赤石沢奥壁(前編)(A・Bフランケ赤蜘蛛ルート継続)

1992/8/8
メンバー:桜井・鈴木(直)  鈴木(直) 記


今回の夏合宿を赤石沢奥壁にしようと決めてから、日程も含めて細かいことはなかなか決まらなかったが、出発日の前々日、桜井氏から電話が入り、初日は黒戸尾根を登り、翌日はA・Bフランケを継続しようと言われる。言葉にはしなかったが、(ちょっと無理だろうな...)というのが正直なところであった。
さて、5日(水)、車で竹字駒ケ岳神社の駐車場まで入り、テントを張って寝る。翌6日、8:00に出て、くそ暑い尾根道を登る。
ここのところやっていない縦走スタイルで、五台目に達するころには足は棒と化していた。筋肉痛にきしむこの足で果して明日クライミングができるのだろうか?
七合目の営業小屋で大休止の後、やっとのことで八台目岩小屋に到着。15:00。1ビバークに不要なものはここにデポし、早速、Aルンゼの岩小屋目指して草付きの道を下降。 1時間強で取り付きに到着し、手近な岩小屋でビバークの態勢に入る(10人入れるという岩小屋は捜したが場所がわからなかった)前日の疲れからか、ぐっすり寝て7日4:00起床。6:00にAフランケ赤蜘蛛ルートに取り付く。
取り付きしょっぱながハングになっており、しんどいところ。桜井氏が先陣を切って登って行く。
2ピッチ目、素晴らしいとしか言いようのないまつすぐに廷びた花崗岩のジェードルで、ここを鈴木はレイバツクで行く。右の壁にきれいにクラックが走っておりこれを使えば不安はない。
3ピッチ目、ルートはすぐに人工に変わりそのままジェードルを直上。4ピッチ目はこのジェードルを塞いでいるV字ハングを左に人工でトラバースして巻いてのっこす。一旦ピッチを切って、5ピッチ目で大テラスに達する。
6ピッチ目、鈴木がフリーでかぶりきみのクラツクを越して、左に回りこむと、上方が開け、きれいなクラックとそれに沿ったボルトラダーが眺められる。 ここが、鈴木昇己がブロラクシヨンの“アルミサッシ”を抜いたとされるピッチだ。kyouryuukannte
今回我々は、フレンス3個とナッツ数個しか持っておらす(桜井氏が丸山でザックごとフレンズを落としているため)、この装備で赤蜘蛛が登れるかどうか、実のところ不安であったのだが、いよいよその核心のピッチである(前述の鈴木昇己の話によるとフレンズ6個必要とのこと)。
桜井氏がリード。教本のボルトラダーの後、ノーピンになる。アメリカンエイドさながら、ナッツ、フレンスのかけかえ(残置フレンズも1個あり)等の人工になるが、しばらくして、どうやら核心部は抜けた模様だ。
ビレイヤーの鈴木がやれやれと安堵している矢先に、上から「あっ」という声が聞こえ、何と桜井氏のあぶみがザイルに伝ってするすると落ちて来る。
あぶみなしではさすがに登れず、途中でピッチを切るとの桜井氏のコール。鈴木がフォローするが、桜井氏がところどころ長いシュリンゲを残置してくれてあるので、順調に登れ、桜井氏のあぶみを回収する。あぶみはランニングのカラビナにフィフィがひっかかった状態で止まっており、まさに奇跡と言えよう。
鈴木が桜井氏のいるビレイ点から、恐竜カンテに向かって右上ぎみに人工で進むが、ここはボルトがしっかりラダーになっており、安心して進める。
恐竜カンテを越えて直上、安定したテラスに着き、ここで一安心。昼食を取る。続いて4級-・A1のピッチと草付き2ピッチで、Aフランケ頭の岩小屋にたどり着く。12:00。
所要時間6時間。(計10ピッチ)
