冬合宿 前穂北尾根を終えて

1997/12/27~1998/1/1
メンバー:坂口・福地・中舘・臼井  臼井 記


坂口「今度の合宿は、前穂北尾根でもやろうか。」
これは、11月某日PUMP2の帰りに寄ったラーメン屋での話しである。半分本気にしていなかったが、トントン拍子に話しが進んで‥‥・・・・・。

12月27日(晴)
11:50発、松本行き高速バスに乗り、新宿を出発。松本に着くとククシーの運転手の方から交渉してきた。なんでもこれで今日の仕事は終わりだから中の湯まで1万2000円で行ってくれると持ちかけられ、それではと、タクシーに乗り込む。(なかなか調子のいい運チャンだ。)中の湯に着いて登山届けを出し雪の状態を聞いて16:30出発。釜トンネルを出て、「やっぱり雪がないね。」「春より少ないんじゃないの。「これなら雪崩の心配もないね。」と、言いながら18:00上高地バスターミナルに着いた。今日は、ここで幕営。見上げると満天の星空、都会では見られない星空に暫し見とれていたが、ここで問題発生!なんと水が出ないのだ。ここに来れば、水は出ていると見当をつけて水を持っていかなかったことが、裏目にでてしまった様だ。「梓川に水を汲みに行こうか」と、いう意見も出たが結局雪を溶かして水を作ることに決定。こんなことなら中ノ湯で入れてくれば良かったと少し後悔した。

12月28日(晴時々雪)
6:50バスターミナルを出発して明神・徳沢と過ぎ、9:40パノラマコース入口に着く。先行パーティーのトレースがあったのでそのまま進む。三つめの堰堤上で慶応尾根に取り付こうとしたが、取付がザレていたのと雪が少なく安定していたので沢筋に登ることにした。しばらく登ると夏道との分岐に着きそのまま沢筋に登るか、夏道に行くか迷ったが、もし何かあったらマズイからと夏道に進む。そのうち、後から6人パーティーが追い着いてきてお互いにラッセルしながら、12:55慶応尾根との横断点に着く。6人パーティーは、今日の行動は此処までと言うことなので我々は、八峰の頭に向けて出発した。
いきなりの急登となり、安定した場所で全員アイゼン装着。2,400m付近で、かなり疲れが見え始め無理して行動するよりはと、八峰の頭、手前2,500m付近のピークで行動中止となった。幕営している時に3パーティーが、八峰の頭を目指して通り越していった。やはり、ここは人気ルートなのだ。かなりの人数が入山しているものと思われる。
しかし、中館さんの体力は大したものだ。全然ペースが落ちずに登って行く。何処に、あんな力があるのか不思議だ。

12月29日(晴)
今日は、朝から快晴だ。でも、天気予報では今夜から下り坂だと言っていた。出来れば、前穂頂上まで行ってしまいたい。
6:55出発。7:30八峰の頭に到着。いよいよ、ここからが本番だ。目の前に岩稜が続いている、いくら雪が少ないとはいえ冬山だ。かなり緊張してきた。気合を入れて進む。七峰は難なく透通。六峰の下りでザイルを出し、それを手がかりに下降。ラストの福地さんが、懸垂でザイル回収。
9:30五峰取付、坂口さんトップ。中館さんが、アックスビレイで確保。右側をトラバースして雪壁を直上。ピークでザイルを固定し、後続はユマーリングで登る。途中、G登攀の2人とすれ違うが、何でも三峰まで行って引き返して来たということだ。四峰を通過して、いよいよ核心の三峰だ。先行パーティーが2パーティー取付いていたが、ビレイ点は空いている。でも、何かおかしい。夏と雰囲気が逢う。
12:00三峰取付、坂口さんトップ。1P目左左上しテラスでザイル固定。中館さん、臼井がユマーリングで登り、そこでもう一本のザイルを出し、ルートを廷ばす。
2P目中館さんトップ。雪壁を直上して、三峰の頭でザイル固定。その間、臼井か福地さんのビレイをして登って来るのを待つ。坂口さんは、ビレイ点にザイルを固定しユマーリングで登る。そのあと、臼井も福地さんを待ってユマーリングで登る。
意外にあっけなく登ってしまった。雪で核心部が埋もれてしまったのだろうと思った矢先、「あれっ」突然大きな岩峰が、目の前に現れた。そうだ、ここは三峰じゃない四峰なのだ。ルートが三峰と似ていたため勘違いしてしまった。(何てことだ)
ちょっと気落ちしながらも、三・四のコルに下り一息いれる。順番待ちもなく四峰の登りと同じ順序で、14:20三峰に取付く。本当の核心はここだ。
1P目、坂口さんトップ。左にトラバースし、凹角を直上してチムニ一入口前のビレイ点でザイル固定。後続はユマーリングで登るがやはり夏と逢ってアイゼン・手袋の登攀だ。なかなか難しい。その上、中館さんが何か喋りながら登っている。何を言っているのか分からない。ゴチャゴチャ言っているから遂に、臼井も切れて言い合いになってしまった。上と下で待つ坂口さんと福地さんには、いい迷惑だったろう。(申し訳ない)
2P目、坂口さんトップ。チムニーとなった凹角を、ザックの重みでのけ反りながら氷ついた岩を掴みピッケルを打ち込んで登る。凹角を登りきったテラスでザイル固定。さすが核心部だけに厳しい登りになった。三峰の頭手前の少しかぶった岩を、中館さんが空身で登り頂上の岩でザイル固定。後続はユマーリング。17:00三峰の頭に到着。
先行の2パーティーがテントを張っていたので、我々も幕営することにした。夜になって風が強くなってきた。天気予報通り天侯は下り坂に向かっているようだ。

