未知との遭遇・苦土川 井戸沢

1997/8/23
メンバー:小林・高橋・坂口  坂口 記


このあたりは熊がよく出没するらしい。エアリアマップにもそのことが地図上に大きく記してある。
熊にあったらどうしよう。死んだふりとか目を合せて睨むとかいろいろいわれているけれど、実のところ、その実相はどうなのだろう。熊が、これから皆さんの前に出没しますよといって出てくる訳ではないし、どういう状況下で遭遇するかで大きくその恐怖感も対策も変わるハズだ。
さて、今回の井戸沢ではこの熊に遭遇したのではなく、ご承知のとうりアオカン(漢字で書くと青空強姦の略?)に遭遇した。残念ながら山でアオカンに遭遇したときの対処法は熊のそれ以上に情報がない。UFOだって遭遇した時の対処法が本に書いてあるというのに。(もっともアオカンをしたことのある輩は嵓にもいると思うけれど)
井戸沢のルートは短い。この日、10時AMにはすでに我々三人は遡行を終え、たおやかな稜線を目指して歩いていた。青空の下、薮漕ぎもなく、まるでゆるやかな草原をつめているようだった。今年の夏合宿は穂高に行ったが天気が悪く、単に飯を食って、博打をしただけで終わってしまった。夏のくせに仕事もゴチャゴチャとあり、つまらなかった夏の憂さ晴らしにと心のリハビリを兼ねて、この東北の小さな沢にきたのだった。
まったく快適に遡行を終え、稜線に抜けた我々は、その場で休むことなくゆっくりと流石山山頂へとむかった。女体を思わせる程のなだらかな稜線を軽やかに進んだ。三人はあまり喋らなかったと思う。久しぶりの360度のパノラマで、眼前にはこの尾根と対照的に荒々しい那須茶臼岳が見え、噴煙をあげている。夏も終わりかなと思う風を感じて、この山行にきたことをうれしく思った。
問題のその未知との遭遇は、そんな我々三人が満足に浸っているその瞬間にやってきた。ゆるやかな尾根筋を一度、加藤谷川側に回り込んで、苦土川側に戻った時だった。
あっ!と思った。なんだ人がいるじやないか。やはり井戸沢の遡行者かなと最初は思った。(この間0,20秒)次になって状況がおかしいことにきずいた。その男はまだ私にきずいてないらしく、うつ伏せになり、下半身を空にさらけだしている。腰もユサユサと前後にゆれている。(この間0、25秒)
また、あっ!と思った。ハツキリとそれが何をしているのかがようやく理解できた。
こいつらアオカンやってやがる.....しかし、あまりに
急な遭遇に言葉がでない。休も金縛りにあっているようだ。やっと男が人の気配に顔を上げた。呆然と立ち尽くす私の姿が彼の目に入ったことだろう。突然、わあ~!と断未魔の悲鳴が轟き、男は空中に飛び跳ねた。その瞬間、息子もスボンと空を舞った。(この間。,24秒)
空に舞った男を不思議と思ったのか下に寝ていた女も私に顔を向けた。今度はキャ~!と甲高い声が山中に響いた。彼女は、お尻の出たまま半身になって、私に背を向ける。瞬く間にズボンをはいた彼は、あたふたと女を隠すように添い寝し、やはり背中を見せた。(この間。,50秒)
「どうしたの?」と一番後ろを歩いていた小林君が言った。まだ、彼は私の目の前がエデンの園状態になっていることにきずいていないらしい。私も金縛り?で後ろを振り向けない。
「いや・・・、アオカンやってんだ・・・」無表情の私が言った。
小林君がこの小さな声を聞き取れたかわからないが、私の側まできて、ようやく状況を把握したようだ。高橋君はあまり刺激が強すぎたのか鼻血を出しそうである。
さて、困った。一体このような状況下でどういう対処をすれば良いのだろう。今日一番の核心といえる。立ち止まっているのも危険だし、さりとて縦走路はかれらの位置から1メートルも離れていないのである。でも、進まないわけにもいかない。
度胸を決めて歩きはじめると、なぜかこの言葉が口から出てきた。
「こんにちわ」
山の習慣とは恐ろしいものだ。しかし、男も小声で言ったのである。
「・・・・・・こんにちわ・・・・・・」
一体なにが「こんにちわ」というのだ.お前ら!いい加減にしてくれといいたいとこであるが、無言で立ち去るのもいかにも後味が悪い。お互い別に何もしてませんよという合図みたいなものだ。

さて、流石山山項では先ほどのその緊張感が一気にほぐれ、ようやく笑えた。小林君、高橋君そして私の三人はニヤニヤした顔で大峠へと下った。
井戸沢にはアダムとイブがいたのでした。

1. 深山ダムから先は砂利道ですが、かなり奥まで車で入れます。四駆なら三斗小屋跡まで行ける。

2. 大峠からの下山は、三斗小屋経由と直接苦土川本流の橋へ下る道(後者は地図になし)があります。我々は後者を進みましたが、最後迷い、30分程本流を下りました。まったく問題ないので、完全に下降路として使うのも面白いかと思います。

3. 遡行は二つ目15メートルの滝の高巻きが少しイヤらしいが、左岸に踏み跡とハーケンにシュリンゲがぶら下がっています。よっぽどのことがない限りザイルはいらないでしよう。あとは問題無く、小さいナメがたくさんあってのんびりとしてます。ツメも明るい。

戻る

 

Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Google Bookmarks