谷川岳一ノ倉沢中央稜

1997/6/1
メンバー:山本〈裕)・福地・山下  山下 記


前日は、小雨と霧のため視界が悪く高度感を十分に味わうことが出来なかったが、今日は足が震えるほど楽しめるだろう。早朝、テントから顔をだして空を見上げ天候の良いことに安心した。私にとって一ノ倉沢は初めての経験でした。これまで谷川には何度も行っているのですが、一ノ倉沢出合いから谷川の岩壁を眺めるはかりで、まさか自分がその岩岩壁を登るとは想像することすら思いつきませんでした。思えば当時、出合いで見かけたクイマーの姿を見て「何と恐ろしい事をする人達だろう。」と驚きと羨望の目で見ていたのでした。今、自分がそのクライマーの姿をしていることに、何やら誇らしいような、場違いの所に来てしまったような一種妙な想いがしました。
前日、山本武治さんと南稜をつるべで登ったのですが、二日目はその山本さんが、桜井さんのパーティーで衝立岩ダイレクトカンテに挑戦するため、私は山本裕次郎さんの指導のもと中央稜に挑戦することにしました。山本さんは、息も切らさずテールリッジを尾根歩きのように登っていくのですが、私と福地さんにとっては既に岩登りそのものでした。
結構恐い思いをしながら中央稜の取り付きに至り、急いで登攀準備をしたのですが、山本さんは早くもビレイセットを終了しており私達二人に対して「どっちがリードするの。」と言ったのです。緊張していて余裕のない二人は共に顔を見合わせたのですが、前日、福地さんは南稜をオールリードしていたのでここは私が行くしかないと思いい「山下が行きます。」と返事したのです。いくら一ノ倉沢二日目とはいえ最初からリードはあまりしたくないのですが覚悟を決めたのです。全身に緊張の電流が走るのが感じられました。
1ピッチ目は傾斜があるので何とか落ち着いてクリアーしたな、と思ったのが大まちがい、ビレイセットの段階でビレイ用シュリンゲが知恵の輪状態になってしまい早くもパニックを迎えてしまいました。更にまた間違い、山本さんが上がってきて「後続パーティーが居るんだから奥のピレイポイントにセットしなければだめだよ。」と指摘されました。
2ピッチ目も私がリードしたのですが、また間違い、泥のルンゼを落石してはいけないと登ったまでは良かったのですが、直上した所にピレイポイントが見えたので「あれが次のテラスだな」とかってに判断して直登。「いやに難しいな、これが3級か、嘘だろう」と思いつつも四若八苦したのちビレイセットしたのです。セカンドの福地さんも「随分むずかしいな」といった顔をして登って来たのですが、山本さんが来て「ここは人工ルートだなルート間違いだよ、懸垂で降りよう、でも良くこんなとこ登れたね。」と言われて初めて間違いに気付く始末でした。
その後も山下、福地のクライミングはドタバタ劇でしたが、怪我することなく下山できました。よくもまあ、山本さんは、こんな私達を見守ってくれたものだと深く感謝しています。これに懲りて、私達を見捨ることのないようお願いします。
下山途中、桜井さんのパーティーの中年隊代表選手、三浦、山本〈武)に会ったのですが、「都岳連。中高年衝立岩登山教室」生徒両名、一ノ倉沢、衝立岩をついに登攀する!といった誇らしげな、疲れ切った顔が印象的でした。おじさん達もよくもここまで来たものだ、晴れ晴れしたすばらしい二日間でした。

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