあきらめてはいないのだが。。。)
あの時、Aフランケ基部に降り壁を見上げた感動と、抜けたときの喜びはいまでも新鮮だ。
そんな思いを再び味わいたくて、夏休み調整中の玉田さんをムリヤリ誘い込み、静かな平日のAフランケを再訪した。
赤蜘蛛の次は同志会左と決めていたので、ルートの選択に迷うことはなかった。せっかくの2泊3日なので、奥壁左ルンゼも登りたいと欲張りなことを考えていたのだが、やはりAフランケは甘くなかった。

初日は長い長い黒戸尾根を登って8合目まで。
岩小屋はしっとりと湿っており快適とは言い難い。テントを担ぎ上げた甲斐があるというものだ。が、寝袋を軽量化しすぎたためか、緊張のためなのか、あまり良く眠れなかった。
翌日は微妙な天気予報。午前中は晴れ予報だが、少しずつ下り坂らしい。
なるべく早く抜けることを目標とし、太陽が雲間から上がってくる中、Aフランケを目指して樹林帯を下っていく。
途中早めにトラバースしすぎて岩壁に行く手を阻まれたため、懸垂下降を交えて、Aフランケの基部にたどり着いたのは07:00ごろ。

玉田さんが同志会右の真下で水を補給している間に、赤蜘蛛の取り付きから、ポケット双眼鏡でルート全体の確認をする。
最近、山行にポケット双眼鏡を持参している。
アルパインでは、取付きが分からなかったり、ルートが不明瞭なことがおおいからだ。
トポを片手に双眼鏡で岩を追っていくとルートの全体像がよく把握でき、ルートファインディングをミスることも少なくなり、安全性が向上すると考えている。

が、その成果が生かされず、いきなり取付きを間違える。
途中でザイルを結んで、高度感?のあるボロイ草付のバンドを左上。やがてビショ濡れのスラブが目の前に現れた。ここが1P目のⅤ級フェイスか?と思い込み、登攀を開始したものの、悪すぎて前進不能に陥る。上方の立ち木に先人が残した「スリング+ビナ」の敗退セットを発見。素直に利用させていただく。
ロワーダウン。
・・・フリーが上手じゃなくて良かった。ここで突っこんでいたらひどい目にあうところだった。
「ガスにまかれたから」と、言い訳してみるが、『「Aフランケの左端」を意識し、左へ詰められるだけ詰めたこと』が原因。しかも、けっこう踏まれているのでご注意を!

結局取り付きば、A字ハングの真下あたりで、スラブ下に木が生えているところ。
間違っても左に詰められるだけ詰めてはいけない。2時間も右往左往したあげく、ボロイ草付を頼りに、スベスベの一枚岩を斜め懸垂しなくてはならないハメに陥いるので。
今度は双眼鏡で何度も確認し、9時45分に登墓開始。

1P:下部にピンはなし。ランナウトしながら細かいスラブを登っていくとリングが点々と現れる。
細かくて難しい。残念ながらボルトを踏まさせていただきました。
2P:バンドを素直に左上。
3P:目の前のハングをA1で超え、ピナクルテラスまで。最後のフリートラバースが絶妙。
4P:やや短いピッチ。カンテのトラバース前まで。
5P:くずれそうなバンドをトラバースして、凹角をひたすらA1。立ち木まで。
隣にビバークできそうな立派なテラスあり。
6P:短いピッチ。草付をトラバース。クラック下まで。
7P:下部クラックをフリー・・・といきたいところだがA1交じりで直上。上部のクラックはピン間隔も遠く力ずくのフリー。A字ハングが大きく張り出したテラスでビレイ。
「鬼蜘蛛ルート」とは、ここから、このカンテを回り込んでいくのか、、、
早速、「近い未来に登りたいルートリスト」より削除する。
8P:ビショ濡れのA字ハングをのっこし。支点は近くて利きもよい。
9P:濡れたスラブ。ビショビショで非常にいやらしい角度。カムを突っ込み、叫びながら抜ける。
今回で一番怖いピッチだった。
10P:ぼろい壁を回り込み。A1で凹角を抜ける。

二人が抜けたのは18時45分。レーションも食わずに登り続けて約9時間かかった。
時々濃いガスに包まれたものの、天候に恵まれていたことが幸いした。
このルートでは途中敗退しようにも、懸垂下降もひと苦労しそうである。
終了点から8合目のテントに戻ったのは20時30分。長い一日が終わった。
翌日、左ルンゼを登ろうと思う気力はすっかり萎えていた。

同志会下フェースをひとことでいうと「登れば登るほど難しくなるルート」。
情報もそれほど多くなく、アルパインの本来の楽しさが詰まっていた。
残置ピンを追った人工が主体ではあるが、ピリリと辛いフリーが混じり、先を読みきれないプレッシャーとあいまって、最後まで緊張感が継続する。
ここにルートを見出し、単独で開拓した先人に敬意を表する。
取付と1P下部以外は、ルートは明瞭でピンも多く、ルートファインディングは問題ない。
各ビレイ点は利いていて安心。が、フリーで大墜落した場合はもちろん「?」。

Aフランケへは自分の実力を確認する場所として、時々は再訪したい。
が、このままでは、AA(アメリカンエイド=ネイリング)やフリークラックなど難しいルートだけが残っていくことになるので、相応の技術を身につけなくてはならないなぁ。

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