八ヶ岳阿弥陀岳北西稜

2003/2/8
メンバー:坂口(L)、横澤、中西  中西 記


2月7日、週末の天気は下り坂とテレビが繰り返しているのに、ほんとに行くのかなあと思っていたら、午後7時すぎ坂口さんから電話がありました。「行く?どうする?」「中止ですかぁ?」「う~ん、どうしよう」「パッキングしちゃったんで、いまさらどっちでもいいんですけど」「えっそうなの?じゃ、とりあえず行こう」うにゃうにや言ってたわりにはあっさり決まり、午後11時八王子駅に集合して「でもさあ、どこいくぅ?」
2月8日午前2時すぎ、美濃戸口の駐車場に着いたものの、美濃戸山荘へ通じる林道入り口にロープが張ってあって進入できません。しかたなく駐車場にテントを設営してごろごろしながら検討した結果、「じゃあ、明日は荷物を置いて北西稜へ行こう」ということになりました。つまり、日帰りで登っちゃおうってわけ。
午前6時半起床。朝食を食べて出発の準備をしていると「さっさと起きて!」とテントをゆするやつがいる。駐車場の管理人のおじさんでした。すっごくヤナ感じ。テントをかたづけて身支度を整えていると、またやってきて「ほら、早くどいてどいて」。まだ駐車場には空きがいっぱいあるのにやたらとせかされて、すっごくすっごくヤナ感じ。
ちょっとぶうたれながら7時10分に出発。美濃戸山荘で休憩してから行者小屋方面に入り、南沢出合いを過ぎて少々きつい登りが終わると広い草原にでました。真っ青な空に八ヶ岳の稜線がくっきり映えます。なんて気持ちのよい朝でしょう。やっばり日頃の行いがいいせいかしら。清く正しく美しく生きているおかげね。ふたつめの樹林帯のまんなかあたりに北西稜へのトレースがあるはずです。が、先頭を歩いていた中西はとばしすぎて通り過ぎ、坂口さんに呼び止められてあわてて戻るはめに、、、「あ、どうもどうも」なにしろまっすぐな性格なもんで。
ここで少し休憩し、わかんをデポして小ピークめざして登りに入りました。雪は深いのですがしっかりとトレースがついているので、ラクチン。と思ったけどこりゃ大変だわ。一足先に出発した横薄さんはすでに姿が見えません。急な樹林帯のせまい木々の間を枝を払いながら、登れども登れどもピークは見えずじっと前を睨む。やっばりまだか。
10時半、ようやく小ピークにつきました。あれが北西稜ね。あいかわらず澄み切った青空を背景に、三人は雪の上に仲良くすわって準備をしました。最初の1ピッチは簡単な雪稜を登ります。横澤さんが先頭で、中西、坂口さんと続きました。次の小岩峰は右の草付きから巻き、雪稜を1ピッチ進むと短い垂壁の下部に見晴台じゃなくてビレーポイントがあります。「すいません、靴の紐、結びなおしていいですか」なんて言い出す中西に、「いやあ、いいねえ、やっば雪山は最高」と雪景色を堪能している坂口さん。そういえば、リードの横澤さんはなにやら時間がかかってるみたいだけど、どうしたのかなあ。しばらくしてビレー点に着いたようで、登っていいですよという合図がありました。お
そるおそる草付きバンドをトラバースして草付きフェイスの取り付きに着くと天の声が聞こえてきます。「ちょっといやらしいですよ」。げ、こわいじゃん。
パイルをザクザクぶっさしながらひいひい登る。「お、落ちそう」とつぶやいたとき、横薄さんの顔が一瞬ひきつったのを私は確かに横目で見た。
その次のピッチでは、支点が悪いので「中西さん、そっちで待ってて」と坂口リーダーの指示がありました。左頭上にあるピンにセルフをとっておとなしく待機したものの、その場所からふたりが登った凹角にトラバースするのがちょっとこわい。しょうがないのでそのまま真上のリッジを登ることにしました。「だいじょうぶですかね」「セカンドでトップロープ状態だから」というふたりのひそひそ話が上のほうから冷たい空気に乗って聞こえてきます。くやしいので思い切りリッジ上を登りました。
