東沢本棚沢-まさかの岩壁登攀、 総合グレード3級はダテではなかった-

1990/6/24
メンバー:   山口 記


朝、二日酔の痛む頭で始めに考えなければならなかったことは、車でどこまで行けるのかということであった。概念図をみればわかる通り、本棚沢の入口まで林道が延びている。この林道を利用すれば相当の時間短縮がはかれるはずである。先へ進むかどうか、チョット迷ったが、ガイドブックにも何も触れられていないのは、やはり利用できない何か理由があるからなのであろうと思い、素直にツツジ新道の登り口に駐車することにした。
新道は登り始めの部分を除くと、実によく踏まれた良い道でゴーラ沢出合までおよそ30分程である。出合からは左へ本棚沢を詰めることになるわけだが、砂防ダムをいくつかも右に左に巻いて越えて行くことになり、炎天下まことにシンドイことであった。
ゴーラ沢出合から1時間余り進むと頭上に高々と立派な橋が架かっており、本棚沢の本格的登りはこの橋の下から始まるのである。
ところで林道を下から眺めてみるかぎり、沢に簡単に降りることなどとてもできそうになく、いずれにしろ懸垂下降をせざるをえないようである。本棚沢に入る為に、林道を利用しない理由が納得できた次第である。
いよいよというかようやくにして始まる本棚沢は冷たい水が連続する花崗岩の小滝を洗い、まことに気持のよい沢である。博道さんなど嬉々として水の中に飛び込むようにしながら登って行く。
ほどなくして12m滝が現れた。うす暗く、いかにもぬめった感じがしてあまり快適そうではない。ピッチグレードは4級・AOとなっているが、まずは、沢登り苦手な私がリードすることにした。それは、早目にリードしておかないと次に出てくる核心部の本棚をリードさせられることになってはかなわんという単純明解な計算がはたらいた結果である。
12m滝は見た通りにぬめっており、短いながらあまり楽な登りではなかった。
次はいよいよ核心部の本棚である。リードするのは博道さん。まず、水流の左から取り付き、右に行き、又左に行ってから直上、さらに右にトラバースして水流近くを直上、ずいぷん苦労しながら登り始める。取り付いてバンドを右に行ったとたん、頭から冷たいシャワーを全身にあびて息はできないし、手足がこわばってしまった。
これはたまらないとあせって左へ出て、シャワーから抜け出てヤレヤレと思う間もなく、直上後の右トラバースにはラストでも考え込んでしまう程悪い。フリクションの全く効かないぬめったスラブではよく行ったものだと感心してしまったが、我々はトップの残していってくれたシュリンゲをアブミにして突破することができた。
この後いくつか出てくる滝やゴルジュには問題になるところはなく、直ぐに水流が無くなり涸沢になってからすぐに20m滝に突き当たる。ルートは左の大岩に取る。一見容易そうだがハングとスラブで悪い4級-岩とのこと。渇いているのでフェルト靴ではかえってすべりそうであったが、フラットソールで登ればさぞかし快適なことであろう。終了点は本棚沢を左にはずれてしまうので、樹林の中を右ヘトラバースして本棚沢に戻ることになる。
もう水流は完全に無くなっている為、フェルト靴をぬぎ、スニーカーにはき替えて行くことにした。
ところでガイドブックによれば、後は快適な40mの涸棚を1つ残すだけという。その通りに快適=簡単にこのまま終ってしまうとするとグレード2級上の同角沢とあまりレベルの違いのない沢だなと思ったのである。
しかし、その40mの涸柵を最初に眺めた時、正直この岩場を登るとは思われなかったし、登るとなればグレード3級どころではないなとまで思った。陽を受けて白く光って見える明るい岩壁で、岩質の良さはもちろんスケールだけをとっても丹沢周辺の数ある岩場の中でも最も立派なものではないだろうか。上からガレ沢を降りてきて岩登りをしているパーティーがいたがsssうなづける。
ルートは岩場の右側にとられており、上部は何か所かカブリ気味になっているのが下からも見てとれる。4級+A1のグレードが付いているのだが、どこがどう快適なんだと文句の1つも言いたくなってきた。とてもではないが、快適ですヨ。
「マア、そうですか」と気楽に取り付けるような気分になれずちゅう躇している私の気持ちを見透かすように、江本さんは「簡単に行けるんじやねーかな。オレがトップにたとうか」とえらい張り切りようである。だからといって年令を考えたら「どうぞお願いします」と言うわけにもいかないのだよ、まったくと思ううち、博適さんの「マアマア、ここはひとつ山口さんに行ってもらいましょう」と正しいニッポンのお役人様風の提案に逃げられなくなってしまったのであった。
それじや、マーしょうがネーから行くかとあるかぎりのシュリンゲとカラビナをかき集めて取り付く。ホールドはしっかりしているし、残置ハーケンも多いので不安はそれ程ないが、ハイキングシューズでは靴がぬげそうで恐かった。しかし、フラットソールがあればたしかに快適かもしれない。
途中で1回区切ってスピッチで登ったが、とくに上半身2ピッチ目は高度感も出てくるしどこか谷川岳のルートを登っているような気分になってきた。
ラスト2人には時間短縮を考えて2人同時に登ってきてもらったが、「ザイルが途中でからまって登りにくくてしょうがネー」とかブツブツ言いながら登ってきた江本さんは、怒ったような顔をして最後の10mの涸棚をそのままトップで登っていってしまった。
登攀(あえてこのことばを使わせてもらう)終了15時15分。休憩時間を差引けばまあ標準的なペースで登れたようである。
高度計をみると1,300mを示していた。項上まで残り300mあり、疲れた身体にはウンザリする高さである。ただ沢をはずれて樹林の中を進むことになってから、いやなヤブこぎが全く無かったのは幸いであった。
檜洞丸頂上着16時30分。景色のよいほんとうに気持のいい頂上でいつまでもユックリしていたいのであるが約束の集合時間が気に掛っているので小休止後すぐに下山。
よく踏まれたツツジ新道を通って降りる。
ツツジ新道登りロ到着17時20分。久しぶりに充実した山行であった。

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