衝立岩雲稜第二ルート

1992/8/27
メンバー:松野・平舘  松野 記


雲稜第二ルートは、4年前に桜井氏と大ハングの部分で敗退してから、私にとって巨大な壁であった。いくら人工の練習をしても登れないのではないかという脅迫観念を抱いていた。今回は何があっても登らなくてはならないという覚悟で東京を出発する。
朝から天気が悪く、小雨が降ったりやんだりしていた。テールリッジも見えず、上はもっと悪そうだったので、しばらく様子を見ることにする。8時になっても小雨が降っていたが、とりあえずテールリッジに向かうことにする。テールリッジに降りる場所で中止にしようと思ったが、一瞬の晴れ間が見えたので、天候回復の兆しと判断し、行動開始。9時半に中央稜基部に到着し、準備をしてアンザイレンテラスまで行。そこから見上げた大ハングは、そのときの私にはすでに小さなハングにしか見えなかった。10時に登攀開始。
1ピッチ目オリジナルルートを登りたかったが、ルートが判然としないため、第一ルートの凹角を行く。雨で濡れた凹角に平舘さんがザイルを伸ばしていく。
私はセカンドで登りながらここを登るのは何回目だろうと数えてみたら、物好きなもので、もう5回目だった。ホールド、スタンスの位置は体が覚えてしまっていた。
2ピッチ目松野右へバンドをトラバース後、フリーから人口で直上する。最後は右へバンドをトラバースして、2人がやっと立てるぐらいの狭いレッジヘ。アンカーボルト3本だが、キャメロットをクラックにセットして補強する。
3ピッチ目、いよいよ核心の大ハングである。一発声を出してからリード開始。間隔の短いA1で直上しハングの根元に着く。ここでもう一発気合いをいれて、ハングの乗っ越しにかかるが、4年前よりもピンが増えたのか、間隔が短く感じられた。数メートル登ると、前回最後にアブミをかけたボルトが目にはいる。4年前にはここで力尽きたが、今は呼吸一つ乱れずにそのボルトからアブミをはずした。さらに前傾のハングを登り、数メートルの垂直部分を登ると、ビレイポイントに着いた。さすがに最後は疲れたが、セカンドをビレイしながらタバコを吸っているときに、うれしさがこみ上げてきた。
4ピッチ目、平舘リードで行くが、ハングを越えたため雨でビショビショに濡れている。10メートルほど登ったところで、右の遠いピンにアブミをかけるのに苦労している。つるつるの壁でフリクションがきかず、やっとのことでアブミがかかったが、今度は回収できなくなった。セカンドの私が回収することにして、予備のアブミで行く。この時点で平舘さんは、めでたく残置アブミの会に入会した。ビレイ解除の声から私もそこに行くが、手が長いためか普通に届く距離であった。ちなみに、私は絶対に入会しないつもりである。
帯状ハング下のテラスに着いたのが2時を回っていた。時間的な問題とともに、ハングの上から水が流れていたので、エスケープルートを行くことにした。
5ピッチ目、草付きのバンドを北壁に向かってトラバースするが、リッジを回り込むと声が届かず、ザイルで合図を送ったりしていてかなり時間がかかってしまった。3時に北稜からの加工路に到着した。そこでのんびりとパンとジュウスをのんで、北稜から衝立前沢を経て出合に戻った。
あんまりのんびりし過ぎたので、出合に着いたのは6時を回っていた。4年前には、悔しさの余り出合から振り返ってみた大ハングを覚えている。しかし、今回振り返ってみた大ハングはそのときとは違って見えた。

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