唐沢岳幕岩大凹角ルート

1991/2/9~11
メンバー:鈴木(直)・小宮・桜井  桜井 記


2月の三連休にどこを登ろうかと以前から考えていた。厳冬期ともなると天候や日数の閑係で行ける山域が限られてしまうが、夏合宿の帰りのバスの中で考えていたこのルートが秋から年末にかけて私の頭の中で次第に大きくなってくるのを感じていた。アプローチも比較的短く、標高が低い由、天候もさほど悪くないだろうとの条件が有り、ビックウォールの一端にも触れることが出来、しかも未知の(自分にとっての)エリアということで今回のルートを決めた。

2月9日

信濃大町で下車、タクシーで七倉まで入り夜がまだ明けぬ中ヘッドランプの光を頼りに高瀬川にそって進む。夜が明ける頃、高瀬ダムの下に着き、ここから対岸に渡って唐沢に入る。高瀬ダムのコンクリートの斜面が氷と雪で、スキーのジャンプ台の様だ。
ここまでダム関係の車が時折入ってくるのか、たいした雪でなかったが唐沢に入るとトレースもなく、ヒザ上のラッセルとなる。見上げると唐沢岳幕岩の岩壁が追カある姿でそびえ立っている。
アプローチのルート図にそって歩を進める。目印となるのは堰堤にかかるアルミバシゴ、金時の滝だが、ラッセルのせいか思ったより遠い。金時の滝は水流が出ていてその左側の急なルンゼを登るが、ルンゼの出口がフィックスドロープなどがあり、急でいやらしい。このルンゼを登っている時に後続のパーティ(6~7人いたか)に追いつかれ、この後大町の宿までラッセルを交替で進んだ。
大町の宿はルーフの張り出した立派な岩小屋で冬でも水が取れる。S字状、畠山ルートヘ向かう2パーティと別れ、山嶺第一へ向かうというパーティと一緒に我々はさらにルンゼをつめていく、夏の取付よりは少し上だと思うがはっきりしたビレイポイントは無く、小宮からリードする。
時刻は1時を回っていた。凹角を人工で登り右ヘトラバースして直上。壁にはあまり雪も着いていないが、アイゼンをはいての岩登りは苦労する。今回のタクティクスは3人分の荷を2つのザックに収納し、トップが空身でリードし、後続の2人はユマーリングで登るというスタイルをとった。トップの小宮がかなり苦労して登ったが、私はその恐怖を知らないが、エッチラ、オッチラとユマーリングして行く。
2ピッチ目、今度は私がトップに立つ。3級のスラブで、フラットソールならなんでもない所だと思うが、今はアイゼンの恐怖である。右上から頭を押えられた所でせり出した雪壁を左ヘトラバースする。のけぞる様な雪壁を雪をたたき落としながらトラバースすると洞穴テラスのビレーポイントに着く。
後続の2人を迎えた所でビバークを決定する。中に入り込み雪をかき出すと3人がすわって横になれるスペースが確保出来た。入口を少し広くしすぎたなと思ったが、冬壁のビバークでは快適な方だろう。

