錫杖岳前衛フェース登攀報告

1995/8/16~20
メンバー:桜井・松野・平舘・宮城  松野 記


 8月16日 (水)
8時30分に西国分寺駅で集合し、一路新穂高温泉を目指して車を走らせる。久しぶりの本チャンに興奮している自分に気付き、スピードを出しすぎないように150K mぐらいで走った。車内ではこの前の水根沢のこと(滑り台外人短パンビリビリ事件?・謎のセーラームーン人形〉や、前衛フェースのルート、温泉の話などで盛り上がった。槍見温泉入り口の駐車場に車をとめて一杯やってから寝る。

 8月17日(水) 「左正方カンテルート」

槍見温泉脇の登山道を登り小尾根を乗来っ越してしばらく行くと、クリヤ谷にでた。今回はベースを沢に張ることになっていたので釣り竿を持ってきた。「岩登りをしながら釣りでもやってやろう。」と内心ワクワクしていた。休んだところで沢の様子を見ると「ワー岩魚がウジャウジャいる。」ではなくて、「ワーなんにもいない。」であった。期待していただけに少しガッカリしながら歩くと錫杖沢の出合いに着いた。(駐車場から1時間30分程度)
最初の計画ではここから錫杖沢を30分ほど登った岩小屋ににベースを張る予定であったが、思いの外、岩場までの距離が近そうなのでここにベースを張ることにした。(事実、錫杖沢の出合いから30分程度で岩壁基部へいける。)
ベースを張ってから岩場に向かう途中でビールを冷やして、帰ってきてからのお楽しみをつくっておく。(今回はアプローチが近いということで一人リットルもビールをもってきた。)錫杖沢から北沢に入り岩壁の基部を右にトラバースすると取り付きの広場にでた。  今日のルートは「左方カンテ」として、桜井・宮城パーティが先に登りはじめる。我々は1ピッチ目を平舘リードで登り始めた。
短いチムニーから浮き石が沢山あるガラガラのルンゼ状を40m、注意していても落石を起こしてしまうようなところである。2ピッチ目、ルンゼ状をさらに登るが、相変わらず浮き石が多い。途中かぶりぎみの部分があり4級プラスぐらいに感じた。この部分を越えるとピナクルのあるカンテに出てピッチを切る。(この2ピッチはピナクルのあるカンテに直接出ているため「日本の岩場」にでているルート図より1本右側のルンゼを登ったと思われる。)
次のピッチをリードしている宮城君のヘルメットが見えるが、ルートがわからないらしい。「やはり初めての岩場はルートが解りずらいのだろう」と思いながら待つ。しばらくしてからすぐ上でピッチを切り、桜井さんが登り始めた。セカンドをビレイしながら「ルートは解ったかなあ?」と心配していると、突然二人が大声で四文字コールを連呼し始めたではないか!「なめてる!」「なめてる!」私は意味か解らず、「また桜井さんの得意技がよりによってこんな場所で始まったか。」と思った。
続いて3ピッチ目は平舘がハングぎみのスラブをA0で越えていく。セカンドの私はフリーで越えた。(「日本の岩場」では5級・A1となっているが、これは誤りであろう。フリーで5級プラスまたは4級・A0が妥当ではないだろうか。)テラスに着いて次のピッチを見ると、ルート図では4級マイナスとなっているが歩けるような場所になっているではないか。なるほど、四文字コールの意味が解った。私もつぶやいた「なめ・なめ・なめてる」と。
20mほど歩いて4ピッチ目を終了。5ピッチ目はチョックストーンのあるチムニー、6ピッチ目はチムニー左側のクラックのはしっているフェースを登る。この6ピッチ目は非常に快適なクライミングができる。(ルート図の5ピッチ目を2ピッチに分けて登った。〉 7ピッチ目は洞穴の下を左トラバースして、リッジにでる。
次の8ピッチ目はこのルートで一番楽しめる?ところである。まず登り始めの方法で考えさせられ、人間ナッツの恐怖に耐え、グラグラの大木に驚かされる。5mほど平らな場所を歩き登り始めようとすると、まず目に入るのが右にあるオフウィズスのチムニーである。このチムニーそこから始まっていると思いきや、なんとはるか10mぐらい下から始まっているではないか。そして今自分が乗っている岩の状態に気づく、チムニーにあるチョックストーンではないか。ようするにテラスの延長だと思って歩いていくと、巨大なチムニーのチョックストーンの上に自然に乗ってしまうのである。右の深いチムニーを気にしながらハングぎみの所を登ろうとするがガバホールドまでの一手が届かない。左の木に登って越えようとするが揺れてどうしても上手くいかないのでもう一度正面からガバホールド目指して頑張りやっと届いた。
この部分3通りの登り方がある。左の木登り、正面から、右のチムニー。〈セカンドの平舘は木登りをしたそうです。〉その後は左のフエースを登るが、ここがまた登れば登るほど恐くなる。落ちれば巨大なチムニーに挟まって救出不能な人間ナッツの出来上がりである。恐怖に耐えながらテラスの大きな木を掴むと、グラリ、あ一驚いた。
9ピッチ目はスラブを登りブッシュに入って終了点にでた。下降は同ルートを懸垂でおりた。取り付きの広場にギヤ類をデポして、 (他の岩場ではこんなこと考えられないが、人があまりいないため安心して置くことができた。)ビールの待っているベースまで駆け下りた。冷えたビールと、カツ丼(ジフィーズではなくて本物だよ)と、盛大な焚き火が楽しかった。