12月30(風雪)
朝から雪まじりの強風が吹いている。8:00過ぎに先行の2パーティーは出発したようだ。我々も9:20出発するが、視界が悪く先行き不安を感じる。二・三のヤセたリッジに下り9:40二峰を懸垂下降。しかし、ザイルを回収するとき岩に引っかかってしまい福地さんがフリーで登り返し何とか回収する。その間に、坂口さんが本峰にザイル固定。10:20前穂頂上に到着。
頂上に着いたのは良いが、段々と強くなる風とガスでなにも見えない。状況が良くなるまでテントを張って、一時停滞することにした。先行のパーティーもテントを張っていた。しかし、回りにブロックを積んでいるので、今日の行動は中止なのだろうか。14:00まで待ってみたが、一向に天侯の良くなる気配はない。逆に悪くなる一方だ。我々も、行動中止を決定。
そうと決まれば、テントの回りにブロックを積み補強した。一応、当初の目的である北尾根が終わったという安堵感からか、状況が悪化しても何とかなるだろうと、いう甘い考えしかなかった。(この後、北尾根よりも厳しくなるとも知らず、呑気なものだ)
夕方頃から多分前線の通過だとおもうが、台風並みの風が吹きはじめる。テントが吹き飛ばされそうな程の風が、断続的に襲ってきた。風の合間をみて、他のテントでは補強をしているようだが、裕さんに借りたテントは、補強する必要が無い程しっかりしている。さすがだ。
その後、やや風がおさまってくるが、ここは福地さんに天侯回復のお祈りをしてもらおうと、冗談を言いながら眠りに就く。

12月31日(風雪)
福地さんのお祈りも通じなかったのか、今朝も天侯は悪い。でも、降雪量はさほどでもないようだ。昨日の強風で吹き飛ばされたのだろう。浜北労山の2人が出発した。我々も身支度をして状況が良くなるのを待つ。視界か若干良くなり8:55出発。高度計を合わせ、コンパスで方向を慎重に定め吊り尾根へと向かう。と、その時先行していた浜北労山の2人が返ってきた。視界が悪く戻ってきたというので、我々と共に行動することにした。踏み跡無き道を坂口さん先行で2,500m付近まで下り吊尾根のヤセた岩稜を進む。下降点と思われる所で、ぶなの会の4人と単独のお兄さんが追いついて来た。我々のザイルで全員が懸垂下降。
ルートを延ばす為、ザイルをラストのパーティーに回収してもらい先を進むことにした。依然、視界は悪く行く手は良く見えない。その中で、ルートを探しての前進は困難をきわめた。ペイントされた岩を見つけ夏道に出たことを知るが、急斜面の岩場の上に昨日降り積もったと思われる雪で、微妙なバランスのトラバースが続く。
しだいに、いつ滑落するかという不安に襲われて来る。と、その時、後の方で「あっ落ちた」と声がした。振り返ると福地さんがズルズル滑り落ちて行くのが見えた。新雪の為か10m程で止まって事なきを得たが、その光景を見てかなり動揺してしまった(後で聞いた話だが、同じ場所でもう1人落ちたらしい)
雪壁を登り、南稜の頭らしきピークに着くが前方にうっすらと壁が現れる。そんなことが3・4回あったあと、14:00南稜の頭こ到着。何故なら、そこに道標が立っていたからだ。一息入れ、後20~30分で奥穂の頂上に着くはずだ。最後の登りを一歩一歩踏みしめて行くと、前方のガスが晴れて見覚えのある景色が広がってきた。
14:20奥穂頂上の祠の前に到着。皆で握手をかわし記念写真を撮って、白出のコルを目指し下る。途中、雪壁となった斜面をダブルアックスで下り懸垂下降点で、浜北労山がセットしたザイルを使わせて貰う。約30mの懸垂(吊尾根での恩返しだと思うが、かなり待たされる。)
15:40山荘こ到着。テント設営時に、寒さのためかポールが折れる。ガムテープで補強しなんとか設営。テント設営後、冬期小屋を覗いてみたがまるで夏の最盛期の様な人数だ。よく、これだけの人がいるものだと感心する。あんなに狭く、足の踏み場所も無いところより、テントのはうが快適だと思うのだが。
それにしても、今日の行動時間だが約6時間半もかかっている。夏であれば2時間位の行程だろう。さすがに、冬の厳しい岩稜帯ルートである。視界が悪くルートを探しなからの行動は、冬山での総合力を試されるものだと実感した。

