甲斐駒ケ岳 赤石沢Aフランケ 赤蜘蛛+スーパークラック、赤石沢奥壁 中央稜

2011/7/16-18
玉田、久保田  久保田 記


2011年7月17日(日) 赤石沢Aフランケ 赤蜘蛛+スーパークラック

赤蜘蛛。それは、甲斐駒ケ岳の赤石沢Aフランケにある日本を代表とするクラシックルートだ。アプローチである黒戸尾根は、日本三大急登の一つと言われる長大な尾根で、BCである8合目まで7~8時間かかる。赤蜘蛛は1971年に初登され、20年の時を経て1991年に鈴木昇巳氏らによってフリー化された。フリー化されたルートは「スーパー赤蜘蛛」と呼ばれる。ちなみに、Rock&Snowの最新号(52号)でも日本のマルチ10選の一つとして紹介されている。

スーパー赤蜘蛛とオリジナルの赤蜘蛛とは若干ライン取りが異なり、オリジナルの赤蜘蛛が7ピッチ目から続くスーパークラックを避けているのに対して、スーパー赤蜘蛛はこのスーパークラックを登る。6ピッチ目のクラックはスーパークラックと繋がっており、6、7ピッチ目を合わせると、全長70mのきれいなクラックになっている。2003年にスーパー赤蜘蛛を全ピッチオンサイトした平山ユージ氏が、このクラックのことをワールドクラスのクラックと評しているように、ヨセミテにあったとしても全くひけをとらない、完全に日本離れしたクラックだ。6ピッチ目のクラックは11b/c、7ピッチ目のスーパークラックは11a/b、レッジトゥーレッジで70mをリンクして登った場合は12-とグレーディングされている。

初登当時のギアでは、幅の広いスーパークラックを登ることができなかったのだと思うが、7ピッチ目のスーパークラックをそのまま継続して登る方がルートとしては合理的と言える。これはフリーで登られるべきだと、トポを見るたびにいつも思っていた。今年の6月に瑞牆の春うらら(11b)とペガサス2P目(11a)が登れたので、このスーパークラック(11a/b)のオンサイトに挑戦してみようと決意した。限界グレードぎりぎりで、一生に一度しかないオンサイトトライ、しかもマルチピッチの7ピッチ目、そしてワールドクラスのクラック。相手としては申し分ない。

さっきまで広がっていた青空が厚い雲に覆われ、いつしか辺りはガスで包まれていた。はっきりと見えていたスーパークラックも上部は霞んでよく見えない。圧倒的な存在感で迫ってくるクラックに押し潰されそうだった。深呼吸を何度もして、高鳴る鼓動を抑える。そこには一本のクラックだけがある。ハーケンもリングボルトもそこにはないのだ。ここを登れと言わんばかりのクラックに導かれるまま、スーパークラックのオンサイトトライ開始。

出だし11a/bがついている下部のフィンガー・シンハンドの核心をこなす。クラックは徐々に広がり、ハンドサイズになる。ここからだんだん壁が立ってきて、さらに左上してくるので、ハンドが効くとは言えかなり消耗してくる。数手進みは休みの繰り返し。途中スタンスが吹っ飛んでフォールしそうになるも、なんとかこらえる。呼吸を整えながらふと上を見上げると、絶望的なまでにクラックは続いていた。すでにキャメロット#2を2個使い果たしていて、カムはもうほとんどなかった。キャメロット#3を無理やりドギーウォークさせるも、それでも全然足りない。次のガバスタンスのある場所まではかなりランナウトするが、覚悟を決めて突っ込むしかなかった。息も絶え絶えでガバスタンスのあるところまで到達。あと2~3m、レッジはもう目の前、オンサイトはもらったと確信した。がしかし、そんなに甘くはなかった。

導かれるままにクラックをそのまま左上してしまったが、ワイドクラックが苔むしていて、その先も触ればボロボロ岩が剥がれるくらい脆く、とてもまともに登れる状態ではなかった。そこから戻るに戻れず、フォール…。オンサイト失敗。トポを見る限り、どうやら最後は右のフェースに逃げるのが正解のようだった。オンサイトには失敗したが、不思議と悔しさはない。この素晴らしいクラックにオンサイトトライできたこと、そして善戦できたこと、それだけで十分だった。生涯忘れることのできない、人生で最高のクライミングができたと思う。辺りを包んでいたガスはいつしかなくなり、すっきりとした青空がまた広がっていたのであった。