 8月18日(金) 「一ルンゼ」

今日もビールを冷やしてから出発する。 「左方カンテルート」の取り付きからさらに右へ下りぎみのトラバースをしていくと、一ルンゼの取り付きである。昨日と同じように桜井・宮城パーティが先行し、終了点で待っていることにした。我々は1ピッチ目を平舘のリードで登り始める。ルンゼのチムニーから左のフェースを登りピレイ解除の声が掛かる。私はビレイをしている時から腹の調子が悪くなり、このまま我慢して登ろうかどうしようか迷っていたが、登ろうとした時についに我慢出来なくなり大キジを打った。登り始めるとルート図では4級プラスになっているがとてつもなく難しい。特にテラス直下の10mが垂直のクラックで5級プラス以上に感じた。恥ずかしいことであるが、セカンドでテンションをかけてしまった。その後A0でも苦労しながらやっとのことでテラスに這いあがった。テラスに上がった私は「おじいちゃん状態」と化してしまった。
次のピッチは私がリードする番であったが、腹の調子が悪い、右の腰が痛い、腕力が尽きたの三重苦に苦しむ「おじいちゃん」はパートナーにここで降りようとお願いすると、若く、優しい女性は快く了解してくれた。気持ちが楽になった「おじいちゃん」は1時間も休み、なんと行動食のパンを2人分も平らげてしまった。
降りようとして準備をはじめると「おじいちゃん」は先行している仲間の存在に気づいた。大声を出して呼びかけるがどうしても連絡できない。そうこうしているうちに、無くしかけた青春の炎が「おじいちゃん」に戻ってきた。「よし、いくぞ。」と急に気が変わって2ピッチ目をリードした。3ピッチ目はルンゼを登り、4ピッチ目は我々はルンゼどうしではなく、左の階段状の部分を登ったが、大テラスまでロープが足りなくなってしまった。大テラスの10mほど手前でピッチを切った。この3、4ピッチ目は易しくどこでも登れる。5ピッチ目は凹角の左から右へ横断するように登り、最後はバンドを左にトラバースする。
このトラバースは下り気味なためセカンド想い。6ピッチ日はルンゼ左のリッジを人工で直上後、ハングの下を左にトラバースしてからテラスへ行く。この部分、ピトンが古くいやなピッチである。7ピッチ目、このピッチもルートは何本かあるようで我々は左側の緩いスラブを登った。
最終ピッチは、ビレイ点から右に出て、ルンゼを直上する。しばらくすると、トップの平舘と桜井さんの話声が聞こえてきたので終了点が近いらしいことが私にも解った。しかし、「どっちに行くのですか。」と言う声ばかりでなかなかザイルが伸びない。だいぶ時間が過ぎたころビレイ解除の声がかかり私も行ってみると、ピトンがいろいろな場所にあり、どこが本当のルートなのか解らない所であった。しかも、後から解ったことであるが桜井さん達はかなり広い終了点を移動しながらトップの平舘と話をしていたために、平舘はどこが終了点なのかかなり迷ったそうである。全員で同ルートを下降して、ビールの待つベースに戻った。

