白毛門沢

1992/9/26
メンバー:木元・遠藤・杉浦 木元 記


9月25日21時、一ノ倉へ向かう松岡さんの車で和光市を出発する。しかし我々3人(木元、遠藤、杉浦)が今回予定しているのはノ倉ではなく湯檜曽川本谷だ。
松岡さんの車は広く、2日前に一ノ倉を登った疲れも残っているので横にさせてもらうと、ぐっすりと寝込んでしまい、気が付いた時はもう一ノ倉沢の出合だった。小雨の降る中テントを張って「明日は多分だめだろうね」などと言いながら、軽く酒を飲んで寝る。
翌朝はやはり雨、湯檜曽川の予定は中止して、とりあえず松岡さんに土合駅まで送ってもらう。小持山屏風岩に向かう斎藤さんと松岡さんを見送り、待合室で朝食をとっていると空が段々明るくなってきた。じゃあ短い白毛門沢でも登ろうか、ということになり、急いで支度をして出発する。
土合橋の手前で右の小路に入り、東黒沢を渡ってしばらく行くと白毛門山の登山口に出る。さらに、そこから右の踏跡をたどると、再び東黒沢にぶつかり、そこで遡行準備をする。余分な荷物は全て土合駅に置いてきたので、遠藤さんと杉浦とでサブザックを背負い、私はザイルを首にかけただけの軽装だ。
雨が降り続いているにしては意外と水量の少ない東黒沢を進むと、やがて沢全体が大きなナメ滝となった。奥秩父の釜ノ沢に似た感じの美しさで、3人で「きれいだね」と言いながら登っていく。やがて二俣となるが右が東黒沢本流で、左が我々の目指す白毛門沢だ。
ルート図によると白毛門沢の下部は倒木が多い、となっているが(83年の記録)、今は気になる程ではない。少し行くと直登するとスブ濡れになりそうなトイ状の滝が現れたので左から巻くことにした。この高巻が悪く、スラブにのった草付をだましだましトラバースするような感じで緊張させられた。
そこから先は特に難しい所はなく、垂直の8m滝、続く大滝(タラタラのセン)も踏跡をたどって簡単に高巻いた。
沢の水量が少なくなり、階段状の小滝が連なるようになる頃には、いつの間にか森林限界をすぎていて、振り返るとずっと土合の方まで見渡すことができた。
下の方は時折、陽が当たっているようだが、我々のいる場所は小雨が降り続いている。この沢のツメとなる上部スラブ帯を雨天時に通過するのは危険だというので少し心配だ。
ジジ岩、ババ岩の見える所で小休止した後、上部スラブ帯を登り始める。しかし実際に取り付いてみるとスラブというよりは階段状で、フリクションも良くグイグイ登っていける。それよりも水流がなくなるのでルートファインディングが難しい。 遠藤さんが2人であっちだこっちだと言いながら、登りやすそうな所を選んで進む。やがてブッシュを避けることができなくなり、中に突っ込んで強引に登っていく。しかし苦しいブッシュ登りも5分程で、唐突に白毛門山の頂上に出た。
続く遠藤さんと杉浦を迎えてガッチリ握手、雨は小降りだが風が強く、とても寒いので早々に下山しようとする。ところが2人は腰をおろしてタバコを取り出し、くつろいだ様子でスパスパと吸い始めた。この悪天候の中、よくそんな余裕あるものだと驚いてしまった。ガタガタ震えながら2人が吸い終わるのを待って、一気に下山をする。高度が下がると風は弱まり、景色を見るゆとりも出てきた。
ガスの切れ間に見え隠れする一ノ倉沢や幽ノ沢は凄まじい絶壁で、普段は自分達があそこを登っているとは信じられない位だ。
一方、白毛門山の由来となったジジ岩・バパ岩はフリクションのききそうな岩にクラックが走っていて、フリーのルートでも開拓できそうな感じに見えた。
そんな事を考えながらどんどん下っていくと1時間15分で登山口に着いた。取り付きが9時半で下山が14時15分と短く、また持っていったザイルを使う必要がなかった程やさしい沢だったが、とてもきれいで予想以上に充実した山行となった。
その日はそのまま土合に留まって、翌日は別の沢を登ろうという話も出たが、天候がなかなか良くならないので結局帰ることになった。土合では降り続いていた小雨も電車で水上まで行くと完全にあがっていた。いつものことなのだけれど、少しくやしい気がした。
それにしても予定していた湯檜曽川が登れなかったのは残念で、来年はもう少し天候の安定している時期を選んで登りたいと思う。

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