一ノ倉沢・烏帽子沢奥壁・中央カンテ

1995/9/2
メンバー:木元・杉浦   杉浦 記


昨年来、一ノ倉に行こう!と思うと雨になったりなんだりと、なかなか足を潜み入れる機会もなく、今年の7月も雨で中止となると、5月の会山行に行っていれば良かったと後悔しきりであったが、7月以来機会があれば行きましょうと話のついていた木元さんと、この日やっとのことで一ノ倉行きとなった。
9月1日の夜、お互い仕事が奇跡的に早く終り、19:30に四ッ谷に集合。これは、幸先良いと気分良く関越を飛ばし、いつもは会社で残業中に聴いているラジオを聴きつつ、出合に着いたのは22:30過ぎであった。実際、職業柄我々二人がこのように早い時間に出発できるのは年に何回とあるものではなく、この日は余裕をもって酒を飲み、睡眠も充分にとることができた。
翌朝05:00に出合を出発し、ポクポク歩いていくが、雪渓が予想をはるかに越えて残っており、木元さんの判断で、ヒョンクリの高巻をパスして左岸の衝立前沢に踏み跡をたどり、そこから雪渓の上に降り立った。まさかこのように雪渓が残っているとは、この夏の暑さを考えると信じられない。前の週にナルミズ沢を遡行した折、朝日岳の稜線から見て、けっこう残っているなぁとは思ったが、これほどとは...。アイスハンマーなどの装備もないので、本谷までの急な下降には緊張させられた。
本谷から雪渓づたいにテールリッジに這い上がり、中央カンテの取り付きには07:00ごろ到着。そこには既に2パーティがおり、1パーティ目のトップが登り始めたところであった。この日の一ノ倉は、凹状岩壁に1パーティ、中央カンテに我々も含めて4パーティ、変形チムニーに2パーティ、南稜に数パーティと、ここらあたりだけは混雑しているが、衝立にも滝沢方面にも人影はなく、全体で見れば静かなものだった。先行の2パーティ目を待って、我々も登攀を開始する。
1ピッチ目、杉浦のリードで取り付く。思ったよりも細かくて、しかものっけから脆いのには参った。2ピッチ目も同様で、脆いフェースが続く。3ピッチ目から中央カンテに入るが、ここらあたりは岩もまあ堅く、快適な登攀となった。空中に張り出したようなカンテを登るのはまことにいい気分である。天気も良く午前中だけだったが)、気持ちの良い登攀が続く。もうニコニコ顔で登っているようなものだ。しかし、そんな気分もそう長く続くものではなく、中央部のチムニー手前で先行パーティに追い付き、しかも変形チムニーからのパーティも合流しており、しばしの順番待ちとなった。まあ小休止みたいなもんだと思い、5ピッチ目はまだ15mほどしか登っていないが、ちょうど都合の良い場所にビレイ点もあるので、本元さんにも上がってきてもらう。
変形チムニーからのパーティを待って、登攀再開となった。6ピッチ目のチムニーは手強いらしく、木元さんも少々苦労しているようだ。実際、チムニーからは体を出して登るのだが、岩が脆いこともあるのか、残置ピンはチムニーの中に打ってあり、ここからランニングをとるのはさぞ難儀であったろうと思う。脆い岩を避けながらのクライミングは、ホールド限定のクライミングのようでなかなか辛いものがあった。
続く7ピッチ目は、草もなく、広々としたフェイスで快適だ。けっこうランナウトした部分もあったが、先ほどのチムニーに比べると岩も堅く、不安はなかった。ただ、右に回り込むようにルートが続いていたので、ロープの流れが悪く、ビレイ点に着くころにはもう、やたらとロープが重くなってしまったのには参った。
8ピッチ目は人工混じりで四畳半テラスに上がるが、崩壊が激しく、二畳ほどしかない。真上のクラックも崩壊していて、人工混じりであった。杉浦は自他ともに認める人工ヘタクソ野郎で、本元さんもそのあたり充分な理解を持っているのか、8ピッチ目はこのテラスでピッチを切るところをクラック上まで登っていった。思いやりなのか信用されていないのか、まあ後者の方であろうが、人工登攀の能力向上は今後の大きな課題である。
そこから2ピッチ、ところどころ濡れてはいたが問題なく烏帽子岩直下まで登りいよいよ最終ピッチとなった。「このピッチは濡れてて、登る人みんなが悪い悪いって言うんだよねぇ。」と、本元さんが忠告をしてくれたが、終了点はもう目と鼻の先であり、「ああ、そうですか。」と聞き流して登り始めたが、それは大きな間違いだった。傾斜はないがうっすらとコケが生えたようなルンゼは、フリクションがほとんど効かず、岩は全ピッチ中最も脆く、数少ない残置ピンは腐ってグラグラ。打とうにも脆くてアテにならんと、悪条件の重なる冷や汗もののピッチであったが、このような悪いピッチをリードできたことで、なんとなく責任を果たしたという気持ちもあり、決して悪い気分ではなかった。
終了点から踏み跡を登り、上のテラスで昼食をとる。12:00ちょうど。順番待ちがあった割にはいいベースで登ってきたと思う。
その後、ところどころキンクして岩に引っかかる杉浦のロープをののしりつつ、6ルンゼを下降。再び悪い雪渓を下り、出合に戻ったのは15:30だった。この頃になるとだいぶ雲が厚くなってきていて、ひと雨きそうな感じだ。もし雪渓の上で雨となったら、かなりのピンチに陥ったと思う。天気予報では翌日の雨を伝えており、幽ノ沢中央ルンゼヘ向かう予定を中止して、帰京することとした。

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