奥武蔵(川浦谷本谷ゴルジュ突破の記録)

1989/7/9
メンバー:松野・鈴木博  松野 記


「川浦谷のゴルジュを水線通しに遡行してみたい」という計画は、以前から持っていた。3年前のルート図では、ゴルジュ内の様子は不明と書かれていて、未知なる沢を求めていた私にとって遡行意欲を掻きたてられるのに充分であった。
今となっては、ゴルジュ内の様子は明らかにされ、未知なる沢ではなくなったが、自分の目で確認をしたく、今回の山行となった。
装備としてボルト、ラープ、クリフハンガー、アブミと悪魔のような武器を揃え、雨具にウェットスパッツ、リストサポートと積極的に水に入れる忍者スタイル(同角沢の時のスタイルだよ。)とした。
7月8日の夜新宿を出発し、8時間程で出合い近くに着く。明日にそなえて集会を少々やって寝る。
6時頃に起き準備をするが、パートナーの鈴木氏の格好を見てビックリ、何と私と同じ忍者スタイルであった。ただし違うところはヘルメットをかぷった忍者であったことである。
出合いから30分ぐらいで釜を持った滝があらわれ、直登を試みるが左側は水量が多くて絶望的。ルートを右側のクラックに求める。ハーケンを打つがリスが浅いので、タイオフにしてからアブミに乗る。さらに2本目のハーケンを打ちアブミに乗ったとたんハーケンが抜け落ちる。気を取り直してもう一度打ち、「今度は利いた」と思って安心していたら、1本目のハーケンが抜けそうな気配を感じたので慌ててアブミをかけて乗り越した。
続いて鈴木氏がトライしている時に、変な声が聞こえたので下を覗いてみると忍者が釜の中にひっくり返っていた。やはり1本目のハーケンが抜けたのであった。
なんとか乗り越したものの2人とも全身ずぶ濡れの状態であった。 さらに水量が多く釜を持った滝を越えていくと、河原状になった。今思えば考えが甘かったが、ゴルジュを突破したと思い、登攀具をしまい昼食とした。30分程休んだ後に出発をした我々の目の前に現われたのは、側壁の高さ30m、幅4mのゴルジュであった。
入口からでは奥の様子はまったく分からないので、とりあえず登攀具を身につけ、最初の5mのF1を左より登る。次のF2は垂直に落ちる10m、ルートを左壁に求めザイルをのばすが、岩がもろく、傾斜もあるために苦労して越える。(4+)
さらにF3、5mを右より超えた我々の目に飛び込んできた光景は、大きな釜を持った4mのF4と、チョックストーンを持った15mのF5であった。
F5は直登は不可能に見えたが、今回の目的が完全遡行であったので、とりあえず下まで行ってみることにする。F4は左壁をへつりぎみに越えようとするが、落口ヘの下降が難しく、また退去する場合を考えて、ハーケンにシュリンゲをかけてゴボウで下降する。F5のルートとして鈴木氏と相談の結果、フリーで越えられそうなチョックストーンと左壁の間のクラックを偵察しに行く。
しかしクラックの両側はつるつるのスラブであり、とてもフリーで越えられそうにもなく、人工で登るにしてもボルトを4、5本使用しなければならない状態であった。(う~、フレンズがあればアメリカンエイドで登れるのにな~、くやしい!)
仕方なくF5はあきらめて高巻くことに決定したが、それからが大変であった。
まずF5の釜に入ってF4の落ロに達し、残置しておいたシュリンゲをゴボウで登り返し、微妙なバランスでへつりぎみのクライムダウンをした。しかし登るのも苦労した場所であり、クライムダウンとなれば神技の持ち主でなければ不可能である。
しばらく2人とも壁に張り付いていたが、鈴木氏が無言で釜の中へ落ちていった。(この場合、ゴルジュ突破会の用語ではフォールダウンと呼ぶ。即ち自分の意思とは関係なく落ちたのである)しかし何か一言、言わなければすまない性格の鈴木氏は、釜につかりながら一言「落ちたほうが楽だよ!」と申した。 その青葉を聞いて碓かに楽かも知れないと思い自分も「落ちた方が楽だ!」と一言いってから釜に落ちた。(この場合はフライングダウンと呼ぷ。即ち自分の意思で落ちたのである)そして2人とも釜につかりながら「落ちたほうが楽なんだ!」とうなずきあった。
さて問題の高巻きルートであるがF3とF4の間のルンゼ状の場所を選び、もろい草付を登っていくとスラブ状の壁になってしまった。下を見ると一直線にゴルジュの底へ続いていて、ここで落ちたら大変だと考えていると上の方にピトンとボルトが連打されているではないか。先人もF5の滝で追い返され、同じ場所にルートを求めたのかと思うと、妙にうれしくなってしまった。
さっそくザイルを付けて20m程でブッシュに入り込んだ。そしてトラバースをしF5の上にあるルンゼに下降して落口に立った。
時間の都合で上部の遡行をあきらめ、左岸にある林道に出てから出合いを目指して歩いた。ゴルジュの完全突破は成し得なかったが、2人の会話は次の遡行の時のF5の登攀方法について花が咲き、車に到着するまでの時間が短く感じられたのを覚えている。
今回の山行は完全遡行は出来なかったものの、ゴルジュの全貌を見ることが出来ただけでも価値があることだと思う。
(追記)F5にはピトン、ボルト等も一切なく未登と思われる。

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