衝立岩ダイレクトカンテルート

1991/5/25
メンバー:長谷川・本郷/高岡・山口  山口 記


有名であることを単純に有り難がっているわけではないが、あまりにも有名な衝立岩だけは、たとえ好みの岩壁ではないにしても、やはり登らん訳にはいかんだろうと常々思っていた。登るからにはもちろん雲稜ルートと決めてもいたのである。
しかしながら、いざとなると怖気と自分自身に対する自信のなさが先に立ってしまい、なかなか実行に至らなかったのだが、この1、2年、会の若手を中心に衝立岩に足跡を残す人の数が増えてくるにつれ「アイツに登れるなら、この俺にでも」という身の程知らずな気分になってきていたのである。
今回、とりあえずダイレクトカンテに終わってしまったが、当初は雲稜ルートの予定であった。
「雲稜ルートの前にとりあえずダイレタトカンテを本郷さんと登るつもりです」
このように至極常識的な判断を電話で告げる長谷川に、「オレはそういう回りくどいことは好かん」からと、3人で雲稜ルートを登るようけしかけて一ノ倉にやってきたのであった。
ところが、そこで高岡が加わって4人パーティになってしまったうえに、当日は昼頃から雨という予報が出ていたため、午前中で登り切れるだろうからとダイレタトカンテにルートを変更したのであった。
パーティは高岡と山口、長谷川と本郷でザイルを組み前後して登ることにした。
正直、残念というよりはホットした気持もないではなかった。
朝、予報どうりの直ぐにも降り出しそうな曇天である。A字ハングへ行く予定の松野、尾原パーティは、諦めているのかテントの中で寝たきり起きようともしない。
降るものなら早いとこ降ってもらいたいものだと思いながらテールリッジを登る。毎度の事ながらテールリッジの登りは疲れる。中央稜基部に着く頃には汗だくで、息も絶え絶えになっていっも登攀意欲なんぞどこかへ吹っ飛んでいってしまうのである。
ダイレクトカンテにはすでに、1パーティが取り付いており、2ピッチ目をトップが登り始めていた。休みながら見学する。
実際、目の前で登攀中のクライマーを眺めてみると、ルート解説にあるほど簡単だとはとても思えず少々不安になってきた。
後から我々に追い付いてきたパーティのリーダー格の人も同じくそのパーティを見て、やれ遅すぎるの、あれじゃまだ登る資格がないの何んのかんのと大声でのたまっていた。ウルセーヤローだ。(そういうアンタだって遅い時があっただろうが)と胸の中で毒ずいて出発。
アンザイレイテラスから1ピッチ20m程の懸垂でバンドに降り立ち、いよいよ登攀開始となる。心配していた天気の方はどうやら回復してきたようだ。
まずは、本郷がトップにたち、バンドを右上して行くが、何を目指しているのか右フェイスに行ってしまった。戻って来るのに時間が掛かりそうなので、直ぐに私が登り始めることにした。バンドを15m程右上してから直上すれば安定したバンドに出る。この次ぎの2ピッチ目から本格的な登攀になる。
単純な人工かと思っていたら、まずはフリーで始まり、このフリーが思いのほか悪く感じた。ホールドはガッシリとしているのだけれど見た目には浮いているようで怖いと思った。7~8m程で人工に移るが、40mいっぱいの登攀で何とも大儀である。上を見上げてはまだあんなにあるのかと思い、下を見てはまだこれだけしか登っていないのかと思ってしまうのであった。
ビレー点には先行パーティがいるので一段下がってアブミビレー。もっとも、このビレー点も狭い所で、ハーネスにぶら下がっての確保となる。
3ピッチ目も人工である。高岡の登りっぷりを下から見せてもらったが、ずいぶん上手になっているので感心してしまった。
3ピッチ目の確保点はアブミビレーになるのだけど、先行パーティーに加えて、右フェイスパーティーも合流してきたため少々時間待ちになった。
続いて最終の4ピッチ目である。ビレー点から人工でカンテを回り込むと複雑な様相を程したフェイスとなる。あちらこちらにハーケンが打たれており、ルートも思っていたような直線的なトラバースではなく、一段登ったら右トラバース、また一段登ってトラバースといった状態で、途中でカラビナの残りが少なくなってしまった。
先の状況が分からないため、いったんピッチを切り、高岡に登って来てもらいカラビナを受け取ってから直ぐに登りだす。ここでもアブミビレー。
終了点までまだかなり距離があり、途中でピッチを切って良かったと思いながら登った。
たった4ピッチのルートであったが、終了したときは、グッタリとする疲労感につつまれてしまった。これじゃ雲稜ルートはとても無理だなと思い知らされた感がある。
終了点からは踏み跡を10m程登るとフェイスにつきあたり、これを右に15m程回り込むとシッカリとした道のついている北稜に至る。
たった4ピッチと書いたが、人工とフリーがミックスされた内容の濃いルートだと思う。☆印3ツのお勧めルートであることには文句なく同感で、雲稜ルートなどに取り付く前の「とりあえず」のルートなどと思うことはないなと感じた。

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