冬のゴルジュ散策 大武川・石空川・南沢 ~広河原まで

1996/2/10~12
メンバー:遠藤・他2名 遠藤 記


ホラノ貝に魅せられて、冬のゴルジュ第二弾。まずは、行く先選び。情景を思い描く。ゴルジュ内に連続する釜と氷瀑。その側壁には、白く磨かれた巨大な花岡岩が欲しい。 すべてが雪の下では困るのである。結氷具合と積雪量の兼ね合いが難しいところだ。アプローチ、詰め、下降共に、雪崩、ラッセルなどあまりに未知数でないこと。何本かの候補地が、消去法で消えていく。情報を集約するに、最後のこれ1本も消えた。投げ出すこと幾度か、初志貫徹この沢となった。広河原までとし、エスケープルートを取ることとした(エッセンスはここまでで十分と判断)。
御座石鉱泉手前から右に分け、林道をチェーンだけを頼りに突っ込む。吹き溜まりの雪の中、ハイエースは身をくねらせて、ここまでで勘弁してくれと意志表示をする。林道脇にて、遅い就寝。
遅い起床。
車に感謝したのは、私だけだったのか、翌朝、車にエンジンがかかる。精神衛生上、まことによくないドライブを30分(歩いても同じくらい)、下山地点との合流点、かつ車乗り捨て最高到達点まで、たどりつく。三日後の下山日、気温は急上昇し、林道の雪は融け、快適に下る、という算段である。
とんでもない時間になってしまったが出発。左に分けた落石、倒木だらけの林道を、足首ほどのラッセルで、林道終点まで(車通行不能)。右下に、未踏?120m精進ヶ滝が樹林の中、垣間見える。水流の多さゆえ、結氷なかなかかなわずとあるが、遠からず、ハデな水音が、案の定聞こえる。今回は対象外。巻き道ルートに目を移す。雪に隠されているものの、踏み跡らしきものを所々感じつつ、たまに出迄う目印にうなずき、行けそうな所を拾いつなげ、河原を望むルンゼに出た(ルート図通り半円を描けばよい)。一本手前のルンゼで、少々下りを稼いであったので、60mくらいか、やや傾斜の強いナメをクライムタウン。早速ながら、ぱっくり口を開けた釜の縁に立つ。
雪でおおわれた真白い巨岩の塊が、氷結した釜の水平になだらかにおおいかぶさり、谷全体を構成する。その塊の中、鼓動する脈々としたものが、時折顔をのぞかせる。あくまでも、謙虚にトレースを付ける。
夏の、ケムシだらけのルート図、冬の大ざっぱなもの、共々、氷と雪の中に埋もれ展開される風景に浮かれる。
何本かの氷瀑を越し、何ということのない3m程の乗っ越しで、2人目が釜に落ちた。縁が崩れたのだ。
壁は一様に白いものの、水線を外れると、スラブたたきになってしまい、どうしても釜の中央寄りになる、と、釜にはまる。
胸近くまでつかっているその顔が、平常心に見えたのは、見降ろして、笑っていた者だけだったらしい。アイゼン付き立ち泳ぎの体勢だったと後で知る。無事ピッケルで救出。そういえば釜の色が違っていたっけ。「釜の水に注意」……書いてあるんだなあ……これが。
当人の淡々とした表情をよいことに、も少し。
切り立った幅広の側壁がせはまり、しばらくして二俣に着く。いや倒着と言い替えようか。
右岸には、夏のビバークに適であろう台地、流木の群、風をさえぎる巨岩が二つ。そのかたわらを、流れが、顔をのぞかせている。ここから夏は通過不能のゴルジュ帯の始まり。一も二もなく氷の床に天幕を張る。急に情けなくなったのか、釜にはまった当人、天幕にこもりっきり。そうだなあ。革の二重靴では、さぞかし時間がかかるだろう。
日も暮れる頃、クサヤの匂いで、やっと這い出て来た。
焚火には魚がよく似合う。

ここは沢の真っただ中。
火床の下は氷の川面。

こぼれ落ちた、おきがジューと消えて行く。ついでに乾かす愛用の靴もジューとこげ、真新しいヤッケに限って、ジューと溶ける。泣き顔に蜂とはこのこと。真冬の焚火は近づきすぎてちょっとばかりあぷない。V字峡の底、街の灯が、ポツリポツリと見え、その上V字の空間いっぱいに北斗七星が数えられる。知っている星でよかった。何年振りかなあ……。消灯。
真夜中、カモシカのお客様。岩陰のテントにびっくりして、急に走り去ったようである。朝方、テントの周りは縦横無尽、さまざまな動物の足跡が交錯している。

又してもゆっくりめの出発。
30m程上流の分岐。直接南沢に取り付く(ルート図によるとメンドクサイ)。雪をかぶった大木やら岩やらにはまりながら釜をクリアー。
石岩すばらしく、どでかい、おおいかぶさるような花岡岩の側壁。平行する氷瀑が谷全体に半円を描く。息を飲むようなダイナミックさである。夏、うねり抜ける水の塊が見えるようだ。呑気に、夏の遡行を思い浮かべながら落ち口まで、快適にバイルを振う。
段差のあるナメ状も少々あるものの、釜と滝というパターンが連続する。
巨大カタツムリのようなゴルジュを、S字にくねった所でちょっと悩む。広河原は、もしかして通過してしまったあの河原だったのでは!
一人くらい高度計持ってないの!
チムニーなんてどこにあった!
ヒョングリってどんなやつだ!
ええい、めんどうだ。行ってしまえ!

