穂高岳沢合宿 ~前穂高沢・コブ尾根編~

2013/5/3-6
記 N


【総括】
2013年のGW後半戦は、穂高岳沢での集中合宿。

昨年12月の富士山五号目での雪上訓練に始まり、本年1月~3月にかけて八ヶ岳で計3回の合宿を行い、雪山バリエーションの基礎を確りと叩き込んでいただいた。
今回はそれらの集大成とも言える合宿であり、これまでの成果を試す絶好の機会を提供。

結果的に最高の天気と気持ちの良い仲間達に恵まれ、怪我もなく、ほぼ想定通りの行程をこなすことができ大変充実した思い出深い合宿となった。

私にとっては、一昨年前の冬に都岳連の講習会で雪山登山を開始し、二年目となる今シーズンに、嵓での全5回の雪山合宿+αを通じて、雪山バリエーションのイロハを身につけることができたのは貴重な経験であった。

これまで大変お忙しい中貴重な時間を割いて我々新人を教育していただいた諸先輩方に心より感謝したい。

【反省/今後の課題】
まず、合宿の最大の目的であった雪山バリエーションの基礎技術の習得については、アイゼン歩行、ピッケルの使い方、基本的なロープワーク等に習熟。
もっとも、リードとしての支点構築、ビレイ等、まだまだ十分に身についていない部分も多い。
とくに、今シーズンの合宿では条件に恵まれたこともあり、全般的に、ロープを使う機会が限られていたように思う。
技術的に不足している部分は、今後のアルパイン・クライミングや沢登りで引き続き習得に努めたい。

さらに一歩上を目指して今後強化していく必要があるのはルートファインディングの能力。
今回の合宿でも取付点までのルートファインディングは各自の課題として与えられており、自分としてもそれなりに準備してきたつもりであったがまだまだ実戦では使えないレベルと言わざるを得ない。
ルートファインディングには、
①事前の情報収集
②現地での実地観察
があると思うが、試行錯誤を繰り返し、経験を積み重ねていきたい。

危機時の対応力を強化する上で、ビバークの経験、レスキューの技術向上も必要。

そのうえで、来シーズンの雪山バリエーションの課題としては、以下のとおり。

1)今シーズンに登った初級ルートは、自分達新人だけでも行けるようになる。
2)ビバーク等の危機に備えた訓練を積む。
3)より長い中級ルートにも挑戦する。

今後とも諸先輩方に教えを乞う機会が多いと思うが、引き続き、ご指導・ご鞭撻の程何卒お願い申し上げます。

【全体スケジュール】
5/2 新宿、八王子前夜発~沢渡(仮眠)
5/3 沢渡~上高地バスターミナル~岳沢
5/4 西穂、前穂パーティーに分かれ、ルート偵察を兼ねたピークハント
5/5 コブ尾根、畳岩尾根パーティーに分かれての登攀
5/6 岳沢~上高地バス停~沢渡駐車場~日帰り温泉(せせらぎの湯)~帰京

【メンバー】
博道さん(TL)、桜井さん(SL)、武さん、羽場さん、Aさん、阿部さん、Mさん、川村さん、中村さん、杉岡さん、N(記)

【山行記録~前穂登頂/コブ尾根編】
○5/4 前穂高沢~前穂高岳~奥明神沢
岳沢に入って一日目の5/4は翌日のクライミングのルート偵察を兼ね、前穂高岳チームと西穂高岳チームの二手に分かれてのピークハントをすることになった。

両チームとも5時に起床し、7時にテントを出発。
我々前穂チームは、山に向かって右側にある滝沢に向かう。
早朝の雪は締まっていて登りやすかったが、傾斜がきつく朝いちの運動としてはかなり堪える。

皆、重い足を引きずってしばらく沢を詰めていくと、正面に大滝、その上部に奥穂南稜のトリコニーの岩峰が近付いてくる。
よく見ると、南稜に2人組のパーティーが取り付いている姿が見える。

我々はそちらには行かず、大滝を正面に見て、右手側にそそり立つ前穂高沢から前穂山頂を目指す。
かなりの急登、しかもトレースはない。
ゆっくりとステップを切りながら、足に負担をかけないよう、ジグザグに登っていく。

