谷川岳・幽ノ沢左俣・中央ルンゼ

1995/10/15
メンバー:木元・杉浦  木元 記


宮城君、昭ちゃん、カモシカスポーツの店員で東京YCCの会員でもある酒井さんと私の四人で、14日の夜に一ノ倉沢出台の避難小屋に泊まる。翌朝は少し寝過ごして05:20に起床、食事もそこそこに昭ちゃんと二人で避難小屋を出て幽ノ沢出合いへ。今回はそこで渓流足袋にはきかえる。出発前に読んだわらじの仲間の年報に、幽ノ沢左俣は渓流足袋の方が歩きやすいという記述があったので、用意してきたのだ。
出合からしばらくは気持ちの良いナメが続く。やがて現れる大滝を左から越すと二俣となり、さらに滝の続く左俣へと進む。
少々嫌らしい滝を越えると間もなく、沢は幅2~3m、高さ4~5mほどのゴルジュとなった。流水に磨かれた白い岩肌がとても美しい。水量は少ないので水に浸かる箇所はまった〈ないが、連続する小滝はみな釜を持っているので、スリップすれば全身濡れる可能性は大きい。天気は良く、歩いていると暑いくらいだが、もう10月も半ばなので濡れるのは避けたかった。
難しいものは高巻ながら慎重に進むと、やがてゴルジュをめけて左俣のカールボーデンに到着した。ここから見上げる大滝は堂々としていて、登攀意欲を十分にそそられるが、こちらはまた次の課題だ。中央ルンゼの取り付きは右の段差を一段上がったその奥になるようだ。フラットソールにはきかえてそこまで一気に掛け登り、小ハングの下でアンザイレンする。
昭ちゃんのリードで登攀開始。小ハングは左から超すがホールドが外傾していて登りずらい。しかし岩は堅いので、思い切って行けばそれほど難し〈はない。
それから先は2~3のスラブが4ピッチ続く。あまり難しくはなく、よく探すとビレイ点もおおむね見つかる。また、切り方によっては3ピッチでも行けるだろう。
傾斜が急になる辺りで、ルンゼを離れて右へトラバース。このピッチは私かリードしたので、核心となる次の4+・A1のピッチは昭ちゃんの番となった。リードしてみるかときくと、彼は少しためらっている。人工登攀に対する苦手意識がぬけていないのだろうか。しかしセカンドとはいえ、一ノ倉沢の滝沢下部ダイレクトを登っているのだから、十分に力はあるはずなのだが……
仕方なく、リードを交代しようかと声をかけたら、彼も腹が決まったのか、「いや、やっぱり行きます。」と、力強い返事が返ってきた。
ザックからアブミを取り出した昭ちゃんは、ていねいにランニングビレイを取りながら慎重にザイルをのばし、人工部分を突破していった。続く垂壁をフリーで越え、姿が見えなくなったところでビレイ解除のコール。私が続いて登っていくと、彼はとても嬉ししそうな様子であった。これをきっかけに、人工ルートにもどんどんチャレンジしてほしいと思う。
続くピッチはブッシュが生い茂っているので、傾斜の緩い右側を適当に登っていったら。左にすっきりしたフェースが見えたのでそちらへトラバース。そこを直上するとビレイ点が見つかった。やはりこちらが正しいルートであった。
その上の快適なスラブを昭ちゃんに続いて登ると、周囲には見憶えのある風景が広がっていた。右を見ると、足元には中央壁の左方ルンゼが続いている。少々あっけないが,ここが終了点であった。
ザイルをほどいて大休止とする。ポカポカと暖かい陽気の中で、広々とした幽ノ沢の景色をじっくりと味わった。あまりにのどかすぎて、前の週の3スラの苦しさが嘘のようであった。
下山は中央壁の頭を経て、堅炭屋根を降りる。 この尾根は悪い道ということで知られているが、今回歩いてみて、特に悪い印象は受けなかった。ただ、ところどころ出ている露岩は、岩質のせいかとても滑りやすいので注意が必要だろう。
走るようにして降り立った芝倉沢出合は、一帯が見事な紅葉に覆われていた。これほどのものはそう何度も、目にできないのではないかと思えるくらい、素晴らしい紅葉であった。

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