1998年1月1日(曇り時々雪)
「あけまして、おめでとう」と、新年の挨拶をし、今日で終わるのかと考えている時に、何か耳に異常を感じた。触ってみるとギョー
ザみたいになっているのだ。凍傷だ。昨日、悪天の中を目出帽もせずに行動したのがいけなかったのだろう。まぁ大した事もないので8:50出発。
今日も風が強い。強風の為、息苦しく何度も立ち止まりながら9:10涸沢岳に到着。いよいよ西尾根の下りだ。右手に槍ヶ岳へと続く尾根が美しいスカイラインを描いている。その中でも、滝谷の雄大な姿は感動的だ。何時かは、登ってみたいものだと思いながら慎重に西尾根を下る。 蒲田富士で一息入れ、急斜面の樹林帯を木に掴まりながら下り12:50西尾根出合の林道に出る。白出沢出合先の看板の所でアイゼンを外し、大休止。
小雪の降るなかを、新穂高バスターミナルヘ向けて出発。ロープウェー乗り場近くで、ビールを買い、14:25やっとバスターミナル到着。全員無事に下山したことを祝って乾杯。

あとがき。
今回の山行で、唯一楽しみであった食事だが中館さんの食当は最高であった。口はうるさいが、作るものは大変美味しいものでした。
海のものとも、山のものとも分からない自分をメンバーに加えてくれた皆さん、又自分のわがままを聞いてくれた会社の上司・同僚には、深く感謝しています。
この経験は、自分にとって大きな自信となり、これからの山行に役立つものと思いました。
「偏西風が戦士を鍛える」という言葉がありますが、この季節の山を楽しみ、更に厳しい山に取り組んでいきたいと思います。
最後に、良きメンバーに恵まれ最高の6日間でした。

雑感                     文責  坂口正季
山に行く動機はたくさんあったほうがいい。
今年も行って参りました、富山の寿司。昨年の北鎌隊の諸氏よ、あれはマボロシではなかった。山旅のラストに相応しいコースだ。今回の北尾根隊も大満足である。是非とも来年また行きたいものだ。
兎角、安さを追求する我々であるけれど、まあ、年に一度の散財だと思えば納得できる。風雪の中から新穂高温泉に下山して、ビール片手に露天風呂に入る落差は相当ゆかいなものだ。(個人的には一泊してドンチヤン騒ぎをしたい)「山」という「遊び」はここまで幅の広い楽しみを与えてくれるのかと実感できる。
高山までのバスで寝て、単線の高山本線でのんびり日本海の富山まで行くけだるい時間もまた良い。山から「生還」したこと、下山したら新年になっていることなど急変した環境に慣れるには、一時間ちょっと、さびれた駅のひとつひとつを車窓から眺めることがよい治療となる。
そして、その環境に適応した時、富山には我々の食「欲望」を十分に満たす「寿司」が待っているのだ。舌でとろけるような脂の乗った寒ブリと熱爛は下界のすべての欲望を象徴している。
また来年、これが主たる目標では当然ないけれど、山の楽しさを捜しにここへいきたい。今回の北尾根隊のみなさんお疲れ様でした。来年は硫黄尾根でも行くとするか?
新穂高温泉の入浴には露天風呂と檜風呂の中崎山荘へ。入浴料 500円(タオルも貸してくれます。ビールの自販機もあります)高山では土産物屋の裏、ラーメン大龍ラ ーメンー杯 450円。富山は「シネマ街」のアーケイドヘ突入すべし!奥のほうに小さいおでん屋、寿司屋あり。「寿司 晴」はおすすめです。
今回は別の寿司屋(店名忘却)に入りましたが、そちらもまずまず。

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