“いきなり北岳”を終えて「第4尾根」

1989/8/22~23
メンバー:川崎・養田・宇賀田・谷中 谷中 記


“北岳バットレス”こりゃスゴイ名前だ。中央カンテとか谷川岳一ノ倉沢などの地名やA字ハングとか、それがどこにあるのか、それがどういう意味なのか、とにかくわけのわからない言葉が入り乱れて耳になだれこんでくるが、何はともあれ今度行くのは“バットレス”何たって“バットレス”だ。今までとはチョットわけが違うぞ。こんな思いで私の山行は始まったのです。
今、振り返ってみると、とにかく初体験の連続で“次から次へと未体験ゾーンに投げこまれていった”という表現がピタリ当てはまるように思われます。おかげで山行中は“やっぱり生きてて良かった”というのはこうゆうのを言うんだろうなと何度感じたことか。
生まれて初めて見る雪渓、忘れたザイルをとりに尻で滑り降り“こりゃ絶好調”などというレベルでは、さして何とも思わなかったものの縦走路をそれ、一尾根取付までの雪渓を登る時には、さすがに緊張を覚えました。山口さんがザイルを張りにリードで登り始めた時、「谷中、これたらついて来いよ」と何気なく言われたので私の方も何気なく、五、六歩、足を進めたもののそこで初めて気がついたのです。
雨に濡れながら初めてマジマジと下を見たのです。“もうここは尻スベリの世界じゃない”靴が、底ツルツルのバスケットシューズだったこともあり、もうこのあとは必要以上にステップを深く深く切りまくって登ったことは言うまてもありません。今回の山行で恐ろしさを感じた唯一の箇所でした。
生まれて初めての実戦の岩場、Bガリー、四尾根を登った(養田さん、宇賀田さん、川崎さんと私)わけですが、スラブ的な岩に走る一本のクラックをレイバックで登る箇所を除いてはホールドに事欠かず、技術的に苦しかったという印象はまったくありませんでしたが、(偉そうに・・。)それにもかかわらず興奮を覚えたのは何よりも“高度感”です。“こんな高い所でこんな小さなホールドの上に立っている”というその事実です。歓喜の潮流が体中の血管を怒涛の如くかけめぐる様な、体の内側から興奮が湧き出てくるかの感覚を覚えました。それにしてもテラスで吸う、たった一本のタバコがうまいこと、うまいこと・・・・
初めてリードも経験しました。一番最初などはワン・ピッチ登り終えた所で、ビレイの仕方を知らないことに気づき、下の川崎さんに大声で聞くというお粗末ぶり、あとの2回も支点探しで余計な時間を費やしてしまった等、かなりひどい内容のものでしたが、大変いい勉強になったと思います。
一緒にアンザイレンして登ってくださった川崎さんには、残り少ないタバコはせびるは、登攀時間は大幅に引き延ばしてしまうは、帰りには、夜も相当に遅いというのにすぐ近くまで車で送らせてしまうは、もう迷惑のかけっぱなしで、何とお礼を言ったらよいのか途方に暮れる私です。
眼前に広がるお花畑、落石、そして目まぐるしく変る山の天気等々、もう何もかもが“初めてだらけ”で何を得たのかよくわかりませんが、大切な事を得たのは間違いないと思うと同時に、この経験の積み重ねが着実な前進につながっていくに違いないという思いです。
これからも、どなたに御迷惑をおかけすることになるのか、全く未知数で恐いものがありますが、皆さんよろしくお願いします。今、本屋に電話しまくってやっとのこと手に入れた山渓のフリークライミング入門を読んでいます。最後に一言、言わせてください。
「私を岩場に連れてって」いや「私を岩場で引きずり回して」

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