それでも氷瀑は続く。
側壁に垂れ下がるツララが、パイプオルガンさながら、陽に照らされ、ブルーに輝く。折りたたむように右に左に尾根が入り込み、終に払われ、出た。
谷が、でっかかったんだなあ。やはり少しホッとする。
水線は谷の右から左に大きく蛇行しているが、口が開いている。中州と思える、岩ごろの上、足、腰、引き抜きながら、ラッセルする。
水線に合流したところで、大氷原のへソに出た。地蔵岳のオベリスクを、チラリといちべつ。「遠いなあ」
視点を変えたら、こんな楽しみ方もあるさ。ステイ、ステイ。
快適そうな岩小屋が何箇所かあるが、ここはひとつ、そのへソに泊まるということで、やっと意見がまとまる。陽が落ちてからの、吹き降ろしの風の寒さといったら、はんぱでない。開放感をとったのが……。夏だって、雪渓の下はさげるのにねえ。焚火に向かう、表と裏の格差といったら、屋久島の山が吹雪、海はパパイヤに、ひってきするものがある。
「目で暖を取るしかないねえ」と、うらめしげに、視線はN氏に。あきらかにN氏の選択ミスである。ののしられた人間、窮地に陥り、「湯たんぼ石」を提唱した。北海道開拓民が愛用していた方法らしい。
適当な石を、囲りで焼き、手ぬぐいなどで包み、あとはふとんに入れてぬくぬくと。半信半疑。
ひと風呂分くらい、すぐにでも沸きそうな火の勢い、それに焼け石、イモ煮会の鋼。閃いたのである。
-ポットホール風呂-
魚のない今晩のサカナはこれだ。
まず、水流から取り残された、ポットホールを見つける。できるだけ新鮮なもの、ボウフラなどわいていないもの、かつ適当な大きさである事。あとは、焼け石をぶちこめばよい。
暮れ染む、夕暮れ時、チャッポーン。せせらぎを枕に……。釜男一人を見立てて、「暖かいわよー」
ドポーン。
「熱いわよー」
バシャーン。
調子にのって、
「熱力ン一つ」ってなところで、ブルブルっと。
寒さの限界が来た。水筒の簡易湯たんぼと、例の石をふところにシェラフにもぐり込む(本来ならカボチャ大くらい、私のは直径5cm)。
厚い氷の下、耳が下になると、水音がかすかに聞こえる。一晩中、この音を聞いていたような気がする。そう、寒くて眠れなかったのだ。
そこで朝、また閃いたのが、石オンドルである。ばかばかしいので誰も耳を貸してくれなかった。それもそのはず、ザックいっはいのシェラフなのだから。高イビキも当一然。
3日目の正直、ちょっと早く起きた。当初の予定通り、上部偵察。
しょっぱな出合から、フカ雪ラッセルで難儀する。2つ目の釜の巻きで、早々に戻る。
エスケープルートは明瞭、右岸1本目の沢。出台から水平に近い沢一面のナメ床がしばらく続き、やはりラッセルとなった。高差400m。谷幅もせまく、でかいのは来ないであろうが、これがしもざらめというのかなあ。しまりのない雪である。スラブとの接触も完全に拒んでいるのだ。少しデリケートに対応する。
傾斜も出てきた、ガレ場左の樹林帯に逃げ込む。驚いた野ウサギを見送り、10分程で登山道に合流。
後は富士山がどうだ、八ヶ岳がどうだとか言いながら、ひたすら下り、西ノ平で登山道と分かれ、左に水平道を7、8分、車の真正面に出る。
予報通り、ポカポカ陽気。路面ののぞいた林道を難なくクリアー。一路温泉へ。

ぼやぼやしていなければ1泊2日で十分でしょう。ザイルシングルOK。広河原泊が理想ですが、たどりつけなければ手前にも河原があります。車は四駆が安心です。魚は個装にしましょう。ノコギリがあればベターです(流木の径は30cmのがどろどろ)。
初心者は積極的にリードしましょう!
中級者はノーザイルでクリアしましょう!
上級者は精進ヶ滝からの完全遡行の記録達成を!

冬の遡行を、大いに楽しみましょう!

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