丸山東壁緑ルート

1993/5/2~5
メンバー:立木・遠藤  遠藤 記


不帰一峰尾根敗退  ’93.4.28~5.1 (立木・本郷・遠藤)

丸山東壁緑ルート   ’93.5.2~5.5 (立木・遠藤)
不帰一峰尾根をしあげるのに、直前の天気予報は完壁だった。年3回の合宿いやがおうにもホームにて気分はすでに盛り上がる。突然行けなくなった?下野氏のお見送り、ゆで卵をかじりながら、他1本のみならず3本目のルートすら欲張る3人だった。たまたま乗り合わせたおう年の泥酔クライマーを相手に笑いこける。昔昔その又昔アンナプルナに何百枚かのくさやを荷上げしたそうな。納得、納得、感心し、さらにくさい話しに耳をかす。そのおじさん、かじりきれない、技豆真空パックを残して下車、見えなくなるまでホームで手を振ってくれた。久しぶりの急行アルプス号、きゅうくつながらもふくらんだ気分のまま、ねむりに入る。
と大町に降り立った時はどしゃぶりの雨。待合室にて仮眠する気にもなれず、ウロウロ。
雨の中予定通り出発、文明の利器を乗り継いで9時、ガスの中ついにほおりだされた。八方尾根からホワイトアウトの中とりあえず支稜を下る。雨があられに変わり、気温は少し下り始めたよう。それにしても温かい。雪崩の音が響く。2~300mも下ったろうか、取付への方向すら確認ままならず、先行して下って行った立木氏が登りかえしてくる。結局下りの時確認の残置雪洞を少々押し広げ、ヤドカリを決める。お茶が沸く頃、あられが雪に変わり、入口が埋まり始める。まだ昼にも間がある。
結局停滞2泊となってしまった。
半ばやけくそ気味にウイスキーをチビチビ。そしてウトウト。私にとっては初めての雪洞、と、もの珍しいのも最初のうち。湿気でジメジメ、ガスをたいたところで、みな壁が吸ってしまう。バランドレをもってしても寒かった。
3日目、支稜下降開始。相変わらずのホワイトアウト。取付への方向がわからない。他3パーティ含めてすべて敗退。我々より下のパーティは雪崩の音に、上のパーティはぽ-るをおられ、較べれば音なし、風なし、快適な2晩だったと後で知る。ただローソクはつけっばなしで寝た。(いつ崩れるとも限らない)
よくある話し、八方尾根を下降するにつれて、天気は上向き。(稜線上に雪煙が見えるものの)途中、程よい斜面を利用して、2,3種のスタンディングアックスビレーなどやる。(エンドーのため)
それでも気分所在いたしかたなく、スキーで半日あそぶ。ここで2人の逃げ足の速かったことを納得する。(グリセードとスキーは基本かほぼ一緒のもの、楽しく滑る事。と、後日、本でも確認する)なにしろ下降中の2人のプラブーツはスケーティングをしていた。私のみ、シッティンググリセード。おかげでカッパが薄くなった。‥‥‥またたく間にリフト券が底をつく。最後のゴンドラに乗り込む。雪山ともしばらくお別れだ。対岸におこったブロック雪崩を、窓越しに、目で追う。スキーヤーがはしゃぐ。

「つっこむ」を連発していた、K氏の顔がなつかしく思われる。プレッシャーの溶けた今、安穏として、「はまってみたかった」などと、迷惑な思いか頭をかすめる。敗退という結果に終わってしまったが、それが非常に微妙なものであると、つくづく感じたた。
宙ぶらりんの気分のまま、「あずさ」に乗り込む。ゴールデンウイーク半ば前、当然のことながら登り列車はガラガラ。北アルプスの山々をなかめながら、しめったアルコールを口にする。天候不順敗退。山をやり出して間もない私にとってもけっして珍しい話しではない。しかし、背おった荷の重さか違う。免疫がない。気分がくさる。新宿に降り立つちょっと前、丸山行が決まり、目の前が開けた。ルートも緑と決定。立木さんに「5級下ですね」と尋ねる。気分だけはどこでも登れそうだ。

