唐沢岳幕岩正面壁 大凹角ルート

1992/2/9~11
メンバー:立木・尾原・本郷  本郷 記


2月の4連休を使って、唐沢岳幕岩へ向かうことになった。日本を代表するビッグウォールの一つである幕岩へ行けるということで大いに気合いが入っていた。

2月8日(土)新宿駅に集合するが、中央線の人身事故のため列車が全て2時間遅れとなっていた。23:00に出発する「あずさ」に乗り、とりあえず松本へ向け出発。
さっそく、ビールを飲み始めるが、すぐになくなり尾原氏の持ってきたビバーグ用のウイスキーを飲み始める。少しだけにしようと言いながらも松本に普く頃には、空になっていた。困った、ものである。
松本駅の待合い室で1時間程仮眠した後、アルプス号に乗り換え大町へ。大町到着6時。タクシーで七倉へ向かう。
このタクシーの運転手が話好きで、話が止まらない。私と尾原氏は、後ろの席で寝たふりをしていたが前にいた立木氏はずっと相手をさせられていた。しまいに、自分の撮った山の写真を見せて立木氏にあげるという。みんな寝たいのに困った運転手であった。
七倉でタクシーを降りてヘッドランプを付けて高瀬ダムへ歩き出す。高瀬ダムからは、幕岩が見えるが壁はそんなに大きな感じは受けなかった。(実は見えたのは、上部岩壁だけだった。)
唐沢へ入ってからは、すねまでもぐる程度であったが、しばらく歩くと、しっかりトレースがつき歩き易くなってきた。(前夜入山した桜井氏と直樹氏に感謝。)
眠い目を擦りながら2時間程、登ると大町の宿に着いた。
山嶺第二ルートに、我が会の桜井氏と直樹氏が取り付いているのが見える。トランシーバーで我々3人の到着を伝える。
大凹角ルートを見ると、先行が2パーティいるようだがいくら時間が経過してもなかなか上にいかない。そこで広島の宿でお茶を飲んだり、ゴロゴロして時間をつぶす。
11時になり、待ちきれなくなって出発する。右稜のコルへ延びる雪崩そうなガリーを登り、取り付きへトラバースする。
先行パーティがなかなか登っていかないので、2時間程度の順番待ち。今時冬壁などやる人間などそんなにいないだろうと思っていたが、相当な人数が幕岩に取り付いていてビックリである。
2ピッチ目のビレー点が空いたので、本郷リードで1ピッチ目を登りだす。今回は、時間短縮のため下部を本郷、中間部を立木氏、上部を尾原氏で分け、続けてリードすることと決める。トップ空身、セカンド、サードはユマーリングする。
登り出してすぐに先行が時間がかかっている理由がすぐに理解できた。壁に薄いベルグラがピッチリ張り付き、状態は最悪。凹角状を5m位登り、ボルト3回掛け替えの人工、アンダーフレークに、キャメロットの2番をセットし、そこからフリーとなる。
人工から悪いフリーに移った瞬間、頭からスノーシャワーをドバッと浴びてホールドがわからなくなり、落ちる。フレンズのおかげで2mほどで止まる。
落ちたことで頭に血が登り、ぜったい登ってやるという気持ちになることができた。落ちた所でフィフィをかけ少し休んでから再び人工で登りだし、フリーに移る。今度は、一発で抜けることができた。
さらに、右上に見えるビレーポイントに向かってトラバース。ルート図にここのトラバースは最悪と記されている通り、本当に最悪。ベルグラの上に乗っかった雪にだましだまし乗る。パイルを振ってホールドを作っても上からのスノーシャワーですぐ隠れててしまう。
10m程上に見えるビレーポイントがやけに遠くに感じる。悪いトラバースの後、凹角状の部分を直上するが、ここはビオレトラクションでよじ登る。登りきった所でビレーポイントのシェリンゲを掴みホッと一息。下の2人にユマーリングするよう声をかける。
2人があがってきたが、尾原氏がユマールを1つ落としたという。まだ1ピッチ登ったばかりなのに先行きが不安になるが、なくなったものはしかたがないので、荷の軽い方がバッチマンで登ることにする。
2ピッチ目、本郷リード。雪壁を右上し、潅木でランニンーグを取り、洞穴テラスへ向かって左へトラバース。ここも雪が不安定で繋張するところである。
先行がつまっていることと、上のボサテラスは狭いと桜井氏から開いていたので、時間は早いが洞穴テラスでビバークを決定。
立木氏が3ピッチ目にザイルをフィックスしに行く。洞穴を左から回り込み人工で右上する。ボルトラダーが切れた所から、フリーにかわる。
得意の「タノムヨー」を連発しながら、リードする。ボサテラスで先行パーティがビバーク体制に入ったため、途中でピッチを切ってテラス下までフイックスして降りてくる。さっそく洞穴内にはいるが3人では狭い。今回の3人は、全員が体重70kgを超える重量クライマーなので非常に窮屈である。
今夜の食事は、もちろんジフイーズの牛どんである。食事の後は、酒とくるのが普通であるが、昨夜電車のなかで全部飲んでしまったので、私のオールドのミニボトル(50ml)l本しかない。それでお湯割りを2杯つくり回しのみする。これが、誠にうまかった。やはり少ないときでもそれなりに満足できるものだという結論に達した。
山嶺第2の方が気になるので、トランシーバーで交信すると、暗くなっているのにまだ行動中であるという。中央バンドまでは、今日中に行くとの連絡を受ける。その交信後、うとうとしているうちに寝てしまった。

