甲斐駒ヶ岳 赤石沢奥壁ダイヤモンドフランケA 赤蜘蛛ルート

2002/10/12~14
メンバー:山本(裕)・横澤  横澤 記


アルパインクライマーを目指すべく入会した「クラ」。と、時を同じくして、山と渓谷社より出版されている「日本のクラシックルート」という本を購入した。その中で最も僕の魂を熱く揺さぶったのが、この「赤蜘蛛ルート」だった。赤蜘蛛ルートのページを開くたびに飛び込んでくるクライマーの世界に、胸の奥がキュっとやるせない気持ちになった。
ゲレンデ(天狗岩)での練習から、屏風-ダイカンを経て、今年の人工登攀の総仕上げでもある赤蜘蛛ルートへの挑戦。「果たして自分にやれるだろうか?」と不安を抱えつつも、裕さんと気合バッチリで、森高千里をBGMに甲斐駒へ向かう。駒ヶ根神社の駐車場で車の中で仮眠を取り、翌朝、8合目を目指して黒戸尾根を突き上げる。それにしても長い。黒戸がこんなに長い尾根だったとは、、、早くも気合がそがれる思いがした。
7合目の小屋で入山状況を確認したところ、赤蜘蛛へ3パーティとのこと。多々ルートが引かれているAフランケでも、やはり赤蜘蛛は人気ルートのようだ。Aフランケの初登ルートというだけにやはり皆思い入れがあるのだろうか。しかし、こんなに天気のいい3連休に入山パーティが3組だけとは。勿体ない話である。
7合目の山小屋で、蛇口からジャンジャン出ている水をペットボトルに詰め込むと、更に重くなったザックを引きずるように8合目を目指す。日が傾き始める前にようやく到着。
Aフランケ初挑戦のため、翌日の下降ルートをちょっと下見に行く。終了点の岩小屋おぼしきものを発見し、「結構近いなぁ」と、早々に引き返す。が、翌日大いなる勘違いしていたことが判明する。実際の終了点はかなり下の方にあった。明日のことを思いながらドキドキして早めにシュラフに入るも、隣のテントがうるさくて眠れない。赤蜘蛛の前祝いなのだろうか?やれやれ。
翌朝、5時40分に8合目を出発。まだ夜が明けきる前にかすかな踏み跡を辿って下り始める。懸垂をしたりFIXを伝って下ったりして、7時15分ころ取り付きに到着。しかし、先行の2パーティはすでに到着済であった。初めて見上げるAフランケはまさに岩の楽園。圧倒的な岩壁の存在感ただただしびれた。
1パーティ目が登っているのを見ながら登攀準備をする。うーん。その1パーティ目がなかなか進まずに手間取っている様子。3番手の我々は結局ずいぶん待たされて、8時40分に登攀開始。
1P(30m) 横澤 「最初の1ピン目が遠い」。記録ですでに読んでいたはずであったが、想像よりもずいぶん遠かった。その後は、何度かアブミの1番上に乗る程度のかけかえを繰り返し、順調にビレイ点へ。と、早速先がつかえている。ここでも30分の順番待ちとなる。
2P(20m) 裕さん トポでは40mであるが、ロープの流れを考え、クラック手前できる。
3P(40m) 横澤 一直線に伸びるきれいなクラック。そのスケールに圧倒される。実際登ってみると快適というよりも、むしろ怖い。岩の迫力に完全に飲まれてしまった。もっとジャミングを練習してくればなぁと、所々ヌンチャクをつかみながらA0交じりで越える。後半、人工セクションへ移行するが、ここは安心して進むことができた。
4P(40m) 裕さん V字ハングを左から越える。ピンがそこそこ遠く、途中で微妙なフリーの交じる良い感じのピッチ。12時15分。大テラスに到着。
大テラスにたどり着くと、核心部(6ピッチ)の垂壁クラックが視界にとびこんできた。「えっ?ここを行くの?」というのが正直な感想。垂直な岩壁に走る一本のクラック沿いにへばりついているクライマーがジリジリ上がっていく姿を見ていると、みぞおちあたりにニブイ痛みを感じる。リードの裕さんはどう感じていたのだろう?
それにしても、相変わらず先行の1パーティ目がなかなか先へ進んでくれない。2パーティ目もイライラしながら6ピッチ目が空くのを待っている。6ピッチのビレイ点は完全なアブミビレイとなるため、先行が空かないことには先に進めないのだ。仕方がないのでしばし昼寝。大テラスでのビバークも考えたが、暗くなる前になんとか抜けるだろうと、覚悟を決めて突っ込むことにする。
2時10分 よーやく登攀再開。(約2時間待ち!)
5P(15m) 横澤 ホールドの豊富な5ピッチ目をこなし、垂壁下へ。トポよりかなり短い。
6P(25m) 裕さん いよいよ核心部。ボルトラダーのアブミから、フレンズをかませてのアメリカンエイド。ピン抜けしている個所に、#0.75×2個所と#1.0×1箇所をセットして突破。途中残置フレンズや切れそうなシュリンゲが、過去の記録通りにぶら下がっている。
人工登攀はやはりセカンドの回収が時間短縮の鍵を握る。特に決まりすぎたフレンズの回収がうまくいかず苦労した。アブミを使ってカムのピンを押し下げる時に、力みすぎたあまりプラスチック部を破壊。すみません。ヒーヒーいいながら、長時間のアブミビレイでシビレを切らした祐さんに合流。ピリリと辛いピッチであった。
すでにセットしてあるカムにアブミをかけて登るのだけでも怖い。リードはどんな心境で突破したのだろうか?正直このピッチは、祐さんに登らせてもらったなぁという感想。
7P(40m) 横澤 恐竜カンテを越えて、ボルトラダーを進む。なぜかピン間隔が遠い。それにしてもすごい高度感で、赤蜘蛛中1番の気持ちいいピッチ。じょじょに日が傾き、山の向こうに隠れていく。静かできれいな景色が続く。
8P(30m) 裕さん 終了点が近い。森の手前へ。
9P(40m) 横澤 木登り。重いザイルを引きずって終了点直前へ。
17時登攀終了。ぎりぎりセーフ。暗くなる前になんとか終了点到着。裕さんとガッチリ握手を交わす。うーん。充実。
終了点が下見の時と違うことに気が付き、ガッカリしながら急登に喘いで登り返すこと1時間。へ電の明かりを頼りに8合目に到着したころには、甲府の夜景がきれいに見えていた。
順番待ちが核心となるとは思わなかったが、思い入れが強かった分、やり終えた時の感動も強い登攀となった。気力・体力共に全て出し切った登攀に、満たされてシュラフに潜り込み幸せな眠りを貪る(祐さんは夜中、動物の鳴き声で眠れなかったらしいが。。。)
翌日、晴れ晴れした心境で黒戸尾根を下る。が、相変わらず長い。途中5合目から黄連谷への道を確認するも、今年は行くことができずに終わってしまった(来年は絶対に行きます)。それというのも赤蜘蛛ルートへの思い入れが強かった分、終わった後にすっかり力が抜けてしまったのだ。赤蜘蛛を登った幸福感にしばらく浸りたかったのかも知れないし、当面の目標としていたルートが1年目で登れてしまった幸運と、今後どうしようか?という狭間で揺れていたのかも知れない。
とりあえず今度は「核心部をリード」するために再訪したいとも思う。
赤蜘蛛ルートが僕のアルパイン初年度のベストクライミングであったが、いつまでも思い出に浸っているわけにもいかず、そろそろ次のステップへ移行しなければと思う。しかし、魅力のあるルートを探すのは簡単ではない。

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