* * *

夜明けとともに8合目を出発する。赤蜘蛛は貸切かと思いきや、7合目から上がってきたパーティーに先を行かれる。彼らもどうやら赤蜘蛛のようだ。連休なので混んでいると思っていたのだが、どういうわけか2パーティーだけだった。勿体ない話である。Aフランケまではピンクのテープを辿り、50分ほどで末端へ到着。スカッと抜けるような青空と、Aフランケの真白い巨壁に心奪われる。日本ではなかなかお目にかかれない見事な壁である。よいクライミングができそうなそんな予感がした。先行パーティーを待って、7:25頃登攀開始。
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1P目(5.11 25m) 久保田
スーパー赤蜘蛛の場合、赤蜘蛛の2mほど右から取り付く。ガバなので特に難しくない。3ピン目から赤蜘蛛に合流する。細かいフェースで、スタンスがかなり磨かれていて難しかった。結局A0混じりで抜ける。後半はクラックが登れる。5.11ノーマルくらいは最低でもあると思う。#3、#0.75など使用。先行パーティーに先を譲ってもらう。
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2P目(5.9 40m) 玉田
小川山レイバックを思わせる綺麗なコーナークラック。小川山レイバックの傾斜がなくなった感じで、30m延々と続く。とても楽しいピッチ。下部ピッチのハイライト。
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3P目(5.10+ 15m) 久保田
意外と悪いフェースとクラック。ここでも#3を使用。ちょっとA0したが、ほぼフリーで。V字ハング直下のビレー点まで。ちなみにスーパー赤蜘蛛の場合は、V字ハングを避けるためにさらに左上のビレー点へ行くものと思われる。体感は5.10+。
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4P目(5.10- 40m) 玉田
V字ハングはヌンチャクをつかみながら抜ける。その後のハングは、ホールドは探せばかかりの良いのがあるので見た目よりも簡単。大テラスへ到着。ビバークできそうな広いテラス。このピッチから6,7ピッチ目のクラックが一瞬見える。本当にこんなのこれから登るのかと怖気づく。スーパークラックは想像していた以上に湾曲していた。
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5P目(5.8 25m) 久保田
ブッシュや木が生えてるきたない凹角を2段登る。一歩進めば支点が見える。クロスライン直下まで伸ばす。トポでは45mとなっているがせいぜい25m。いよいよクロスラインから始まるクラックの登場だ。
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6P目(5.11+ 40m) 玉田
出だしの3本くらいはリングボルト。その後はカムの人工がしばらく続く。クラックの横にボルトが打ってあるところもあり、これはちょっと残念。サイズとしては大体#0.5、#0.75サイズ。
自分はフォローでスーパー赤蜘蛛のラインを登る。出だしのやや広めのクラックはぼろいので注意が必要。チキンヘッドがぐらついてもげそうになる。小ハングのところで、左のフィンガークラックへ思い切って移る。フィンガーが良く決まるのでトラバースは難しくない。その後は、厳しいフィンガーセクション。だんだんクラックが広がり、シンハンド、ハンドと続く。残り5mほどのところでまた急に狭くなる。クラックが3本くらいになっている箇所が核心。ここまでなんとかノーテンで頑張っていたが、たまらずテンションした。私にはシンハンドよりもちょっと狭い感じで、フィンガーがうまく決まらない嫌なサイズ。クラックの途中でピッチが切れているため、ハンギングビレーになる。赤蜘蛛はここから右のボルトラダーへ。スーパー赤蜘蛛は、このままスーパークラックを登る。
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7P目(5.11- 30m) 久保田
出だしのフィンガー・シンハンドのセクションが核心。徐々にクラックの幅が広くなってハンドからオフハンド気味になってくるが、#3がすっきり入るようなサイズではなく、#3を無理やりねじ込みながら登る。#2が3つ、いや4つほしかったが、クラックが長すぎていつもの感覚でカムを決めてたらとてもじゃないが足りない。幸いハンドがかなりよく決まるのでランナウトを覚悟して突っ込むしかない。終盤、ガバ足になったところで一休み。そのまま左上して行き詰ってフォール。右のフェースへ逃げるのが正解のようだ。右に行ってもブッシュでマントルしなければならず、気は抜けない。
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8P目(5.11-? 30m) 玉田
このフェースはいやらしい。トポでは5.10aとってなってるけど、最低でも5.11-はあると思う。ここで少し雨が降ってきてたのでA0で抜ける。ピン間隔が遠いのでリードの場合はA0では無理かもしれない。結局自分はアブミを一回も出さず、すべてA0で抜けた。
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9-10P目 ブッシュ。50m程度でAフランケの頭の岩小屋へ。
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国内のマルチピッチではこれまで登ってきたどのルートよりも素晴らしかった。特に6,7ピッチ目のクラックは、圧倒的なスケールと質といい、素晴らしいの一言。これを登るためにまた訪れてもいいと思うくらい、、、いや、しばらくはいいかな。しかし、このような素晴らしいクラックがあまりトライされていないのは、非常に残念なことだ。アルパインルートであるということに加えアプローチの困難さが、このクラックを登れるクライマーを阻んでいるのだろう。すでに20年も前にフリーで登られながら、未だにこのクラックを避けて人工で登るのは、はっきり言ってもったいない。これはフリーで登られるべきクラックである。ギアをしこたま背負って長いアプローチに耐えるだけの体力が必要だし、さらにスーパークラックも登るとなるとフォローも実力が問われる。今回も玉田さんにはだいぶ助けられました。どうもありがとうございました。

