南アルプス大井川水系 赤石沢遡行(敗退)

2010/8/13-16
桜井、鈴木、坂口、福田  福田 記


今年は、記録的な猛暑で、東京の天気は連日晴れ。最高気温は32~35度が続いている。こんな夏は、沢で泳ぎ、イワナを釣り、たき火で宴会できたら素敵。
赤石沢は、「関東周辺沢登りベスト50コース」の一番目に出てくる。かつては「沢の王者」と言われたらしい美渓にして名渓。さて、王様のご機嫌はいかがであったか。ガイドブックの美しい淵で快適に泳げると信じて、静岡に向かった。

● アプローチ
平成22年8月13日(金)。小田急線鶴川駅に午後10時に集合し、東名高速で静岡に向かう。高速を降り、ガソリンスタンドを探すがどこも閉まっており、国道1号線まで戻りセルフのGSを見つけた。コンビニも幹線を外れると無くなるので、静岡の市街地で立ち寄る必要がある。
途中、ナビのお導きにより通行止めの大日峠(口坂本温泉方面)に入ってしまい、畑薙第一ダム駐車場に到着したのは午前4時。鶴川から6時間、ロスタイムを差し引いても5時間を要する。北アルプスよりも遠い印象。
今回は坂口さんが車を出してくれて、最後まで運転してくれた。が、もし車がない場合は、静岡から路線バスで4時間以上かかる。しかも、坂口さんによるとバスは揺れて揺れてぐったりしてしまうという。
畑薙第一ダムからは東海フォレストの送迎バスを利用する。往路は山小屋の宿泊券を3000円で購入し、復路は椹島で宿の領収書を提示し乗車整理券を受け取る。いずれも予約は必要ない。HPでは始発が8時になっているが、ハイシーズンには7時発がある。私達は到着が4時だったこともあり、9時10分発に乗車した。
椹島からのバスでもどってきた、沢支度のパーティーに「赤石沢ですか?」と声をかけると、増水で入渓出来ずに下山したとのこと。「これからなら大丈夫ですよ」と言ってもらう。入渓点でも、敗退し下山するパーティーに会う。「今は膝くらいだけれど、昨日はもっと増水していて徒渉できなかった。でも、これからなら大丈夫ですよ。」というパーティに、「では、皆さんの分もイワナを釣りますよ」と、明るく言い残して遡行を開始したのだ。

●1日目
8月14日10時30分入渓。
今日のビバーグポイントは、当初大ガラン上あたりに設定していたが、アプローチに苦戦し寝不足もあるので、取水堰堤を越えた北沢の二俣あたりに変更することとした。順調に行けば4時間の行程である。
ガイドブックやブログによると、ニエ淵は一部泳ぐところはあるものの、ほとんど水線通しで行けるはずが、今日はとても直登出来る状況ではない。水量の多少は平時がどの程度なのか分からないので何とも言えないが、流れが速く足をとられて流される恐怖がある。今年(平成22年)は、徒渉や登攀の失敗による沢の死亡事故が相次ぎ、まさかここで事故は起こせないという思いを皆いだいていた(に違いない)。多少時間がかかっても、高巻きを選ぶが、悪い。踏み跡が薄く、立ち木もない泥壁のトラバースが続き、下降も悪く、これなら頑張って泳いだ方が良かったかもと思ってみてももう遅い。さすが沢の王者、丹沢の高巻きとは違うね、と一応納得してみたが、それにしても悪すぎる。後で分かったことだが、今日の水量は入渓するべきではなかったようだ。水線通しで遡行できるので高巻きなどしない沢だから、高巻きの踏み後がなかったのだ。ハーケンも少なく、ランニングがとれないため、思い切って登ることが出来ず断念することも。ハーケン、ハンマー、カムがあればと思う。ザックを背負ったままトライするには、失敗したときのリスクが大きすぎる。

