憧れの滝谷第一尾根

1993/8/13
メンバー:立木・遠藤・松元  松元 記


滝谷の第一尾根は昔から(学生時代)登ってみたい所だった。30数年前岩稜会が出した、穂高の岩場(今のルート写真集)を見ながら思いを巡らしていたルートである。
横道にそれるが、この岩稜会(井上靖の水量のモデルになった会)と言う会はすごい会だ。岩に登る実力は当然だが、30数年前に写真入のルート写真集を出したり、クライミングシュウーズの変わりに、そこの堅い地下たぴを利用したり、当時珍しいナイロンザイルを使っていたり、勿論AO等無い会である。
藷は元に戻るが、昨年もひそかに第一尾根とクラック尾根を狙ったが、雨の為横尾までであえなく敗退。
又今年も第一尾根とクラック尾根を登りに、11日夜さわやか信州号で中丸さんと新宿を1。時半に出発する。
12日3時頃涸沢で幕営も終りトランシーバーのスイッチを入れる。山口さんより奏さんと第一尾根を登攀終了との事。「え、えー」思わずトランシーバーを落としそうになる。奏さんと登る約束をしていたのに、山口さんすかさず「事情は後から」との事だが、今さら登ってしまったものを文句言ってもしょうがあるまえし、当会は人間関係を大切にする会だから、平静を装って「じやー明日はクラック尾根に」...
13日6時すぎに出発する。又例のごとく遅だちである。前日も1パーティに残業が出た。もう既に山本、成田組は暗いうちにドーム目指して出発した。
涼しいがともかくつらい北穂の登りである。前回はこの登りが嫌さな為東稜廻りにしたのだが、今回はさすが気が引けて「東稜廻りで行こうよ」とは言えなかった。
2時間半のガンバリであったが、「前日より早いピッチだよ」と慰めてくれたがバテバテである。
北穂小屋の前で身仕度をしB沢を下る。この択も狭く急で落石がひどい、特に怖いのがクラック尾根よりの落石で逃げ場所がなく、只々真っ青になりうろうろするだけで当たらないのが不思議である。(下野が肩に小さいのが当たったらしい)幸いな事に距離がC沢の半分以下な為助かるが、神経がすり減って登攀前に精神的に参ってしまう。山口さんがBCで「滝谷の登攀は北穂の登りが5割、B沢の下りが3割、残り2割が登攀である」と言っていたがその通りである。
今日は山口さんと奏さんとでクラック尾根を登る予定で来たが、内心は第一尾根にしたいのが本音である。ところがクラック尾根の取り付きより見た、ルートは凄まじい垂直の大岩壁である。「こりや-とても無理だ」 「違うよそれはP2フランケだよ、第一尾根はこちらだよ」「これならいける、今止めたら永遠に登れないかもしれない」迷う。
とりあえずオシッコをしよう。しなががら考えよう。第一尾根に向けているオチンチンが「行け行け」と上下左右に暴れ回る。「よし行く」第一尾根の取り付きにいる、立木、遠藤に大声で同行を求めオチンチンの収納もそこそこに取り付きに向かう。
1ピッチ目遠藤が取り付く、やさしい左上がりのバンド、2ピッチも3級のフェースだが隣のクラック尾根登攀中の山口さんから、「3叔だが結構難しいよ」と遠藤さんにコールがかかる。隣あわせのルートはお互いに、叱咤激励したり、競争したり、ルートを聞いたり声をかけながらの登攀は実に楽しい。
3ピッチメ核心部である。立木トップでアブミをぶるさげてチムニーの中に入って行くが、ザックがひっかかったりしてかなり苦労をしている。
さて私の番であるが、二つのアブミに全体重を架けてしまうと、体が空間に飛び出してしまいとても怖くて出来ない。立木、遠藤の両氏は空間に飛び出したほうが登り易いと言っていたが、なにも無理して体を垂間に出すことはないだろう。この二人の行動を見ていると、神経は鈍感で脳が正常値に達して無いのではないかと思う。最終ピッチに明らかにその行動が現れる。
本題に戻すが、右足をアブミに乗せ空間に浮かない様、左足をクラックに捩じ込み左肘とザックで支え、右手はグラグラなピンにぷるさがると、とりあえずは体が安定した。ただ足の爪先がちぎれる様に痛い。後は手がパンプする前に突破する短期決戦でいどまなくてはならない。と大袈裟に表現するが、実は難しいのは自分だけで立木、遠藤はさしたる困難度は無かった様だ。クラック尾根の奏さんから「早かったじやない」とひやかされる。
次のフェースもあまり問題は無いが、晴れていた空がガスり出し雨が降り出す。そうそうに雨具を着るが、立木は晴れて太陽が出ている時から雨具を着ており、遠藤は雨が降っても雨具を着ようとせず、寒い寒いを連発している。どうしても正常には思えない。幸いなことにすぐにやんでくれた。暖かさを含んだ岩が、見る見るうちに雨を乾かして行く。
クラック尾根パーティは既に登攀が終ったようだ。我々も最終ピッチとなったが、どういう訳か右に40mトラパースし2m直上し今度は左に40mトラパースした→↑←結局出発点の2m上に出た。どうもこの辺の行動が理解出来ない(人は脳たりんと言うが私は決してそうは思えない。正常に話も出来るし、感情も有るようだし)。
リッジを超えると、北穂のピークが40m先に現れる。既に登攀を終えた、山本、成田パーティ、下野、中丸パーティ、そして山口、秦パーティが我々の登攀終了を震えながら北穂のピークで待っていてくれた。ありがたいものだ、これも集中登山の楽しみの一つなのかもしれない。又第一尾根の終了点は北穂のピークと言うのも実に格好が良く気持ちが良い。
記念写真を撮り草々に涸沢のBCに向かって出発する。かってこの下りを10人近い変な連中と月明かりの中を下った事が有るが、今はまだお日様が照っている、これも立木、遠藤両氏のお陰と感謝している。

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