一夜置いて、再び「あずさ」に乗る。
デッドマンがいきなりフラットソールに変わった。まさに春山だ。去年同じ頃歩いた剣への路、今年は1時間ほどで途中下車。しかもアップダウンなし、雪の量が例年より多いようだ。こんな状態だったら、「ちょっとそこまでビールを買いに」も全然夢ではない。
先行の3人の驚いた顔が楽しみだ。「ヤッホー」いるいる。トップの桜井さん、苦戦している模様。
テント設営後、フラットソールのキックステップで取付へ。(なかなか有効だが、後でつめが死ぬ)
1、2P目に1パーティーずつとりついている。それぞれ2人1組。一見それほど遅いようには見受けられない。我々も続く。1P目は雪で埋まり実質ハーフピッチ強位。立木氏リード。またたくまに詰まる。1パーティー目はプラブーツのハンディーかしらっと。そうともいえない。短いラダーのほぼ全部にランニングをとっている。
何とか2P目が始まる。傾斜もゆるく短いラダーは身体馴らしにちょうどいい。立木氏をむかえるが、又しても先行詰まり。おまけに3P目三日月ハング手前のビレイ点は、2パーティーは無理なので、ここで様子をみる。
トップがハングを越え、さあ動くかと思いきや、セカンドは1本目のアブミもかけられず宙づり、カメさんを始めた。時々ランニングに飛びつくが、また空中でもがいている。降ろしてあげればと思うのだが、どうも頑張りたい様子? 後続のことを何と思っているのだろうか。おかまいなしだ。
1時間ほど待っただろうか。降りることに決定。2Pフィックスして明日にそなえる。帰りがけに、アペンディックスの3人にコール。終了した様子。後は下降のみとのこと。テントに戻り、お茶を飲みくつろぐ。まだ2時前。もったいないがしょうがない。夕暮れせまるころ、壁を見上げる。信じられないことにまだカメさんがいる。心配になり、立木さんを呼ぶ。しかし、状況からしてたいした問題は考えられない。ほっとこうとの判断をする。それにしてもうちのパーティーも遅い。
夕食のカレーライス(ミスマッチふきのとう入り)を食べ終え、しばらくして、3人が戻る。ボロボロに疲れている様子。アメリカンエイドクライミングのきびしさを思う。お話は明日夜に持ち越し、その日はそれぞれにて就寝。
翌、3人は登研ルート。
我々は昨日のフィックス2Pをユマールし、あとにつなげる。昨日の彼らはどこへやら、テントすら見当たらない。相変わらず壁はびしょびしょに滞れている。袖口からツツーツと水が体に流れ込む。フィックスの2Pは速いが、滞れザイルにバッチマンでは押し上がらず、立木氏のユマールを拝借する。使用後、ザイルにつけて戻す。
3P目、右にうつる2、3歩がいやなフリーからラダー。ハング手前でビレー。立木氏リード。
4P目、例のハングからラダー。エンドーリード。ここから傾斜がたってくる。ハングの乗越しで又しても長めのシェリンゲの調達にもたつく。しかし、間隔はあきれるほど短い。
5、6P目はラダー。中央バンドに上る。
手前7P目はピンに少し遊ばれるところと聞いている。つるべをくるわせて立木氏にお願いする。こういうピッチこそと、喜んでひきうけるように早くなりたいものだ。やはり、右上気味、草付に隠れるピンに少しホンロウされた。
バンドにはい上がる一歩もいやらしかった。下から見えなかったが、バンドに残る雪は多く、2、3mはあるだろう。とりあえず中程のくぽみまでキックステップ。外傾バンドゆえ、近いうちにごそっと落ちるであろう。長居は無用、さっそく立木氏クライムダウンして外傾バンドの縁を左ヘトラバース。肩がらみでビレーする。ザイルの出し具合に少しとまどう。結果的にはひきすぎだった。1本目のランナーはダイレクトルートのビレー点。寸分違わず雪壁から掘りおこしてある。あざやかさにキョトンとする。2本目は打ちたし。
取付にて小休止後、えんどー凹角右のフエースを直上。ここら辺から、壁の質が、少しもろくなってきたようだ。色も鉄色をおびている。単調なラダー、快調と思いきや、縦リスにいやなアングルハーケンが1本ある。次のピンもすぐそこだ。一瞬と思い乗る。ズズーとさがり、抜ける一歩手前、次に乗り移る。
セカンドを思いやる事なしに先を急ぐ。余裕がなかった。(これまで立木氏のタイオフは数多くあった。この山行のあとタイオフ用シュリンゲを数多く持つようにはなったが、はたして?)ハング下で立木氏をむかえる。
いよいよ最終ピッチ。(ブッシュを省略したため)核心のハングだ。最後にきて、核心と言うところにこのルートのグレード付けがあるようだ。やはり緊張する。立木氏の声も低くなる。ルートは一目瞭然。残置シュリンゲがゆれる中ピン1本ずつかせいでゆく。左へトラバース気味に6、7本目か、空中に体が踊り出てワンショット。カンテの向こうに姿が消える。アブミビレーのきゅうくつさにモゾモゾする頃コール。
「ハァー」1本目体が浮く。しかしこれまで通り同様いじ悪さを感じる事もなく、確実にアブミを移し替える。テラスにはい上がる一歩が、ピン抜け(というより打ち足すりすの余地なし)のためいやらしい。
早速、50m2本で空中懸垂に入る。ここで、おしゃべりの過ぎたエンドー、立木氏にクギをさされる。
過去事故の多くは、懸垂の失敗がかなりの比率を占めている。確信をもって行動するその足下をすくうようなことをしてしまちた、と反省している。[後日、衝立右フェースにて某パーティー(イグレック・セ・セ)の無神経なうるささに私も腹がたった。まさに人の振り見て‥‥である。]
回転するザイルをなだめながら、中央バンドに着地、ホッとする。壁伝いにトラバースし、Hotel丸山を見学する。なかなか快適そう。
その左壁ビレー点から、下降開始。中央バンド少し下で、いったんきる。2回目の左斜下トラバースのケンスイ、これが難しかった。下でザイルをひいていてくれるのでまだしも、体が振られる。残る3回はほばダイレクトに下降できた。登研パーティーも下降しはじめた模様。一足先に戻る。
夕食後、残り少ないアルコールをかき集めて宴会。
雪稜とエイドクライミングそれぞれの思いが、一方的に交錯する変てこりんな会話が楽しい。合流できて良かった。丸山の目を見上げなから、充実感と解放感に満たされ至福。昼間の「ポカ」もしばし忘れる。

※「ずーっと直んね-だろうな」とT氏。

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