剣岳平蔵谷フェース上・下継続 IN 94夏合宿

1994/8/5~7
メンバー:桜井・本郷  本郷 記


8月5日(金)
今年も例年通り夏合宿は分散となり、本郷の日程の都合で剣へ桜井さんと2人で出かけることになった。
目指すルートは、平蔵谷フェース下部「中谷ルート」上部「成城大ルート」、チンネとした。
特に、平蔵谷フェースは山口さんから「素晴らしいダイヤモンド」と聞いていたのでかなり前から狙っていたルートであり、心に引っかかっていたルートであった。
今回桜井さんという願ってもないパートナーを得て意気揚々と東京を出発した。関越から北陸を経て、立山ロープウェーの駐事場に到着後、軽くビールを飲んでからテントで寝た。

8月6日(土)
今日は、剣沢までなのでゆっくり起きて室堂への直通バスに乗り込む。
パスの中でガイドから、またしても佐々成政の話を聞いた。(ピ~ヒャラ、ピ~ヒャ)室堂から見る剣御前は凄く上に見え、いやになるが、1時間半程で御前小屋に到着。明日、予定している平蔵谷フェースをパックに写真を撮ったり、ビールを飲んだりして過ごす。
ここから剣沢小屋までは、3。分程下るだけである。小屋に到着後またビールを買って昼寝を楽しみ、テントを張って前夜祭を行う。

8月7日(日)
朝暗ういうちにテントを出発する。雪渓の上は、ひんやり気持ちいい。剣沢は、暗くても、巻き道を覚えているので危険はない。
途中、キジを打ったりしていたので1時間位で、平蔵谷出合に到着する。(ちなみにキジは、ちゃんと人が通りそうもない所に打ちました。)平蔵谷フェースは、さらに15分程登ると右側に見えて来る。一応、壁から少し離れてルートを確認して6時に取り付く。

「平蔵谷フエース下部 中谷ルート」
1ピッチ目(本郷リード)
ザイルを付ける必要もない草付きを右上する。
2ピッチ目(桜井リード)
ここからが実質のルートと思う。左のコーナークラックと正面の人工ルートがあるが、我々は正面を登る。特に悪い支点もなく、約3。m程でバンド状のテラスヘ着く。
3ピッチ自(本郷リード)
カンテを左上気味に回り込み、さらに左上するスラブを登る。トポよりピッチが短く感じたが、25m程で切るのが正解である。これ以上伸ばすとザイルがこなくなるであろう。
4ピッチ日(桜井リード)
岩は堅く、快適なスラブで、大変気持ちいい。ルート中、このピッチが一番快適であった。ピッチグレードは、5級下に感じた。
5ピッチ目(本郷リード)
左へ大トラパースする。やはり他のパーティも恐いらしく、残置シェリンゲが多い。出だしのボルトが抜けており、1本目のハーケンまでは、5m程ランナウトする。やはり、トラパースということで、フォローの桜井さんの方が恐かったようだ。
6ピッチ目 (桜井リード)
ルートは左からカンテを回り込むものと右側の凹角を登るものがある。下から見ると右の方が簡単そうに見えるが、実際には凹角の出口がハングしており見た目より厳しい。
7 ピッチ目 (本郷リード)
このピッチが核心である。左から張りだした岩を回り込み、直上するとルートは3つに分かれる。
右は、赤茶けてポロポロで、左が人工ルート、正面がハングしたチムニーである。左か、正面かで迷ったが、正面のチムニーを登り出す。出口がハングしており、ザックに後ろから引っ張られるが、ホールドはでかいので豪快に登れる。 (5級位か)
しかし、チムニーを抜けた後が、右から続く赤茶けたポロポロ岩であった。ここから落石を起こせば桜井さんを直撃するであろう。
せっかく登ったのに、残念だが、クライムダウンすることにした。このクライムグウンが最高に恐かったが、途中で左の人工ルートに移ることができた。
しかし、この人工部分もボルト、ハーケンとも今にも飛びそうで気が抜けない。たまたま、アメリカンエイド用のアブミを持っていたので、全てチェックしてから乗り移る。だが、ハーケン同士で連結してあるので、抜けてもどこかで止まるだろう。
登ってみてやはり、右と正面のルートはほとんど登られていないと確信した。左の人工を抜けると、ハトの糞がたくさんあるテラスに着く。
さらに大岩溝を登るが、簡単なのだが、落ちたら2度と出てこれそうもないような不気味な岩溝であった。50mほぼいっぱいで、ボルトが2本あるビレー点に到着。
この5m下にもピレー点があるが、古いので、上のビレー点の方が良いだろう。上のビレー点もボルト2本なので、右の小岩峰にロープを巻いて補強する。
8ピッチ目(桜井リード)
大岩溝を抜け出し、剣ならではというリッジを登る。平蔵谷をバックに写真を撮ってもらう。
最終ピッチ (本郷リード)
トポでは右からフェースを登ってプッシュに入ることになっているが、なぜか左からまっすぐボルトラダーが続いているのを発見。
このラダー沿いにスラブを登りトラパースして、プッシュ帯に入った。この方が、安全だし快適である。

