葛根田川 北ノ又沢 右俣

2014/8/14-17
鈴木、大沼、中村  記 中村


 昨年の双六谷に続いて、今年の夏も沢合宿に参加した。
当初、川内山塊の杉川を遡行の予定だったが、天候を考慮して葛根田川に転戦した。

8月13日の午後2時30分に新宿を出発し盛岡ICを目指した。
インター近くのイオンで今晩の宴会装備等を買って、滝ノ上温泉の駐車場に着いたのは午後11時30分、実に9時間の長丁場、やっぱり岩手は遠かった。
駐車場にテントが1張、休憩舎の中に5人の先客、同じく葛根田川の遡行のようだ。

14日朝、目を覚ますと眼前に葛根田川が流れているのだが、どう見ても濁流としか見えない。
こんな状況で遡行できるのかという疑問がわいたが、雨も降っておらず入渓点まで行ってみようと7時15分出発。
地熱発電所の設備を過ぎて左岸からの支流が上流部で崩壊しているらしく、茶色の水流を本流に注いでいた。
この支流を過ぎてから本流の濁りはなくなって、本来の葛根田川の姿を目にすることができた。
しかし、水量は多めである。入渓点近くで先行していた5人パーティーが引き返してきた。
聴くと先にスズメバチがいて刺されたとのこと。大事をとって引き返すようだ。
我々もスズメバチに注意しながら歩を進め、入渓した。

最初は河原歩きで時々膝上の渡渉があるが問題なく進んでいく。
両岸を広葉樹が覆いつくし、紅葉の季節には素晴らしい景色になるだろう。
右岸に左岸にと美しいナメ滝を懸けた本流をのんびりと遡行を続けていくと、両岸が狭まりナメ床を水が奔流するようになってきた。
小さな函場を右岸から越え、少し行くと葛根田川の名所である「お函」が現れた。
白いナメ床をえぐってエメラルドグリーンの水流が迸っている。
左岸をへつりぎみに進むが、水量が多いので慎重に行動する。
過去の資料などでは両岸のナメが水につかっていないのだが、今日は15cmほど浸かった状態だ。
右岸にきれいな滝を見ると「お函」も終了、左から大石沢を迎える。
出合に2~3天用のテン場あり。
昨日駐車場に張っていたと思われるテントが張られていた。

岩魚のいそうなポイントが続くが、本日のサイト地である滝ノ又沢出合をめざす。
途中、大石沢出会いのテントの主、2人パーティが釣りをしていた。
先行がいるらしく1匹しか釣れていないとのこと。釣りたい気持ちを抑えて先を急ぐ。
中ノ又沢を分けて進むと葛根田大滝(15m)が現れる。
滝つぼに大物が潜んでいそうだが、じっと我慢して左岸の高巻き。しっかりした踏み跡あり。
大滝の上は河原状で間もなく滝ノ又沢出合に着く(12時15分)。
先行1名がツエルトを張ってまったりとしていた。
出合の下流部左岸にテン場複数あり、我々は一段高いところにテントを張った。

まずは薪集めに精を出す。各自手分けして今夜分の薪を確保した。
天候は朝に比べると回復気味で薄日がでている。
燃料確保の次は食糧確保である。
大沼さんはトンボを餌に、私はテンカラで岩魚を狙った。
2時間ほどで大沼さん5匹、私が1匹の釣果。3人分としては十分の成果だ。
早速火を熾して食事の準備だが、大沼シェフにすべてお任せ。
刺身、唐揚げ、塩焼きとフルコースを楽しんだ。
ゆっくり日は暮れて、うっすら星も見える。
天気予報は良くないが一縷の望みを抱いて眠りについた。

翌15日は雨音で目を覚ます。
少し下流に泊まっていた5人パーティーが先行。
この時点ではそれほど水量は増えておらず笹濁り状態。
重い気持ちに発破をかけ、食事を済ませ9時出発。
今日はとりあえず八瀬森山荘をめざしていくことにした。
山荘で先の予定を決めることにしていたが進むうちに水量が増え、水の色も茶色になってきた。
水が増えてきたので先を急ぐあまり、八瀬森山荘へ突き上げる沢(左俣)を見逃してしまい、そのまま右俣を進んでしまった。
20mの滝は水量が少なければ直登できそうだが今の状態では無理。
右岸に巻き道があるらしいので探してみるが見つからず中央突破することにした。
まず博道さんが空身で左壁を3mほど登って小さなルンゼから灌木をつかんで直上、落ち口上の木でビレイ。
続いて大沼さんがザックを背負って登り、博道さんが下まで下降したのち、大沼さんに上でビレイしてもらって私、博道さんの順で上がった。
途中、灌木、根曲り頼りのクライミングになるが足場が悪く緊張した。
懸垂で沢床に降りるがナメ床いっぱいに水が流れ、足を取られると滝つぼまでまっさかさまだ。