天気は良好。
高度が上がっていくにつれ、視界が広がり、後方に焼岳、乗鞍岳の山並みが美しい。

さらに登っていくと沢が二手に分かれるが、頂上が見えないのでどっちに進めばよいのかよくわからない。
左手の方が開けているので、そちらに進みたくなるが、前穂高岳があるはずの右手の狭いルンゼを黙々と登っていく。

途中岩が出ているところでは、灌木でビレーをとってしばし休憩。
さらに登っていくと、少し平らな場所に出る。
おそらく紀美子平という場所か。
その上はひたすら急登が続くので、ここで水分と食糧を補給することにする。

この時間ぐらいから、稜線に雲がかかりはじめる。
なんとか登頂するまでもって欲しいと願うが、叶わず。
小雪がちらつき始める。

気力を振り絞って、急な斜面をダブルアックスで登る。
右手に先の尖がった明神岳の峰々が見え、その稜線をパーティーがコンテで縦走してくるのが見える。

12:30にようやく山頂へ。
頂上はあいにくの天気で、西穂高岳、奥穂高岳は雲の中。
かろうじて吊尾根と前穂高岳の北稜、明神岳が見える程度。
頂上の祠は雪に埋まっていたが、石を積んだケルンが出迎えてくれた。

前穂高沢は単純な登りが続くルートだが、稜線に向かって前穂のピークに突き上げるのは気持ちがよい。
ところどころ狭いところを通過するので、雪の状態によっては雪崩に十分に注意。

頂上から見た吊尾根には雪がびっしりと付いており、いまだにトレースがついていない模様。
朝方、南稜に取り付いたパーティーは今頃どこにいるのだろう。
この様子だと、翌日の奥穂南稜からの登頂はかなり厳しいように思われた。

当初、前穂登頂後に明神岳まで足をのばすことも考えていたのだが、ここまで思いのほか時間がかかったのと、悪天で眺望が見込めないことを言い訳に、そのまま奥明神沢から下山することにする。
明神岳は次の宿題となる。

トレースに沿って岩場を下り、奥明神沢の下降ポイントに移動。
沢はデブリで埋まっており、尻セードを試みるもうまくいかず。
小雪が舞う中、ひざ下までもぐる腐った雪をつぼ足でテン場まで戻った。

<行程>
岳沢小屋 7:00 ~ 前穂高沢 ~ 10:30 紀美子平 10:40 ~ 11:30 前穂高岳 12:30 ~ 奥明神沢 ~ 13:30 岳沢小屋

<メンバー>
武さん(TL)、羽場さん(SL)、阿部さん、川村さん、N

○5/5 コブ尾根~天狗沢
3時起床。前日の雪は夜半には晴れ上がり、きれいな星空が見えた。
風もほとんど無く、絶好のクライミング日和。

4時頃から早出するパーティーのアイゼンで雪を踏む足音がテント越しに聞こえる。
我々も早々に食事を済ませ、5時過ぎにコブ尾根チームと畳岩チームの二手に分かれて出発。

我々コブ尾根チームは、
①Aさん-N
②羽場さん-川村さん
③桜井さん-武さん-Mさん
の3パーティーに分かれて登ることとする。

テントを出て、初日に偵察したコブ沢を詰めていく。
先行パーティーは200メートルぐらい先に3人組、その遥か先にもう一つのパーティ(人数不明)が見える。

早朝のため雪は固く締まっており、トレースも確りついているので登りやすい。
先行パーティーに感謝。

コブ沢をしばらく登り、二俣を右に入って、急な斜面をさらに登りつめていく。
尾根をぐるっと回りこむ形で、緩やかな斜面からコブ尾根に上がる。
そして尾根づたいに雪稜を登っていくと、ほどなくマイナーピークに到着。

岩や灌木はなく、先行者が利用したボラードを支点にとって10メートルの懸垂下降。
残置してあった竹ペグ一本と持参したもう一本で補強する。

下降する壁面はやや傾斜があり全体にステップが切ってあったためとくに危ないところはなかったが、着地ポイントが長いナイフリッジになっていたため注意深く下降。
支点になるべくテンションをかけないように注意する。

