爺ヶ岳~鹿島槍縦走

2015/5/2-4
長谷川 単独


大人の遊びをしに行こう。今年は休み期間がたっぷり5日間。贅沢に時間を使おう。だったら今回こそはずっと行けずに宿題になりっぱなしの、鹿島槍を登るのだ。

最初は日曜出発のつもりでいたが、好天が長く続かないと見て土曜に前倒しにした。その分準備が大変だったが、何とか荷物をまとめきり、土曜朝5時半自宅を出る。新宿7時発の特急は、意外に座れてしまった。休みが長くて分散したのだろう。安心し時々うたた寝しながら松本まで。大糸線に乗り換え、信濃大町へ。更にバスで扇沢へ正午近くに着く。
扇沢の橋へ歩いて行くのは、2年前同様自分一人だけ。晴天で暑く、道の周囲にも残雪がまったくない。冬靴で来たのがかえって不安になるほどだ。完全に夏道になっているのでは、と思うが橋を渡り登山道に入ってしばし進むと、「柏原新道は積雪で通行不能。爺ヶ岳南尾根へ」と前回も見た立札が。今回はあらかじめそのつもりでいるので、なんの不安もなく書かれた道筋へ進む。道は土が完全に露出し、その分藪がやたらうるさく感じる。しかも暑苦しい。
登るにつれ、降りてくる人とぽつぽつすれ違う。やがて何やら人の名をさかんに呼びながら降りる男性が。
「携帯を借りられますか」と。何事か問うと、この上の方で沢の方へ迷い込み、戻る途中で同行者とはぐれたのだと。警察に連絡したいが、自分の携帯はバッテリーが切れたので借りたい、とのことで貸すがさすがに圏外。下山して早急に警察に連絡するように言う。その後ずっと気になっていたが、捜索のヘリも飛ぶ様子もなく、後日遭難の報道も目にしないので、おそらく自力下山したのだ、と思いたい。
やがて藪尾根の右にようやく雪渓を見るようになる。アイゼンを装着して雪面に出ると、鬱陶しい歩きから開放された。アックスを突き刺しながらの急登を何度か繰り返すと、前回のビバーク地をいつしか通過して、
テントが数張り並ぶ緩く広い雪原に出た。ジャンクション・ピークだ。時刻は4時手前。当然宿泊決定。
下部の方に雪をならして張った跡があったので、そのままいただいてソロテントを設営。水をまず1.5?作った後、だらだら酒を飲んで夜へ向かう。静かでいい気分でいたら、6時を過ぎて5人ほどの関西弁パーティがどやどや現れ、すぐ間近に二つ張って居座ってしまった。この先50メートルの緩斜面に3張りしかなかったのだぞ。スコップまであるなら、階段場に雪を削ってどこでも設営できるだろうに。
ウイスキーの力で関西弁を頭から追い出し、8時過ぎに寝る。

翌朝、3時過ぎに関西弁がざわつき始める。5時出発らしい。だがこちらは4時まで寝ているつもりでいるのだ。少しは静かに行動できないのか。結局耳障りなので起きてしまう。お茶と飯をすませ、テント内の整理も5時には終え、後は外に出て撤収作業をするだけなのだが、隣はまだだらだら飯を食っているらしい。呆れてしまい、再び横になり待つこと30分。ようやく隣が出発。しかもテントは張ったままだ。空荷でピストンならば1時間で準備して出られるだろうに、生活技術が低すぎだよ。怒りながら撤収。
青空を見上げると爺ヶ岳目指して20人位が行列を作っている。時間をずらしたので、目論見通り一人静かに山登りを楽しめそうだ。出発6時。
気温が高く、雪がかなり柔らかいが、かえって足が流れてしまいそうでアイゼンは付けている。だがちょっとした雪壁を越えると、上から下りて来る人とすれ違い「この先鹿島槍ピークまで、ノーアイゼンだよ」と教わる。実際、南峰の急登にかかった途端完全に夏道が出現するのだ。前回はこの辺から強風でひどく寒く、地吹雪の冬山だったのを思い出しながら登る。今回はフリースすら脱いでいる。楽なのだが、その割に足が重いのはこれは高度障害がどうやら出ているなあ。連休前に2週続けてボッカをし、荷物に負けているのではない筈なのだ。前回の敗因はそういう事だったのだな。そう噛み締めつつ登り、南峰を踏み越え中峰へ。
ザックを地に置き北に目をやると、冷池山荘の屋根を足下にし後方に鹿島槍がそびえる。ここまでが前回。ここからがようやく、新章突入。
北へ緩く下る事1時間。小さな林を抜けると冷池山荘に着いた。行動食を食べ、小屋の受付で天気の確認。
「今日は好天。明日、明後日は崩れます。明日はもう雨が降ります。確実に」と断言。
「じゃあ今日鹿島槍ピークを登ったら、明日は帰るだけにした方がいいのかな?」「それがいいですね」
従うべきだろう。この山を彼以上に知る者はいないのだ。五竜へ抜けるプランは中止する。ここにテントを張り、空荷でピークへピストンと決定。丁度テント場が空きだしたところで、整地も必要なく早々に貼り終え、最低限の荷だけザックに詰めて10時に出発。
小屋からしばらくは緩い傾斜で雪が復活するが、また急登に入ると夏道が露出する。布引山の手前2500mくらいだろうか、それまで一旦楽だったのが再び息苦しい気配。高度障害の境目なのだろう。意識的にリズムを作るようにしながら足を上げて行く。見えているのになかなか近づかないピークに苛立つが、やがてそれも終わりが来る。午をまわった頃、鹿島槍南峰のピークに立った、と言うか座り込んだ。
ようやく来たなあ、だがこの先も山は続くのだ。ここから五竜までは見るからに険しい登下降が連続し、これは無理だなあ。しっかり高度に順応した体を作らないと、荷を背負ったら確実に岩から振り落とされる。ここまでが今の自分の限界だ。しかし限界まで登ったことに満足した。いいさ、またいつかこの先の景色を見に来よう。山が続く分だけ夢の続きがあるのは幸せな事だ。
今来た道を時々振り返りながら戻り、2時前にテントに着いた。暑いのでテントの入口を全開にし、昼間だが一人で祝杯をあげる。やるべきことをやったのだ。飲むぞ。

朝方からもう、弱い雨だった。小屋番の言う通りだ。5時に雨が切れた隙に、撤収して下山開始。暫くは小康状態が続く。爺ヶ岳南尾根に着いたところで、また小雨になった。周囲はガスだらけで、眼鏡もくもり視界は効かない。下山ルートを確実にひろいながらゆっくり踏んで降りる。雨はほどなくあがり、後は楽になった。
柏原新道に合流するあたりから又、雨になりカッパを着た。そのまま歩き続けて扇沢には11時過ぎに着いて終了。
バスを待っているとおや、田中君がいるではないか。鹿島槍東尾根を昨日登って小屋に泊まったのだと。ということは、途中どこかで遭ったかな? いや、お互いサングラスしてると誰だかわかんないだろうね。とにかくお疲れさまでした。今回は忘れ物も落し物もなし。反省? そんな後ろ向きな事誰がするもんか。

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