悪場を過ぎても緊張は解けない。上流に進めば進むほど水量が増してくる。
普段ならナメが美しくてルンルンなところもこの水じゃと泣きが入る。
しばらく奔流の中を進み、右岸から30mの立派なナメ滝を懸けると連瀑帯の始まりだ。
最初の10m滝は水量が多いが右側が登れそう。
アクアステルスがよく効いて登ったは良いが次の15m滝が登れそうもない。
ドウ~という轟音とともにすさまじい量の水が落ちている。
左岸から巻くが泥壁のトラバースが悪い。
小尾根を乗越し、灌木、根曲りにぶら下がりながら急斜面を降りる。
続く8m滝も直瀑で水量がすごく、左岸のルンゼから高巻く。
小さく巻こうとするがトラバースが悪く、小尾根に上がってしまった。
そこから先を偵察するが、少し上流に大きな(10mほど)の滝が懸っており大量の濁流が目に入った。
3人で相談し、このまま沢沿いに遡行することを諦め尾根を進むことにした(15時30分)。

ここからは水の恐怖からは解放されたもののヤブとの戦いの始まりだ。
とりあえず高みを目指してどんどんヤブを漕ぐ。灌木と根曲り、久しぶりのヤブに闘志がわく。
根曲りの太さは親指ほどで、密集地帯では手を焼いた。
大白森まではとにかく高いところを目指して北北東に登ったが、ヤブの薄いところ拾って登ったせいか、頂上付近で南を向いて進んでいることが分かった。
ヤブの高さは頭以上、ガスがかかって周りが見えない。
人間の感覚とコンパス、どちらを信じるか大沼さんと相談。
コンパスを信じましょうと意見が一致、私が木に登って進行方向を再確認し、行動再開。
進行方向10mほど先の高い木を目指してひたすらヤブを漕ぐ。
30分ほどそれを繰り返しているうちに、ぽっかりと湿原にでた。

少しガスが切れて現在地を確認しホッとしたのもつかの間、次の湿原目指してまたもヤブに突入。
大白森の頂上は平らでヤブの中ではコンパスを信じるしかない。
大沼さんと二人で方向を確認しながらの修行が続いた。
日も暮れて暗闇の中、ヤブでのビバークを覚悟したころ、もう少し先に進んでみようと10mほど前進したところでヤブが切れて湿原に飛び出した(19時30分)。
3人ともに今までのヤブとの戦いに勝ったことと、平らな所で眠れることに喜びを隠せなかった。
平らな場所は確保できたが、水確保を忘れてしまった我々は、水の使用を統制し、塩分がなるべく入っていないものを食べて早々に横になった。

16日、明方は少し雨が降っていたが、明るくなってくると周りで鳥の声が聞こえる。
テントの外に出てみると目の前に朝日を浴びた湿原が広がっていた。
昨夜はヘッデンの明かりだけで周りが見えなかったが、なんと素晴らしいところに泊まっていたことか。
我々の前には静かに湿原が横たわっている。
すぐ後ろには昨日漕いだヤブの海、湿原の先には登山道が走る尾根が見渡せる。
湿原が切れたところから登山道まではまたヤブだが、ゴールは見えている。
昨日よりずっと気は楽だ。

昨夜と同じものを腹に放り込み、7時15分出発。
磁北方向に進めば登山道に当たる。

まっすぐ進むのみだ。ヤブも昨日に比べれば大したことはない。
45分の格闘で登山道に出た(8時)。
お互い握手をしてこれまでの健闘をたたえ合った。

ここからは高速道路同然、途中雄大な八幡平の自然を眺めながら12時25分に三ツ石山荘に到着。
ご飯を炊いて昨夜と今朝の分の食糧を補給した途端に眠くなって、今日中の下山を諦め、ここを今夜の宿とする。
三ツ石山荘は岩手県が管理する避難小屋で、立派かつきれいな小屋だ。
水場は、滝ノ上温泉方面に50mほど進んだところに豊富に流れ出ている。
この日は小屋の管理人(ボランティア)と女性2人、男性1人のパーティーに我々3人のみ。
広々と小屋を使わせていただいた。

翌17日、簡単に掃除をして6時30分出発。
途中きのこの品定めをしながらゆっくり下る。
8時30分、滝ノ上温泉着。滝峡荘で温泉に入って疲れと汚れを落とす。400円也。
ひなびた宿だが何とも言えない風情があるいい温泉宿だ。主人もいい味を出している。
温泉卵(50円)とノンアルビール(250円)が体にしみる。
あとは東京までの長い道のりのみ。

今年の沢合宿、葛根田川ということで少しナメていたのかもしれない。
簡単な沢でも状況次第で危険な沢に一変する。
北ノ又沢に入っても水量は減らずにどんどん増えてくる感じがした。連瀑帯では恐怖すら感じた。
一時は現在地を見失い、この先どうなるのか確信を持てない状況でコンパスを頼りにがむしゃらにヤブを漕いだ。
一般的な葛根田の印象はたおやかなナメの流れが続く癒し系の沢だが今回はその印象ではない。
いつか機会があれば癒し系の葛根田を味わいたいものだ。

最後に、企画から食当までやっていただいた大沼さん、パーティーリーダーとして引っ張っていただいた博道さん、大変お世話になりました。
有難うございました。

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