雪稜から雪壁をトラバースしてコブの岩峰に到着。
急なルンゼを登ったところで岩場の取付点となり、ここで先行パーティーがロープを出していたため順番待ちとなる。
我々もロープを出して待機。
岩壁にはハーケンが何本か打たれており、それを使ってビレイをとる。

コブの頭へのルートは4つぐらいとれたが、トポで最も簡単とされていた左の凹角からさらに左に巻くルートは雪質が悪く断念。
先行パーティーのリードとAさん(リード)は、左サイドから岩場を乗り越えるルートを選択。

私(セカンド)はロープの流れの関係で中央のアイス混じりの岩場をトップロープで登ることになったが、ここは手足のホールドがなく岩場を乗り越えた部分もバイルが引っかからず、どうしても登ることが出来ない。
それでもそこを登る以外に選択肢はなく、途方に暮れているところ武さんからアドバイスを頂き、マイトラとブルージックを使った「自己脱出」を試みなんとかクリアー。

まさかこんなところで「自己脱出」をすることになるとは思いもしなかった。
また、自分ひとりでシステムを構築できたかというと甚だ心もとない。
日頃からの練習の重要性を再痛感。

結局ここは右サイドからの岩場がホールドもしっかりしていて比較的登りやすかったようで、後続パーティーは皆そちらから登った。

さらにコブの頭を登り、ピークを右サイドからトラバースして、その先にあるピナクルから15メートルの懸垂下降。
岩場が露出しており、そこに懸垂用の捨て縄が数本かかっていたため、それを使わせてもらい下降。
やはりステップが切ってあったので危ないところはなかったが、雪壁の頂点からの下降はかなり高度感があり緊張した。
この先は稜線上のコブ尾根ノ頭まで急な雪壁が続くことになる。
順次大休憩をとり、行動食と水分を補給。

日が昇るにつれて気温が上昇し、足場の雪が緩んでくる。
ピキピキと雪面にひびが入る音が聞こえ、谷筋にそって、雪面を細かい雪がパラパラと落ちていくのが見える。
雪崩に怯えながら、ダブルアックスと両足のアイゼンを確りと突き刺して、三点確保で一歩一歩雪壁を登り、稜線へ。

今回は雪が比較的しっかりしていたのと、先行パーティーがステップを切ってくれていたため、ロープは出さないでも済んだが、雪の状態が悪ければかなり苦戦を強いられていたと思う。

後でテント場に戻って聞いたところによれば、前日の5/4にコブ尾根に取り付いたパーティーは某大学の山岳会を含む計3パーティーであったが、それらすべてのパーティーが途中でのビバークを余儀なくされたそうだ。
我々は先行パーティーのお陰で随分楽をさせてもらった。

稜線からの眺めは、前日と打って変わって、「最高!」の一言。
正面にはジャンダルム。その先には、奥穂、吊尾根、そして前穂の稜線、前日に登った前穂高沢のルートもはっきりと見える。
さらにジャンダルムの後ろには、槍ヶ岳、双六岳、黒部五郎、薬師岳等、黒部の山々を一望にすることができた。

素晴らしい天気の中、北アルプスの山並みを堪能し、予定通り、天狗沢より下降することとする。
天狗のコルまでは岩場と雪稜の下りが続くが、とくに雪稜部分は午後から雪が緩み始め、溶けた雪がアイゼンの裏で団子になり、かなり緊張を強いられた。
途中アクシデントもあったが、皆無事に天狗のコルに到着。

最後はハーネスを外して尻セード・モードにトランスフォーム。
シャーベット状の雪がちょうどよい感じで、わずか15分足らずで一気に下まで降りることができた。

テン場にて畳岩パーティーと合流し、ビールで乾杯。
ゆったりとした午後のひと時を心ゆくまで楽しんだ。

<行程>
岳沢小屋 5:00 ~ 7:00 コブ尾根 ~ 7:10マイナーピーク ~ 9:00コブの頭取付点 ~ 10:40コブの頭下降 ~ 12:00コブ尾根ノ頭 13:00 ~ 14:00天狗のコル 14:30 ~ 天狗沢 ~ 15:00岳沢小屋

<メンバー>
桜井さん(TL)、武さん(SL)、羽場さん、Aさん、Mさん、川村さん、N

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