さて、切り立ったナイフリッジに立つと、高さ5メートルくらいの垂壁が目の前に現れました。これが第一岩壁だ。AOの核心部だがね。とりあえず岩壁直下のビレーポイントまで行き、どこから登ろうか。記録では左側とあるし残置シュリンゲも見えたので、左のルートを登ることになりました。横澤さんが「行きますっ。いきなり、いやらしいっす」垂壁には残置シュリンゲが2箇所。それを使って左側にトラバースした様子ですが、そのあとは見えません。さすが核心部!リードに時間がかかっています。中西のためにお助けひもとお助けアブミもセットしてくれた模様。おまけに、セカンドの坂口さんが「どうしてもこわかったら残置してきていいから」といってくれたおかげで返ってびびったりして。ひとり取り残された中西は「シングルポイントかあ」という坂口さんの声にますます不安が募る。
さて、いよいよ中西が登る番。固くしまったシェリンゲを解くだけで緊張してしまうわ(あとで聞いたら残置でした)。おそるおそる岩を登り、トラバース。こ、ここをトラバース?切り立った岩稜帯が果てしなく落ちてます。ええいっと残置シュリンゲに身を預け、次のヌンチャクにつかまると、すっぽり切
れた岩と岩のすき間をまたいでお助けアブミに足をかけました。すっげえこわいよぉ。それにしてもアイゼンがじゃまくさいなあ。岩にぴったりくっついたプレートアブミと格闘していると、「それどころじゃないと思うけどぉ、こっち向いてぇ」。さ、さかぐちさんがカメラをこっちに向けている。そんな余裕
があるかいなと思いつつも、しっかりⅤサインをしてしまう私はやっばり日本人。こんなとこよくリードするなあとせまい雪棚に這い上がると、横澤さんがロープをたぐりながら「なかにしさんにプレゼントがあります」と謎の発言。指輪のプレゼントならいつでもいただくわ。「この先に真新しいアブミが残置してあるんですよ。シェリンゲをかけておきますから、それを使えば回収できます」つまり、私にアブミを拾っていけっていうわけね。よっしゃ、もらった。
次が実質的な最後のピッチとなります。「いってみなけりゃわからない」ってことで、横薄さんが果敢に旅立ちました。「楽勝で~す」ほんまかいな。中西は半信半疑で登り始めました。最初の一手がちょびっと大変でしたが、そこを抜けると5メートルくらいの凹角の岩場にハーケンがいっばい打ってあり、最後の岩にはアブミがかかっています。ははん、あれがプレゼントしていただく残置アブミね。でも、意外にてごわい。「シュリングに完全に体重をかけてるんですよ」と、またまた天の声。おお、とれたとれた。やせ尾根のような岩に手をかけると、坂口さんと横澤さんがコンテの準備をしています。「あのう、私まだ終わってないんですけど、ビレーしてくれてます?」 岩稜の終了点から便斜のゆるい雪面をコンテで登ると、御小屋尾根にでました。なんか見たことあるなあと思ったら、つい1ケ月前に広河原左俣から登って下山に使った尾根でした。午後3時50分。「おつかれさまでしたあ」摩利支天のピークを越え、阿弥陀岳頂上にでたのが午後4時ちょうど。あいかわらず抜けるような青空です。中岳沢を駆けるように下山し、充実した登攀のあとの心地よい疲れを感じながら美濃戸をめざして歩きました。そして、樹林帯を抜けるころ日が落ちて粉雪が舞い始め、ヘッデン点灯山行記録更新となったわけであります。
途中、美濃戸山荘で乾杯したビールと麦茶のおいしかったこと!ストーブの前で眠りこけている猫にもおすそ分けしたいくらいでした。にゃあ。

美濃戸7:10→取付10:30→稜線15:50→阿弥陀岳頂上16:00→美濃戸口19:10

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