北岳バットレス下部フランケ~第4尾根主稜

1995/7/29
メンバー:宮城・杉浦 杉浦 記


7月会山行参加の一行、桜井さんはじめ9名が広河原に着いたのは、すでに午前1時を回っていた。広河原は予想以上に車が多く、駐車場は全て満杯。路肩にも車がズラッと並んでいる状態で、スペースを探してウロウロするがどこにも空きはなく、少々速いのを我慢してスーパー林道をやや戻った路肩に駐車。道路脇と、橋のたもとの空き地の二手に別れてビバークとなった。
翌朝は4:30に起床、5:00の出発である。昨晩シュラフカバーに入ったのは2:30であったので、2時間ほどしか眠っていない。ボンヤリとした目をこすりつつアプローチヘ向かう。
大樺沢沿いの登山道は、ハイカーがはるか上まで列をなしており、なかなかベースが上がらない。のんびり歩いて7:00過ぎに二俣に到着。ここでで白根御池小屋までベース設営に向かう面々としばし別れ、左俣をさらにつめる。順番待ち解消の時間差作戦だが、なんだか申し訳ないような気もしてしまう。
下部岩壁の取付には既に数パーティがおり、ビラミッドフェースに取り付いているパーティも見える。我々3人、下野さん、裕二郎さん、杉浦はdガリー大滝へと向かった。大滝2ピッチをリードしたが、ビラミッドフェース側からの落石が多いのにはまいった。崩壊のうわさは本当だったのか、あるいは常にこんなに落石があるのだろうか・・・・・・。
大滝上でパーティの入れ替えを行なった。下野さん・裕二郎さんパーティ、宮城君に杉浦パーティがそれぞれ下部フランケヘ、木元さん・小林君パーティはそのまま奥壁へ、そして村上さん・倉島さんパーティはビラミッドフェースを登攀中とのことである。大滝下から「マイヨール!マイヨール!」と絶叫しながら登ってくる宮城君を待って、登攀開始となった。
1ピッチ目、杉浦リードで取り付く。Ⅴ-ということだが、全くそんな気配はなく、右のルンゼ状になったところでビレイ。本当はもう少し左だったらしい。草付をトラバースして、3ピッチ目からが実質的な取付のようだ。ここは宮城君がリードする。Ⅳ・Al、オールフリーなら5.10aということだが、AOで越えていく。
宮域君のクライミングは、パワフルでスピード感があり、岩登りがもう面白くてたまらないという空気を発散させているようで、見ている方もなかなか気分がよくなってきてしまう。テラスに出たところから、さらに凹角が一直線に続いておりルートは一目で判る。続く4ピッチ目も凹角からハングを回り込むが、下のピッチはど厳しくはない。
フェースに出たところからは、八本歯のコルがよく見え、時折ガスが沸いてくるが青空が広がり、はるか下方には大樺沢の雪渓を見下ろす最高のロケーションだ。岩も堅く、まさに快適の一言に尽きる。
このピッチも安定したテラスがあり、凹角はまだ上へ続いている。この時点で取り付きが遅かったこともあり、上部フランケヘはつなげずに第4尾根主稜経由で頂上へ向かうことにした。
次のピッチが下部フランケの最終ピッチである。上部は逆層のフェースで、しばらく凹角を登ってきたためか、少し悪く感じた。ビレイ点に着くとどうも様子がおかしい。上郡フランケ取り付きへ向かう、Ⅱのトラバースルートが見当たらないのである。我々はもはや上部へつなげるつもりはないので、別に関係ないのだが、やはり不安だ。そのうち、ビラミッドフェースからのパーティが合流してきた。どうもビラミッドフェースに入り込んでしまったらしいのだが、そのパーティが言うところには、ビラミッドフェースの最終ピッチのビレイ点でもないらしい。ビラミッドフェースの終了点はもう少し上だという。するとここはいったいどこなのか・・・・・・。
まあ、考えても仕方ないので、このまま右上して第4尾根主稜に出ることにする。下野さん・裕二郎さんのパーティはここから同ルートを下降して行った。40mのトラバースで出たところは、第4尾根『白い岩』の下のピッチの、中間部であるようだ。そのまま登攀を続行する。
時としてピッチの切り方が変わってしまったが(杉浦が悪い〉、第4尾根主稜自体、特に問題となるような箇所もなく順当に高度をかせぐ。高度感のあるリッジは展望も良く、楽しいところだ。
マッチ箱の懸垂点で、Dガリー奥壁上部に木元さん・小林君パーティが見えた。その下に、ビラミッドフェースから転進してきた村上さんと倉島さんの姿も見える。コールを交わしてさらに登り、結局、トラバース地点から6ピッチで終了点にたどり着いたのは、午後5時を過ぎていた。
ここでDガリー奥壁組と合流し、頂上経由で下山にかかる頃には、睡眠不足と一日の疲れでヘロヘロ状態に近かった。しかし夕暮れの北岳山頂は風もあまりなく、しんとしており、なんとも爽やかで気持ちの良いところであった。目の前の鳳凰三山などを挑めつつボーッとする時間が、この日一日で一番いい時間だったと思う。疲労した休も、脱力感も、なんとも心地よく、こんな瞬間もクライミングの魅力の一つなんだなぁと、しみじみ感じ入ってしまうのだった。
下山中、肩の小屋のあたりから甲斐駒ヶ岳が正面によく見える。そこから見る甲斐駒は、ひときわカッコよく、堂々として実に美しい。いつか機会があれば、甲斐駒にも登ってみたいなあと思ってはいたが、まさか翌日に登ることになるとは・・・・・・。その時は、想像すらできなかった。
佐藤さんの事故はしかし、悔やまれてならない。

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