 8月19日 (土)  「三ルンゼ」

前夜の打ち合わせで、日曜日は下山して温泉に浸かって帰るだけならば、明日中に下山して早く温泉に行こうと言う事になった。4時までにベースに戻ってくることを約束して、桜井・宮城パーティは「北沢フェース」へ、我々は三ルンゼに行く こととした。取り付きの広場で桜井パーティと別れ昨日の一ルンゼを通り三ルンゼを目指す。取り付きが解るか心配だったが、深い切れ込みを見せるルンゼであり、間違えることはないだろう。取り付きから見る三ルンゼは緩く右にカーブしていて、全容が見えない。これからどんなところが出てくるのだろうとワクワクさせられる。 なんかこれから探検をするような気分にさせられる。 (10時30分 登攀開始)
1ピッチ目、ルンゼの中を忠実に登る。チョックストーンを左から右に越えるが、濡れている。2ピッチ目、ルート図では左のカンテを登ることになっているが、我々はルンゼを忠実に登った。3ピッチ目、またまたルート図と異なりルンゼ内をチョックストーンを越えて登る。この部分が一番難しかった。しかし、今日は「おじいちゃん」ではない私は果敢に挑み、最近の人工壁で鍛えたフリーの技術を遺憾なく発揮して無事に越えた。(この部分5.12aと言うのは嘘で、5.8ぐらいです。うー悲しい。)
4ピッチ目、このピッチを「ビックリ ピッチ」と名付けよう。しかし、ビックリさせたい人〈 ビレイヤーがビックリ させられる。)はルート図の左のフェースではなくて、ルンゼ内のチムニーからチョックストーンを越えましょ-。なぜ、ビックリさせられるかって?言ってしまったらおもしろくないでしょう。自分で登ってください。ただ、一言だけ言わせてください。ビレイヤーはチムニーに入っていったトップの様子をよく見ていて下さい。
5ピッチ目、ルート図どうりに右壁からチョックストーンの上を左に横断して終了。 登りはじめの一動作だけA Oになる。ここもトップは楽しくて、思わずビレイヤーを見てニヤリとしてしまう。6ピッチ目、ルートは3通りぐらいえらべるが、我々は垂直な左壁をA1またはA0で登った。ここを登ると目の前が開け、P3とP4のコルまではザイル無しで行って終了した。(1時30分 終了)さて、下降の方法であるが、3ルンゼだけならば裏側の沢に降りれば45分ぐらいでベースに戻る事が出来る。(初めてだと解りづらいので、次に行く人は私に問いて下さい。)もし、継続するならば同ルート下降となるであろう。我々は2時まで休み、裏側の沢を下って3時前にはベースにもどった。桜井さん達が戻ってくるとビールを飲みベースを撤収して、温泉の待つ駐車場までかけくだった。(45分ぐらいで戻れる。)その晩はまず、中崎山荘の露天風呂に入り、(トマトが無料だよ)、河原の無料露天風呂でビールを飲みながらバカ話に花が咲いた。

 まとめ

北アルプスの岩登りと言うと、どうしても屏風岩や滝谷が思い浮かぶが、今回錫杖岳に行ってみて、まだまだ人が行かないが楽しい場所があるのだなあと感じた。アプローチは近いし、焚き火は出来るし、ルートも面白いし、温泉は入れるし、楽しいことだらけである。
そこで、私からの提案です。会の夏合宿を屏風岩や滝谷などのポピュラーな場所にすると、「もうほとんどのルートを登ったからいいや」と言う人(私を含めて)が多くなり、参加人数が減ってしまいます。ですからその方面は個人山行で行ける余地を残しておいて、会の合宿としては、マイナーな場所(錫杖岳、笠ケ岳、など)に行くようにしたらどうでしょうか?既成ルートを登るのもいいし、
会の総カをあげてルート開拓をするのもいいでしょう。(開拓の余地は無数にある。)

戻る

Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Google Bookmarks