翌朝5時起床。一晩、変な体制で寝たので身体の節々が痛い。朝食のらーめんを食べ、薄暗いうちに準備を始めて明るくなるの待つ。7時前位から明るくなりだしたので昨日フイックスしておいたロープをユマーリングする。
3ピッチ目の途中より立木氏のリード。しばらく人工とフリーで登り、いきづまったところで「タノムヨー」と一声かけて、バイルを草付きに打ち込みそこへアブミをかけて乗っこす。ボサテラスに到着し、ビレーオフ。意外に狭く、洞穴テラスでのビバークは正解のようであった。
4ピッチ目は、同じく立木氏のリード。左への悪いトラバースから、凹角を登りさらに左へ回り込みリッジ状の部分を登る。40mいっぱいのピッチ。
5ピッチ目は、立木氏リードで、急な雪壁を登りそこから中央バンドへ続く傾斜の落ちた雪壁となる。そこから上部岩壁までは、ノーザイルでも良い位であるが、一応コンテで大チムニー下まで行く。
山嶺第2パーティとの交信の約束時間である10時になったので連絡を取ると上部岩壁でルートを見失い、判らないので大凹角の方から上へ抜けるという。
ここで先行パーティがつかえだし、2時間待ちとなる。桜井氏と直樹氏もそれを見てドーム壁へいってしまった。
やっと上のビレー点があいたので尾原氏のリードで登りだす。人工で垂壁を直上し、ビレー点までのフリーがいやらしい。ピンの効きも甘いようだ。またもしばしの順番待ち。左上ランペを登り、最終ピッチを尾原氏のリード。
チムニー内を人工で直上し、抜けた所からいやらしいフリーでさらに登ると傾斜が落ちてくる。
最後に倒木の中をくぐると、そこが終了点。すでに4時であった。とりあえず完登の握手と記念撮影。
急いで下降を始め、ドームの空中懸垂から始まり、6ピッチの懸垂で右稜のコルへ降り立つ頃には、暗くなってしまった。
ヘッドランプをつけて桜井氏と直樹氏の待つ大町の宿へ急ぐ。大町の宿で全員合流し、天気も下り坂なので幕岩を後にする。
下りは、金時の滝での懸垂1ピッチを含めて1時間半で高瀬ダムに着く。早くビールが飲みたいので早々に葛温泉目指して出発。バカ話に花を咲かせながらひたすら歩くと10時前には葛温泉に着いた。
ホテルのおばさんにたのんでタクシーを呼んでもらい、大町の駅に向かう。セブンイレブンで酒と弁当を買い、アルプス号に乗る。
今回の山行の思い出を語りながらビールを飲む。これだから止められない。「やはり冬壁の4級ルートは、やさしくないなあ。」とか「次は冬の丸山だ。」「いや屏風だ。」などと早くも次の山行計画の話で盛り上がる。
疲れと心地よい酔いで、いつのまにか寝てしまった。
私事ではあるが、結婚式を1ヶ月後に控え冬壁に向かうのは、どうだろうかと出発当日まで悩んだがやっばり本当に行って良かった。
ルートは素晴しいし、良い仲間といっしょに登れて会心の山行であった。独身最後を飾る思い出の冬壁として忘れることのできないものになった。

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