 ここで休憩し、次の課題のBフランケ赤蜘蛛ルートを目指す。このBバンドの草付きの道を一番下まで下降し、赤石沢本流を回り込んだあたりが出発点。
鈴木が3級の草付きを行くが、ここは、ビレイ点はなし、ランニング用のピンもなしで、結局40mの間、細い潅木一本のランニングのみで行くはめになる。濡れた草付きとぼろぼろの花崗岩でピトンを打つリスもないといった状況である。
桜井氏が2 ピッチ目A1ルートの3段ハングを越すのを、今のピッチで既に疲れはてていた鈴木は“ぼー”と下から眺めていたのであるが、いざ行ってみると、なかなかきつい。ピンの効きが甘く、自分がたった今乗っていたアングルピトンが、あぷみ回収時にカラビナと一緒に抜けて付いてきたりする。ハング3カ所の抜け口のピンが遠し。
ここから、つるべで3、4ピッチ目を延ばすと、なだらかな第1バンドに出る。 5、6ピッチ目は草付きのスラブを左の壁沿いに進む。このころになるとガスが上がってきており、ただでさえわかりずらいルートで、不安がかさむ。桜井氏の写真入りのガイドブックには何度も助けられた次第だ。
再び垂壁となり、7、8ピッチ目を終えたところで第2テラスに到着し、潅木でビレイ。ビバーク地点にはことかかないようだ。
9ピッチ目、左上するスラブのバンド状のところを鈴木が登る。そうたいして難しくはないが、ピンがほとんどない。途中のダケカンバで一旦ピッチを切る。
10ピッチ目、桜井氏が更に左に人工でトラバースして直上。テラスにたどり着く。既に18:30、いつ暗くなってもおかしくない時間だ。
11ピッチ目、鈴木がビレイ点左の岩をクラック沿いに行くが、結構難しく、かつノーピンである。フレンズをかませてなんとか登る。桜井氏は「そのまま続けて行けるよ」というが、サイルの流れも考え右の潅木でザイルを切る。
桜井氏が登ってきたときには既に暗く、ヘッドランプなしで行動はできない状態であった。弱気な鈴木は桜井氏に、「下のテラスでビバークしませんか」と進言する。鈴木はかなり前からビバークになるものと観念していたのだ。だが、桜井氏は一言、「上まで行こうよ。」全く肝っ玉の太い人だ。ただ、鈴木にしてもデポしたビールが飲みたいのは桜井氏と同じであるので続行する。
桜井氏が左にのつこしてきわどい、フリーと人工のトラバース10m程で、振子懸垂のビレイ点に着く。ここでピッチを切り、鈴木が一緒になったところでテンションビレイで2、3m下降。そのまま、桜井氏が更に左に20m程草付きをトラバース。ここから、鈴木が草付きとサラザラに風化した花崗岩を直上し、なだらかになったところで潅木でビレイ。このすぐ上が八丈バンドであった。終了20:30。無事にたどり着け、しかも継続成功ということが嬉しかった。
所要時間 7 時間。(計14ピッチ)
  2人喜びをかみしめながらバンドを登り、10分程で荷物をデポしてある岩小屋へ。広場にテントを張って寝るが結構寒い夜を過ごした。
最後にまとめて感想を言うなら、Aフランケの赤蜘蛛は、ルートは明瞭、高度感はあり、岩が結構固くて安心してムーブに移ることができる(岩質が最高)等、爽快なルートで一度来るだけの価値はある。人工はA1とはいえ結構ピンが遠い(ボルト抜けあり)。
Bフランケの赤蜘蛛は、ルートがわかりずらく(傾斜が寝ており、草付きも多い等)、ピンの効きも今一つ。やはりガイドブックにもあるようにこれだけわざわざ登るルートとは思えないが(Aフランケと比べるとやはり印象が薄い)、長いルートであり、総合的な満足感は得られた。
(続きは桜井氏記録へ)

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