屏風岩 東稜

1992/12/30~93/1/2
メンバー:平舘・佐藤・村上・立木  立木 記


冬合宿、それは各自一年間のトレーニングの成果を実践するところである。そもそも今回の屏風登攀については、尾原、木元の両名の立案によって実施されるはずであったが、両名が諸般の事情により参加できなくなってしまった。
それによって一時計画が棚上げされそうになったがどうにかこぎつけることができた。29日夜アルプス号にて新宿を発つ。天気予報ではちょうど好天が予想されるので心がはやってしかたない。松本にて少々仮眠しようかと思ったが横尾の小屋がいっぱいになるとまずいと思いそのままゆくことにする。
冬の屏風、当会では中川、桜井両氏が中央カンテにとりついてから4度目の冬となる。
釜トンネル手前の指導センターで届を出すと多少気持ちもひきしまる。今回のメンバーは、平舘、佐藤、村上、そして私の4名、ルートは東稜、実は屏風に来るのはこれで4回目で、まして冬の屏風となると正直プレッシャーーがかかる。
小屋に入ってしばらくすると大阪のパーティがT4尾根取付で1ルンゼからの雪崩で100m流されたといっておりてきた。YCCの東壁ルンゼパーティも下部スラブでベルグラが厚くて敗退してきた。数日前の雨のせいらしい。そんな話を開き、明日も雪がやんでいなかったら中止しようと決定する。
翌朝、天気は雪、中止しょうと思ったがとりあえずT4尾根の取付まで行ってみることにする。平均してひざまでのラッセルとなる。夜中に出発したパーティィがラッセルをしてくれているのでありがたい。取付点でおいつくと、東壁ルンゼヘ行くという。下から見上げるT4尾根は一昨日からの降雪で白一色という感じで緊張する。佐藤の立木さん行くんでしょうと言うことばに、あぁと返事をするとふっきれた。
1P目、バルジの左より右上して切る。2P目、真上の垂壁をAOでかたずける。壁は着雪、ベルグラがひどく、雪をおとしながら進む。左下へ下りぎみにトラバースするところなど雪がたっぶりつもっていて足場をふみはずしそうでこわい。
さてここから上が本当の核心となる。少しフェースをのばり、左上してゆく細いバンドをトラバースしてゆく。ピンがないので非常にこわい。クラック下のしっかりしたピンを見つけると本当にほっとして、のどがからからになってしまった。クラックは垂直で手がつけられない。そこら中のベルグラや、雪をおとしまくるが全くピンがなく、クラックの中は氷がつまっていて、フレンズを使うこともできず、さんざん考えたあげくにクラックにピッケルのブレードをつっこんでアブミをかけてのりこしてカンテにのりうつる。
時折T4上部で堆積した雪がチリ雪崩となっておちてくる、が、カンテをきわどいフリーと人工でのぽり落ロはアックスをうちこんでアブミにのる。2P目の終了点だ。たった2Pに2時間もかかってしまった。
早速ザイルを固定して後続をユマーリングさせると同時に自分のザックを滑車で荷揚する。村上さんとザックが上がってきたところで、ビレイしてもらって、さらに上へとザイルをのばす。夏のルートは雪がびっしりとうまっておりチリ雪崩がひっきりなしに落ちてくるので少し樹林を登ってから右上して切る。続くピッチは広い尾根上に出る為、ザイルを引きずるだけでチムニー下までのばすことができる。
すでにあたりは薄暗くなってきた。早くしないと真暗になるぞと後続をせかすが、チムニーを登り出すときには真暗になってしまった。手さぐりで雪をおとし全身をフルにつかってチムニーをのりこすがその上のフェースのほうが悪い。通常は右にトラバースぎみに行くのだがとても行けそうもないと思い左のコルより左へ巻いてT4へと出た。
T4は予想していたとおり雪の斜面となっていてすでに1パーティがおり、横に少し広げれば4人入れる雪洞があると教えてもらう。村上さんが登ってきたところでビレイをかわってもらって、雪洞を広げる作業にかかる。どうやら今年最後の夜を快適なビバークで送れそうだ。
元旦、晴、明るくなってからスタートする。今晩はビバークしないでおりてこようといって出発する。装備はツェルト、ガス、行動食のみ。T2までは2Pでガリー下までつく。T2よりは2パーティに分れてゆく。平舘・立木、佐藤・村上のオーダーだ。
1P目、夏とかわらぬ人工でテラスまでのばす。
2P目は、人工で左上してゆく。テラス手前がフリーとなるが、アイゼン、手袋では少々いやらしい2+位か。
3P目は直上~右へトラバースぎみにバンドへと出るがところどころ人工をまじえてのクライミングとなる。ここまででかなりコースタイムをオーバーしており完登のみこみはなくなった。そのことを皆につげるとビバークしてもよいという。そうと決まれば早くピナクルまでつくことだ。
4P目は真上のカンテ状のボロボロに見える壁を人工で直上してゆく。このあたりより高度感もでてきて、左には東壁ルンゼの雲稜ルート上部がよくみえる。まるでベルグラのおばけだ。雲表クラブの人達が蒼稜ルートを登っているのがよく見える。スタンスに意外と雪がのっているのですでに手袋に穴があいてしまった。
5P目、右へのトラバースからフェースを左上してゆく。フリーの部分が多く雪をおとしながらの難しい登攀となるが、こんな時、うまい人はすっと行ってしまうのだろうなと考えさせられる。
6P目も人工とフリーのミックスとなる。ピナクル手前は凍った草付にアックスをうちこんでテラスにはい上がる。半分以上が外傾しているのでビバークするには少々せまいが冬壁でのビバークとしては最高の部類に入るだろう。
最終ピッチ、ピナクルに荷をデボして空身でゆく。人工から右への回りこみながらのミックス壁、終了点だ。すでに夕闇がせまってきており、急いで懸垂にうつって、ビバークの準備にかかる。しばらくして北鎌パーティの博通氏より交信が入る。槍をこえて、今晩は横尾尾根でのビバークらしい。それにしてもおだやかな天気でよかった。
しかし、夜中に3、4回寒くて皆でスープを飲んだりして朝がくるのを待つ。朝一番でこの下のテラスでビバークした蒼氷の戸田さんパーティが上ってきた。新人2人をつれて4峰までゆくという。さすが大したものだ。我々はもう少し日が上ってから懸垂にうつることにする。
無事T3におりる。佐藤がビバークでか?指をやられているようだ。雪洞で一息ついてから下山することにする。
この日は横尾で1泊して翌日、坂巻で温泉につかって下山。
今回初めて冬の屏風に入ってみて、きてよかったと思った。特にT4尾根はむずかしく、朝、横尾を出るとT4には夕方となる。東稜についてはピンも多く、特に問題となるところはないと思うが、4、5P目が核心だと思う。
尾原、木元の両氏がいない中で、常に不安があった。しかし上ってみて、予想以上に皆うまく、こんなに心配する必要もなかったわと、とりこし苦労に一人泣く。
この調子で来冬は少しむずかしいルートにとりくみたい。

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