衝立岩 OVER TIME

1992/9/12
メンバー:松野・木元   松野 記


雲稜第二ルートとA字ハングルートを登った私としては、岳人かミヤマを登ろうと考えていたが、最近流行のアメリカンエイドのルートも気になっていた。やはり自分でピトンを打ちながら登るのが本来のスタイルだと思い、不思議ロードなどはいつか登りたいと考えていた。しかし、物事には順番というものがある。特に危険というものがいつもつきまとうクライミングにおいては、なおさらである。
そこで、前哨戦ということで、OVER TIMEの話をしたら、木元君がわざわざ会社を休んで同行してくれることになった。話が決まった後は、記録を参考にして、ギヤ類を揃えた。二人で各種ピトンを20枚、キャメロットを2セット、スカイフックにタイオフ用のテープシェリンゲ、3ミリシェリンゲと、結構金がかかってしまった。ギヤ類は揃ったものの、初めてのアメリカンエイドということで、下手をすると2ピッチ目で敗退するかもしれないと、木元君と話をしていた。
期待半分、不安半分でテールリッジを登り、中央稜基部で準備をしていると、YCCのメンバーが不思議ロードに行くことがわかった。話をしてみると、そのうちの一人が以前にOVERTIMEを登ったが、最終ピッチで敗退したとのことであった。YCCのメンバーと前後しながら取り付きに向かい、お互いにエールを送って、登はん開始をした。(7時15分)
1ピッチ目、木元リードでスラブを左上したのち、ブッシュを登りビレイ点へ。
2ピッチ目、松野リードでフェースをボルトによる人工で登り出す。衝立においてこんなにきいているボルトは初めて見る。数メートルも登るとピトンに変わり、1ポイントのスカイフックから非常に脆いフェースを登る。この部分はかなり悪く、かなり神経を使った。その後ブッシュを登り岳人テラスに着く。セカンドで登ってきた木元君も悪い悪いを連発してきた。YCCのメンバーもすぐ右のテラスにきていた。
3ピッチ目、木元リードでテラス左側のフェースをピトンによる人工で登り出す。登りだす頃に雨が降ってきたが、YCCのメンバーも頑張っているので負けられないと思い、戦闘続行。しかし、残置が見えないためルートがわかりにくく、なかなか苦労している。最後はスカイフックを連続2ポイントの掛けかえから5級のフリーでテラスヘ。10メートルはランナウトする。
4ピッチ目、松野リードで草付きのバンド(というよりか、岩に生えている草をスタンスにして)を左にトラバースするが、この部分の草付きが不安定で、乗っているとズブズブと音をたてて、はがれていくのがわかった。(この草のスタンスは後何人持つだろうかと考えてしまった。)ヒヤヒヤしながら5メートルほどトラバースして、フェースを人工で登り出す。最後に左に移る部分のピトンが非常に遠く、どうしても届かない。考えた挙げ句、アブミを投げ縄のようにして、数回のトライでやっとピトンの頭に引っかかったので、おそるおそるそれに乗って左に移った。
5ピッチ目、木元リードで頭上のハング下の凹角を人工で登る。数メートル登り、ハングとのコンタクトラインにキャメロットを決め、それにアブミをかける。さらに、スカイフックを連続3ポイントからスラブを登りビレイポイントヘ。この部分のスカイフック連続3ポイントはセカンドでも恐怖だった。
6ピッチ目、松野り一ドで頭上の小ハングを左に回り込み、ネイリングしながらクラックを登る。自分で打ったピトンは良く効いているが、残置のアングルピトンなどは1センチ程度しか入っていなく、すべてタイオフが必要であった。最後は、チムニー状の凹角をききの悪いピトンで登りレッジヘ。
7ピッチ目、木元リードでテラス上のフェースを登りだす。3メートルほどフリーで行くが、上のブッシュ混じりの部分へ上がるところがホールド、スタンスなく行きずまる。しかも今乗っているスタンスも草の生えた浮き石で、ビレイしている私にも徐々に下に動いているのが見えた。とりあえず細いブッシュにタイオフのランナーを取り、木元君が私に向かって「スカイフックで行きますj と声をかけた、私は一瞬不安がよぎり(そこまでランニングがなかったので)、木元君に向かって「そのブッシュはしっかりしているか」と聞き返した。「余りま頼りになりません」と木元君の返事に対して、「あっ、そう」と答えただけであった。
この返事をした時点で、私はリーダーとして失格であった。木元君がスカイフックの最上段(だったと思う)に乗って、上のブッシュにランナーを取ろうとしたときにガリッと昔がしたと思ったら、足を下にして私の横を通り過ぎた。次の瞬間、私は体が引っ張られひっくり返ってしまった。すぐに下を見ると木元君がぶら下がっていた。その後ビレイポイントのボルトに目がいった。今にも抜けそうな気がして恐くなってしまい、木元君に体を張って残置ピンにセルフを取るように指示する。木元君は何処もケガが無いようですぐ登ってきた。私はひっくり返ったときに、右手を強打してカが入らない状態だった。
もう一度木元君が行くと言うので、スカイフックに乗る前にピトンを打つように指示する。2本ほど打って右に目をやると、5メートルほど離れたところにボルトがあるのを見つけた。トラバースしてからその上の凹角を登ろうとするが、ピンを打つリスを見つけられずに苦労していた。リスの位置を下から指示し、3本ネイリングしてから上のブッシュに上がる。さらに濡れたスラブを登り、左へトラバースしてビレイポイントへ。
8ピッチ目、松野リードで5メートルほど左にトラバースし、中央稜のピナクルの10メートルぐらい上にでて終了した。(3時)
今回のOVERTIMEは、今までで最高のクライミングであった。技術的に難しいハングやフリーなどはないが、自分でピトンを打ちスカイフックをかけるクライミングが味わえた。(本当はボルトが連打されたA2のハングよりもピトンを打ちながら登るA1の方が難しいと思うが・・・)
しかしながら反省すべきことがあった。それは木元君の墜落である。墜落したこと自体は、別に問題はない。スカイフックを使う以上絶えず、はずれる危険はつきまとう。私がトップをいっても同じことが起こったであろう。問題なのは、スカイフックに乗るまでランナーを取らなかったことである。スカイフックを使用することのリスクを冷静に判断していれば、こんなことはしなかったはずである。幸いにして大事にはいたらなかったものの、ビレイポイントのボルトが抜けていたら、二人とも墜死するところであった。
最近の流行言葉を使うと、まきに私は慢心していた。もしかしたら1ピッチ目で敗退するかもしれないと思っていたが、思いのほか順調こ最終ピッチまで来てしまった心の緩みであった。その心の緩みが、スカイフックに乗る前の私の返事であった。今回の教訓を私と木元君はもちろんのこと、会のみんながこれからのクライミングに生かしていってほしいと思う。

使用ギア キャメロット#1、ロストアロー #4、ナイフブレード 2、バガブー 2、ブレード 3、スカイフック6ポイント

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