衝立岩正面壁ダイレクトカンテルート

1992/6/6
メンバー:秦・木元  秦 記


2台の車に8人が分乗し、出合いに着いたのが7時頃。空には無数の星が輝き、国境稜線が黒いシルエットを見せていた。一の倉は深い簡の中、雪渓の下を流れる水の音だけが聴こえている。
ダイレクトカンテ。このルートは、私にとって喉にささった魚の小骨のように、いつもひっかかるルートで、それというのも6年程前になるが、一度登りに来て、2P目をセカンドで半分位登った所でギブアップ。撤退をせぎるを得なかったことがあった。その時のトップは入会2年目の桜井君、現チーフリーダーだった。その時以来、私はアブミを避けるようになり、その後、5月の不帰A尾根でもハマってしまったりしていた。
しかし、機会があればあの時の屈辱を濯ぎたいと密かに思っていたこともまた確かで、今月の3月、湯河原幕岩で木元と5月の解禁直後にダイレクトカンテに行こうという話がまとまり、いよいよ機会到来ということになった。剣から帰ったあと、週末の雨天が続き、6月にずれ込んでしまったが、いよいよである。しかし自信があるわけではない。天狗岩でちょっと練習はしたもののけっこう厳しいけどネ、などと周りに言われたりで、むしろ不安の方が強かったかもしれない。そのせいかどうか、つい酒を飲みすぎてしまい、翌朝起きた時は頭がズキンズキン、自分でわかるくらい酒クサい。木元は緊張のあまり、一睡もできなかったという。
当日はドビーカン。いやが上にも気合が入る。雪渓をつめテールリッジを登り終えた頃6時15分。酒はまだ残っているが支度をして取り付きへ向かう。早起きして一番で取り付くのは気分がいいものだ。
7時、登攀開始。1P目、秦リード。ルートファインディングさえ誤まらなければ、ウォーミングアップにちょうどいいピッチだ。2P目、木元。最初の数歩のフリーのあと最初のボルトにアブミをかけるが、次がなく再度フリーを混じえてハング下のラダーに入っていく。ザイルは順調に延び、下から見上げても堂に入ったリードぷりだ。核心といわれるハング下を左上し、オープンブックに入る部分もさして遅滞はない。やがてコールがあり、私の番だ。落ち着いていけば問題はない、と自分に言い聞かせ、登り始める。酒はもう消えている。アブミのかけかえを繰り返すうちに、前回ギブアップした部分に差しかかる。しかし、それほど苦労せずに通過でき、木元のいるテラスに着いた。小柄な私にはやや遠いと感じられるピンも岩のスタンスに立ち込んだり、ホールドを使ったりすれば、容易にとどいた。一息ついたあと3P目、秦リード。時々ペツルが埋めてあるので安心してリードできる。4P目、木元リード・ビレーポイントからは見えないがザイルの流れで苦労しているのが感じられ、あとで登っていって納得、このルートの核心はこのピッチだと思った。フリーまじりのAlだが、けっこういやらしい。
終了点12時40分。少し時間のかけ過ぎだが、私には完登の喜びのほうが大きい。握手をして北稜を下る。衝立前沢にはブロックがあって、樹林の中に逃げたりしながら本谷に戻り、衝立岩を振り返ってみた。登れてよかったという気持ちと、以外にアッケナかったという思いが相半ばしながらも、それほど疲れも感じることなく出合に着いたのが3時40分。

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