さて、この時点でまだ10時、上部を楽勝で継続できると思ったのが甘かった。トポでは、自然に継続できるように書いてあるので、そのままザイルを結んで移動する。
しかし、行けども行けども、それらしき壁がない。遠くにりっぱな壁がみえるので、本郷は「あれ本峰じゃないの」なんて言うし。よく考えたらここから本峰は見えるはずはないのだ。
桜井さんは「行きすぎたから戻ろうよ」とかいうが、「じゃあ、前に見える壁はなんなんだ」という話になった。
上部ルートは、たかだか5ピッチのはずなのに、どうみても7ピッチ以上はありそうだ。しかし、よ~く見ると、右上して肩から抜けると考えれば、5ピッチ位かもしれないと思えてきた。
そこで、ザイルをまとめ、靴を履き換えてこの壁に向かうことにした。この間、行ったり来たりで、2時間もロスしてしまった。さらに、連日のこの暑さで、2人はすっかり「へロへロマン」と「おじいさん」に変身してしまったのである。

「平蔵谷フェース下部 名古屋大ルート」
1ピッチ目(本郷リード)
時間をかなりロスしてしまったので、名古屋大ルートに変更。今度は、桜井さんが核心部を登るということで本郷が先にリードする。草付きの凹角で、やさしいが支点が少ないので慎重に登る。
2ピッチ目(桜井リード)
右のカンテに移り、3。m程登るとテラスに着く。ここで成城大ルートと分かれる。暑さと疲れで、やさしいピッチがやけにしんどい。
3ピッチ目(本郷リード)
下り気味のトラパース後、右上に見えるプッシュ目指してさらに右上する。何の問題もないピッチであった。
4ピッチ目(桜井リード)
名古屋大ルートの核心部である。初めは人工とフリーで左上し、ハングを人工で越える。この暑い中では、しんどいピッチであった。
ハングを越えた後は、左側にボルトが見えるが、右側のボルトから登って右のリンネに入るのが正解。桜井さんもかなり迷っていたが、このルートを見つけた。ルートファインディングの悪い奴だと、左へ行きたくなるところである。
最終ピッチ(本郷リード)
ポロポロのリンネ内を登るとプッシュ帯に入り、ザイルをいっぱいまで引いて行くと終了点に到着。熱い握手をかわし、上下完登を祝う。残りの水を全部飲み干して、源次郎尾根を下山する。

今回、平蔵谷フエースを上下継続することができ大変充実した気持ちになった。桜井さん曰く「赤石沢奥壁の継続に匹敵する位、価値がある。」そうだ。
特に、「中谷ルート」は、ルートファインデイングも難しく、かなり楽しめるルートである。
さらに上部へ繋げることで、14ピッチというロングルートとなる。しかも、そのピッチ内容はほとんど岩は堅く快適なクライミングとなる。
ぜひ、会のみんなに登ってほしいルートの1つである。

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