笛吹川東沢ホラノ貝ゴルジュ

1996/1/28
メンバー:遠藤・他2名  遠藤 記


年末年始の、お釣りが抜けきらず、何とも踏ん切りの悪さを引きずっている折、ハイキングならと、誘いに乗る。というのも3年ほど前、ゾクッとした、あの場所だったからだ。(大薮宏の文とイラスト)節操なく山行を重ねる私にしては、珍しく、いいタイミングだった。が、相変わらす出がけは、やめちゃおうか、と思う程うっとうしい。
いいだしっべの人+1は、ビデオにカメラ数台、どうも1本のストーリーにまとめたいらしい。勝手にやっていただこう。従ってゆっくり、ゆっくり、これがいい。

-アドバイスが2つ-
甲府市の最低気温が-8度前後を続けている事。今年の冬は、冷え込みはまあまあというものの、寒波の周期が短く、間の悪いことに、この週末は、過ぎ去った後だった。
もう一つ、ライフジャケット、浮き袋、どちらもノンクリアー。装備はザイル9mm50、20各1、ハーケン計8、アイスハーケン5、、、、
案の定、冷え込みはきびしくない。清兵衛のすぐ先、丸太橋がホラノ貝の出合である。そこから笛吹川に降り立つ。うっすら積もった氷上の雪の上を、おそるおそる、すり足で進む。一人目が、足を踏み込みかね、「オオー」と突っ立っている。 2人目、3人目も、ズリズリと、巨貝ホラノ貝の入り口に立ち、「オオー。」運良く?パンパンに膨らまさせて書かれている大薮宏以上に、ここから先わざわざ、何を書くこともなかろう。 しかし、そこが沢のおもしろいところ。吸い込まれるように、対岸の突っ張りで樋状を進み、落ち口釜の左端にできた、1畳ほどの河原まで行く。エメラルドグリーンの釜と、それをおおいかぶさるようにくねるなめらかな白い巨岩のコントラストに、淵に張り出したガラス氷、その先に続く氷瀑がアクセントをそえ、スペインの巨匠ガウディの芸術を見るようである。
釜の向こうの水爆まで、水面に揺れるガラス氷が、この季節ならではの道であったはずなのだが、、、、。左岸側壁、張り出し巨
岩手前端の上に、シュリンゲ1本。向こう端(氷瀑取付の上〉 にボルト、ハーケン各1。この間(4m位)を1本のクラック?がつなげているのだが?
アイゼンに火を飛ばせ、シェリンゲまでと、試みるが、虚しいほどツルツルである。ピッケルにザイルを結び、シェリンゲ目ざして投げる事十数回、0K。
巨岩に張りついた、耳垢のような人間がモゾモゾ横いちに動いて行く。タメ息混じりの、火花を散らせながらタメ息に答えるように、「980円のベビープールさえあれば、どんぶらこっこで楽勝なのにねえ!」「いやうちのは780円だった!」と耳垢が叫ぶ。「じゃ持ってくればよかったのに!」「いやタライに竹竿の方が風情がある!」一寸法師それもよかろう。ハーケンを使い果たし、水爆下に吊り下げで降り立つ。数回バイルで、コツコツと登れば落ち口の上。
両岸、ますます狭まり、一応の偵察。何とかなるだろうと、フィックスハーケンのすべてを回収、先に進む。3m巾程の、廊下状の淵がくねる。両岸はあくまでもなめらかに切り立ち、今度こそ道は、淵の30cm程の張り出しの氷のみだ。
乳濁した色が透明に変わり、深いエメラルドグリーンに溶けて行く。淵が右にカーブする左側真正面、軟骨のように少し張り出した壁に、ボロボロボルト1本。ツルツルには、ボルトしかないか!心臓を射抜くような、いやな景色である。ボルト下まで、かぶり気味の壁の下、やや巾広の氷の道をはって進む。
その先、奥の細道、ハーケン1本を打ち足し振り子で、ここをクリアー。スクリュー2本で固定し、行きつ戻りつビデオを回す。1回クリアーすると馴れるもので、薄氷の下、淵の底深く沈む神秘的なまでの小石の美しさに、しばし見とれる。余裕である。その先、側壁がスラブに変わり、両側からなだらかな曲線を描いて、ジグザグに行く、U字溝に滑り落ちる。時折でてくるポットホールに、足止めをくらい、思考錯誤を強いられる。炭酸せんべいのような薄氷、こそ泥のようにすりぬけるしかない。時に大股開き。股下の風景に目をしばたたかせながら「ホイッ、ホイッ」かけ声をかけてわたりきる。尾根の形を、ひろうに、そろそろ開放されるのではという頃、又足が止まる。日当たりがよい分、結氷増々悪く、おまけに、南側はスラブのドボンである。ぐるりと見まわし、振り子の支点を4m程上の立木に求める。ザイルの先に、重りのカラビナをつけ、振り回す事?回。もう一つとどかない。2m程の枯れ枝を落下させたのみ、いいかげん、意を決して行く。
大股開きには巾がちょっとあり過ぎる。相変わらずガラス氷を揺すりながらとうとうと流れる溝。スラブに付着した、わずか25cmくらいの道を、アイゼンをほとんど斜めスラブにのり上げる型で置き、右手には例の枯れ木で、カウンターバランス。息を殺して1人目スタコラサッサと2人、3人と大胆になる。
傾斜も緩み、壁も遠のき河原が開けた。広く浅い釜が氷の円形舞台をところどころに提供している。美しい、大小の氷盤の上に、さまざまな情景を思い措く。とドキッ!岩影に人が2人。
こちら~「どこから来たのですか?」
あちら・・・「上からです」「どちらから?」
こちら川「したからです」
あちら…「谷沿いに下れますか?」
こちら…「ウーム、無理でしょう」
えらそうに言っちゃったものである。、もう午後もいい時間になっていた。

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