■ ギア
ヌンチャク20本、キャメロット(#0.5~#3)2セット、エイリアン(赤黄緑)2セット、スリング(120cm×3、60cm×6)・カラビナ10枚、50mダブル2本。180cm×1あった方がビレイ点構築しやすい(特に6P目終了点のハンギングビレイのところ)
※スーパー赤蜘蛛をやるならば、シングル1本+バックロープを引いて登り、荷物を上げるというのがよいと思われる。
※キャメロット#3は1個でもよい気がする。むしろ#2が3つほしかった。

■ アプローチ
8合目のBCから岩小屋を背にして右が八丈バンド奥壁への道。下にそのまま進むとAフランケ。ピンクのテープがあるので基本的には迷うことはないと思う(2011年7月現在)。巨石群を越え、木にピトンが打ってあるところを降り、Fixを降りたところのT字路で右に行くと、Aフランケの頭の岩小屋へ辿り着く。Aフランケ下部へ行く場合は、T字路を左へ進む。一旦、ガレた沢に出る。Fixの連続なので迷うことはないと思う。末端の水場の水は、まともに出ていなかった。
ちなみに水は7合目で汲み、2人で12.5Lを8合目まで上げた。3日間で残り500mlだった。

■ 日程
5:10 8合目のテン場発
6:00 Aフランケ着
7:25 赤蜘蛛登攀開始
15:00 Aフランケの頭の岩小屋着
16:00 8合目

■ 参考資料(スーパー赤蜘蛛関連)
・Rock&Snow(52号) 日本のマルチピッチ10選
・Rock&Snow(21号) 平山ユージ氏によるスーパー赤蜘蛛のオンサイト
・新潟稜友会 http://homepage3.nifty.com/niigata_ryoyu/geppou3/G164.pdf
・B3 Bouldering Site 公式ブログ http://ameblo.jp/b3boulderingsite/entry-10597719669.html

*****

2011年7月18日(月) 赤石沢奥壁 中央稜

せっかくの連休、赤蜘蛛だけではもったいないということで、お手軽に登れそうな中央稜へ。
1P目(Ⅳ 25m) 久保田
出だしのフレークがもげそう。思い切り掴んだら絶対壊れる。プロテクションが怪しいのでかなり時間をかけて登る。ガバ足だろうと思って踏んだ、電子レンジくらいの岩がごっそり落ちて、玉田さんに直撃しそうになる。まさかあんなでかいのが落ちるとは思わなかったので、すみません。赤蜘蛛のしっかりとした岩とは対照的にここは谷川かという感じ。カムをほぼ全部使い切った。
2P目(Ⅲ 30m?) 玉田
目の前のフェースを右からまわりこむ。ロープの流れが悪いのでブッシュの途中でピッチを切る。
3P目(Ⅳ A0 40m) 久保田
2P目の残り。ブッシュから凹角の取り付きで一旦ピッチを切る。
出だしはA0する。凹角を登り、狭いチムニーを登り、なんだかブッシュが多くなったところでロープの流れが悪くなったのでピッチを切る。いまいちぱっとしない。
4P目(Ⅳ 40m) 玉田
一番まともなピッチ。#5が入りそうなワイド。外のフェースから登った。一部クラックがもげそうになっているので注意。ここまで2時間半。ここからが長かった。
5~12P 300m
果てしないブッシュ。道なき道を突き進み、登山道まで出るのに2時間半かかった。全然面白くない。4P目まで登ったら懸垂したほうが無難。

■ ギア
カムは緑エイリアンからキャメロット#2まで全部持っていったほうがよい。

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