冬山合宿報告(1992正月) 前穂高岳北尾根

1991/12/29~19921/
メンバー:鈴木博・長谷川・木元 木元 記


記 録
12月28日20時、新宿駅アルプス広場に集合。屏風に参加できなくなった直樹さんが見送りに来てくれる。少し寂しそうだ。
差し入れの自然酒(じねんしゅ)を受け取り、21時の特急あずさで松本に向けて出発。意外と空いていて、座っていける。八ケ岳に向かう松野さん・立木さんが茅野で降りる頃には、ガラガラで横になることもできた。
23時50分に松本着、タクシーを拾って坂巻温泉へ。途中から風雪が激しくなってきたが、運転手さんが頑張って坂巻のゲート前まで行ってくれた。トンネル内にテントを張り、軽く酒を飲んで寝る。
29日はちょっと寝過ごしてしまい、出発は7時40分になってしまった。トンネルの外は吹雪だ。中の湯の登山指導所に計画書を提出すると、屏風パーティーの尾原さん・小友さんはまだ暗いうち、朝4番目に出発していったと聞かされた。
前夜からの雪が積もっていたが、我々が通る頃にはしっかりとしたトレースがついていて歩きやすく、快調にとばしていく。途中、大正池と明神で休憩をとって、12時30分には徳沢園に着いた。中では屏風の2入組が休憩中で、我々も一緒に暖まることにする。
2人ともとても疲れているようで、これから3時間かけて横尾まで行くと言って出ていった?天候が悪いので、避難小屋で一緒に酒でも飲まないかと誘われたが、取りあえず慶応尾根の取り付きまで行ってみることにする。結局その日は、慶応尾根末端の樹林帯で早めの幕営となった(14時)。
30日は5時起床、7時出発。今日も吹雪いている。慶応尾根には数パーティーが取り付いていて、しっかりとしたトレースがついている。追い越したり、追い越されたりしながらも順調に進んでいく。9時15分にはパノラマコースとの合流点を通過する。しかしそこから10分位進んだあたりから、急に前がつかえはじめた。その上にはもうトレースがないのだ。30人近くの人間がつながってラッセルをしながら進むが、傾斜が急で雪も深く、スピードはなかなか上がらない。順々にトップを交代していくが、我々のパーティーはワカンが一個しかなく、とてもトップを努められそうにない。そこに「ワカンを持っているパーティーを先に出して下さい」との声がかかり、私達はおとなしく最後尾に下がる(内心ラッキーだと思った)。
途中、猛烈に吹雪かれたりしながら、8峰に着いたのが14時30分その日は風雪が激しいため、そこで幕営とする。他のパーティーもほとんどが8峰どまりで、夕方には大テント村ができ上がった。消灯前テントの外に出ると、風は強いが快晴で、満天の星空となっていた。
31日は、4時起床、6時40分出発。快晴で風もそれ程強くない。8峰からは何と我々が一番の出発だ。美しい日の出を見ながら7峰を越える。6峰はザイルを出して奥又白側の雪壁を登るがそれ程難しくはない。
5・6のコルに着いた時点で、余分な荷物はデポして前穂ピストンをしようということに話がまとまった(明神へ進む計画は雪崩の心配があるため中止した)。ギア類を身に着け、ザックー個にツェルトとガスと行動食のみを入れて出発する。
5峰も問題なく越えると、いよいよ4峰だ。途中、奥又自側の不安定な雪壁で2ピッチザイルを出したが、それ以外は特に困難な箇所はなかった。しかし、高度感はかなりのものだった。
広い雪稜を下って3・4のコルに出る。時刻は10時30分で、まあまあのペースだろう。後続はまだ追い付いてきていない。ここまで来ると吊尾根はすぐそこだ。あっという間に頂上に行けそうな気がするが、核心部はこれからなのだ。
3峰・1ピッチ目の凹角は長谷川さんリードのあと、博道、木元の順で登る。ルート図によると3級程度という事だが、かぶっている所もあってかなり難しい。ワンテンションの後、残置シェリンゲを次から次へとつかんで、やっとの思いで登り切った。
2ピッチ目のチムニーは博道さんリードで、木元、長谷川の順で登る。足元が雪で不安定な廊下状の所を通過してから、大きなチョックストーン下の2m位のフェースを登るのだが、ここもかぷり気味で難しい。ピッケルを岩に引っかけ強引に登る。そこを抜けた後の凹角もいやらしかった(今回は正面のチョックストーンのトンネルをくぐったが、これは夏ルートで、冬はその右の凹角を登ることが多いという)。
2峰を涸沢側から巻くと、遂に前穂高岳頂上に着いた(12時55分)。頂上では、3峰で我々を追い越していった単独行の人が標識を掘り起こしていた。話しを聞くとその人は日本登攀クラブの人で、本当は山野井泰史さんと一緒に来る予定だったのだという。しかし山野井さんが富士山で怪我をしたために今回は単独になってしまったとの事だった。お互い写真を撮り合って、奥穂に向かうという彼と別れ、我々は来た道を戻ることにする。
3峰は懸垂下降となるが、岩がでこばこしていてザイルが引っかかりそうな感じだ。などと思っていたら、やはり回収できなくなってしまった。ここは他のパーティーが登るのを待って、結び目を外してもらった。さらにもう1ピッチ、今度は大丈夫だろうと思ったが、また引っかかってしまった。風が強くなってきて登り返す気力もなく、時間が刻々と過ぎていく。結局、これも上で他のパーティーが外してくれたようだった。この2回のミスでかなりの時間をロスしてしまった。
テント村ができあがっている3・4のコルを後に、4峰に向かう。4峰の懸垂ではザイルの結び目をダブルフィッシャーマンにしたためか、引っかかりもなく無事回収できた(それまではカラビナでつないでいた)。しかしその頃はもう真っ暗で、4・5のコルで全員ヘッドランプをつける。 暗闇の中5峰を越えて、5・6のコルに着いたのは18時40分。この日は12時間ほとんど休まず行動したことになる。
元旦は昨日とはうって変わって、湿った雪が降っていて視界もあまりない。下山のみということで朝は少しゆっくりして7時50分の出発となる。6峰の下降でもザイルの回収に手間取ってしまう。懸垂下降というのは本当に難しいと感じた。
7峰を越えて10時20分に8峰に到着。ここからは単純に下りるだけで、ぐっと気が楽になる。樹林帯のなか尻セードを交えて一気に下る。徳沢園には13時15分に着き、そこから大正池まで2時間、電話でタクシーの手配をして坂巻温泉からすぐ松本へ。無事にその日のうちに下山できた。

感想
今回登ってみて感じた事は、自分は随分と北尾根をなめていたなあ、という事です。
慶応尾根では腰までもぐるラッセルで、体力の無さを思い知らされたし(ワカンが必要だったと思う)、3峰は予想以上の難しさでとても3級とは思えませんでした。
また、3・4のコル辺りまで行ってしまうと楽なエスケープルートもないため、天候の判断カや悪天候でも行動できる技術・体力が重要になってくると思います。
今回も丸1日間の晴天と、リーダーの的確な判断とがなかったら、こんなにすっきりとは登れなかったでしょう。
しかし、北尾根は展望の良い好ルートだと思います。これから北尾根を目指す人も事故のないよう、気をつけて登ってきて下さい。

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