2月10日

少々寝ぼうをしてしまい、7時に登攀開始、桜井リードで登り出す。洞穴の左から洞穴の上に向かい右上し、ボルトラダーを直上する。左側をハングに押えられ一部フリーが混じって右上後、さらにボルトラダーたどり最後は潅木の木登りでボサテラスに達する。
ラダー間のフリーが難しく、最後の潅木に移る所では、バイルを凍った草付にたたき込みリストループにかけたアブミに乗って潅木にタッチした。ボサテラスは雪をどけてみないと分からないが以外と狭く、洞穴テラスでのビバークは正解だった。
この頃から雪が降って来て左上の凹角からはチリ雪崩が始まった。私のビレイポイントは影響ないが時折たまった雪が“ボン”と音をたてて、ちょうど下にいる2人の所に落ちていく。
2人を迎えて再び私がリード。アブミとフリーでのトラバースの後、ラビーネンツクのジェードルを登り、途中から左ヘトラバースして凍った草付をピオレトラクションで登る。本来はこのジェードルぞいに登っていく様だが、この降雪ではちょっと登れない。ザイルを一杯に伸ばして潅木でビレイ、ピッチを切る。降雪もひどくなり右側の凹角はバンバン雪が落ちて、左側もサラサラとスノーシャワーが落ちて来る。ビレイしながらも足元がだんだんと埋まって来るので時折足で除雪してやる。
続く岩場を鈴木リードで2ポイント程アブミ乗り、傾斜が落ちた雪壁をラッセルしてザイル一杯でビレイ。さらにそのまま、雪壁から潅木帯をコンテでラッセルをして行くと上部岩壁の基部、中央バンドといっても雪の斜面である。ここに着いたのが午後2時でビバーク地と決めて、ザックを置いて明日の為に上部チムニーに1ピッチ、ザイルをフィックスしようと出かける。
基部を潅木の中ラッセルして行くが悪い。ルンゼの取付から鈴木がリードで15m程登ると洞穴があり、こちらの方が快適そうなビバークが出来ると言うので、桜井がフォローする間に小宮にザックを取ってきてもらう。
彼には結局2往復半させてしまい悪いことをした。ザック2ケをユマールとプーリーの荷上げシステムで上げ、続いて小宮を迎える。ここから再び鈴木がリードでザイルフィックスに向かうが途中1ケ所超えられず、テンションで下りて桜井がザイルを延ばす。15m程登った所で暗くなったのでテンションで下り、フィックスとしてザイルを残す。
ビバークサイトの洞穴は昨日より広く奥にいくと低くなっているので、足を奥にして3人が並んで横になれる。入口にツェルトを張ると天国である。チムニの中なので見上げる天は狭いけれど。

2月11日

昨日来の雪も止んで天気は回復に向かっている様だ。ツェルトをはねのけ昨日のフィックスドロープを20m程トップロープにて、最後のプロテクションからはリードにて桜井が登る。チムニー内の雪をかき落とし、チョックストーンに頭を押えられたレッヂよりさらに右側の垂壁を5m程アブミのかけ替えにて狭いレッヂに達する。このレッヂは狭いがしっかりした潅木が有りその枝に乗る様にしてビレイする。昨日と同じ様に後続の2人はユマーリングしてくる。
最終ピッチは鈴木リードにて4-のフェースを登る。最後は潅木の木登りで右稜の頭に上がり終了。桜井、小宮とフィックスドロープをユマーリングして終了点へ。ここは広くてビバークサイトにはもってこいの場所であるが時計の針は10時を回っており、我々はさっさと下降しなければならない。
右稜の頭から少しラッセルしていくと割と簡単に下降支点のシュリンゲが見つかった。雪のまったく着いていないドームの垂壁をこの壁に打たれたボルトラダーを見ながら懸垂していく。大テラスから左に10m程ガリーを下り、さらに40m目一杯懸垂していく。
残置シュリンゲをほとんど感をたよりに雪の下から掘り出してザイルをかけ替えていくが、なかなか見つからなかったり、一発で見つかったりして、下降ルンゼを3ピッチ下り、右ヘトラバースしてさらに2ピッチ右稜のコルヘ下る。
ザイルをまとめて大町の宿へもどり、デポした荷物をまとめて、下山にかかる。入山日にいた大阪のパーティのデポ品も見当らず、今日か、昨日か先に下山してしまった様である。
アプローチ、の唐沢の本谷は入山した時よりデブリがずい分多く、昨日降った雪がだいぷ雪崩た様である。先行パーティのトレースも消えてしまっているので昨日下山してしまったのだろう。
本谷をかけ下りて、高瀬ダム下に着いたのは3時を回っていた。ここから高瀬川ぞいの舗道を歩いていくが七倉山荘は閉まっているのでタクシーも呼べないので再び歩き出す。葛温泉まではまだ1時間程かかる。大町からの最終電車に間に合うかどうか心配になってきたが、ラッキーなことに東京電力の車にピックアップしてもらい途中の事務所迄乗せてもらい、そこからタクシーで信濃大町へ向かった。駅前のラーメン屋でビールで乾杯をする。
このルートはアプローチも短いし、悪天もそうひどくないので、冬壁をこれから志そうという人にはぜひとものぼってもらいたいと思う。私自身としては来シーズンはS字状ルートか山嶺第一ルートを登りたいと思う。

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