谷川岳コップ状岩壁左岩壁JMCCルート

1992/9/23
メンバー:立木・本元  本元 記


衝立の頭や北稜からコップを眺めると、左隅の方にスッパリと切れ落ちた2段のフェースが見える。そこに拓かれているのがJMCCルートで、最近は登る人も少ないらしいがボロい一ノ倉の中では異色の壁であり、以前から登ってみたいと思っていた。
9月20日朝、凹状岩壁を登る予定で一ノ倉の出合で準備していたが激しい雨が降ってきたために中止し、硯岩に移動して人工のトレーニングをした。初めて来るゲレンデなので登るべきルートは沢山あるのだが、前の週に墜落して強打した左足が痛むため、ほとんど登らずに帰ってきてしまった。身体の調子が悪いと気分も落ち込み勝ちで、家に着いてからも「当分の間、本チャンに行くのは控えようかなあ」などと、ぽんやりと考えていた。
そこへ立木さんから電話がかかってきて「今度の水曜日(秋分の日)はどうするの?」と訊かれた。
「まだ左足が痛むので、休養しようと思うんですけれど・・・・」と答える。「それは残念だな。コップのJMCCに誘おうと思ったんだけれど」、「・・・・・・・・」、 しまった、と思った。やはり弱気は禁物だ。もう9月下旬だし、一ノ倉に入るチャンスはあと2~3回なのだ。慌てて「やっぱり行きます」と答える。足に対する不安はあったが、まあ登れなくなることはないだろう、と軽く考えることにする。また、パートナーが立木さんということで安心感もあった。
23日朝、南稜を登る尾原さん、江本さんより先に出合を出発する。衝立前沢を登って略奪点やや上のピナクルの所でギア類を身に着ける。そこからコップスラブを登るのだが、濡れているせいもあってか、かなりいやらしい登りだ。コップ広場に着いてからも、足元は草付や苔でスリップしやすい。左の方に移動して、コップ状ルンゼの入口にある2本のボルトでビレイ点を作る。
1ピッチ目は立木さんリード。ヌルヌルの凹角を3m程登ったところでツルリと滑り、すぐにビレイ点まで戻ってきた。2度目は左のスラブからチャレンジ、今度は無事に登る。このピッチはスラブ~チムニーと続くが全て濡れていて、ピンも少なく、Ⅳ-とは思えない難しさだった。
2ピッチ目は本元リード。全体的に草付と泥に覆われているが、傾斜が強いためかピンは多く、意外と安心して登れた。
3ピッチ目。立木さんリード。いよいよルンゼから離れて垂壁に移るのだがその数歩がいやらしい。垂壁に入ってからも、下の万はピンが腐りかかっている上にぬめっていて気持悪い。ここは上に行く程、岩は乾いて、ピンも安定して、登りやすくなる。核心の水平ハングは、立木さんは結構苦労して越えていたが行ってみて納得、水平どころか手前の方が低くなっているのだ。しかも一本目のピンが遠く、大きく体を振らなければならない。足のつかない部分も2~3ポイントあり、A字ハングよりは難しく感じた。
4ピッチ目。木元リード。垂壁に打たれたボルトラターで、ピンは遠いが全く問題はない。
5ピッチ目。立木さんリード。2筋並んだ凹角をまず右の方から登り、途中のバンドで左の凹角にトラバースして直上するのだが、濡れている上に草付と泥に覆われていて最悪のコンディションだ。ピンはそれなりに打ってあって概ねA1で行けるが、2ポイント・フレンズに乗る部分もあった。このピッチがルート中の核心になると思う。
6ピッチ目。木元リード。やさしいチムニーから左のリッジを登ると、その上はブッシュとなっている。どこがルートかよく判らないので適当に登っていくと、露岩にピンが2本打ってあるのでそこでピッチを切る。
7ピッチ目。立木さんリード。さらにブッシュを登っていくと踏跡に出て、それを辿って最後はⅢ+程度のフェースを登り終了となる。ルート中は日陰でとても寒い思いをしたが、ここは陽があたるのでとても気持ちがいい。心配していた左足もほとんど痛みはなく、取り越し苦労だったようだ。そんなことよりも念願のJMCCを登った喜びの方がずっと大きかった。
小休止の後下降を始めるが、先行パーティーの要領が悪くて度々待たされる。さらに、南稜のチムニーのところでザイルが引っかかり、登り返しをしたのでかなり時間を食ってしまった。出合に着く頃はもう真っ暗で、先に降りていた尾原さんと江本さんを随分待たせてしまった。
ルートに関して振り返ると、垂壁の2ピッチ以外はコンディションが悪くプラスアルファのテクニックを要求されるので、4級上というグレードの割には難しいルートだと思う。しかし水平ハングの部分は面白かったので、そういうのが好きな方は、コンディションの良い時期を選んで登ってみてはどうでしょうか?

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