●ビバーグ決定
朝から曇っていたが、12時頃から雨が降ってきた。大岩下の滝で、どう越えようか吟味し、ちょっとシャワーを我慢すれば右のフェイスに取り付けてクラック沿いに登れそうだと思っていたら、雨が強まり尾根に逃げることになる。尾根といっても両側切り立ったやせ尾根で、タープを張り、セルフをとり、ザックもフィックスして休憩する。1時間ばかり休んだところで、雨は止まず、先ほど登れそうだと思ったフェイスは滝になり近寄ることすら出来ない。3時30分、大岩下右岸のやせ尾根上でビバーグ決定。
平坦な場所はA4サイズの岩しかないので、食当のワタクシはそこでちらしずしをつくる。博道さんがビールを出したものの、桜井さんの焼酎は出ることもなく、6時半に就寝。

● ビバーグの過ごし方
今ある条件、つまり現在の場所、天候、メンバー、装備、疲労度、明日の予定などを勘案し、ベストの方法で過ごせば良いのだと思う。私の場所は傾斜も15度ほどで、足を伸ばして横になれる。着ているものが濡れていて寒いので脱ぎ、靴も脱いでシュラフに入った。夜中にアンダーが乾いたので、濡れたアウターを着込んで再びシュラフに入り、着干しをした。おかげで、夕方寒くて震えていたが、朝シュラフから出ると生乾き状態になった。私はメンバーのなかで一番体力がないので、なりふり構わず体力を温存、回復できる方法をとらせてもらった。
他のメンバーの夜明かしは…博道さんは靴を脱ぎシュラフに入る。桜井さんは靴ごとシュラフカバーに入る。坂口さんは雨具のままツェルトをかぶる。もっとも、私が一番いいポジションをもらい、他の3人は足が崖からぶら下がる状態で横たわっていたのでした。本当にすみませんでした。おかげでよく眠れました。
夜中に雨が降ってきたが、私はシュラフにゴアテックスのカバーを使っていたので濡れることもなく、また濡れた体は乾いていった。やせ尾根上でテントを張れる状況ではなく、今回タープだったのは正解であった。また、私はロールマット(リッジレスト)を持っていたので、岩の上でもなんとか眠れた。しかし、他のメンバーはエアマットはずり落ちてしまうからと使わずに、折り畳んだ銀マットだけ敷いていた。夜中に桜井さんが、「平らなところで眠りてぇ…」とうなっていた。博道さんは、セルフビレイをとったまま崖の縁までずり落ちて、テンションかけて眠っていたそうで、そのポジションが一番熟睡できたという。うーん。桜井さんによると、靴を履いたままでもネオプレーンのため足が冷たくなることはないとのこと。さすがビバーグマニアの桜井さん(*^_^*)。

●2日目
8月15日(日)5時30分起床。雨は止んでいるが、昨日越えようとした滝は増水したまま。コーヒーをつくり、マルタイラーメンで朝食にする。タープの近くのルンゼが滝になっており水がくめる。
今日の行程は、遡行を中止しエスケープルートを探すこととする。まず、取水堰堤まで上がり、管理用の道があるにちがいないのでそのルートで下山するか、または、2万5千地形図にある左岸の林道を目指してヤブコギし、登山道にアクセスするという作戦。
7時半出発。神の淵では博道さんが果敢に飛び込み、元都岳連沢講習主任講師の意地を見せてくれた。取水堰堤に着いたのは10時30分。昨日の行程と合わせると入渓から7時間かかっている。ガイドブックでは4時間。
今日はもうエスケープすることを決めているが、このまま遡行を続けるとすると水量の多さにより、通常より時間がかかることは間違いない。おまけに今までの行程で疲れもたまっており、上を目指す気持ちになれない。
取水堰堤には、管理用通路は見当たらない。おそらく発電所まで水を送る水路にそって、地中に側道があるのだろう。中部電力の社員が、メンテナンスのためにニエ淵を遡行するとは考えられない。そして残る選択肢は、地図上の林道を目指し、標高300mほど左岸をよじ登るしかない。

●エスケープルート
堰堤を登るには左岸のステップを使った。そこから河原に下りるには構造物の端までいくとフィックスロープがあるので、伝って下りれば良い。我々は、林道に行くため踏み跡を探す。落石防止ネットに結わいてあるトラロープがあり、これぞエスケープルートの取付に違いないと、急な泥壁をよじ登る。
トラロープの上も勾配がきつくロープを出した。2ピッチ目、セカンドで登り始めた私は、直径20センチの立ち木に手をかけたところ、木が抜けた!そして、木もろとも落ちてしまった。しかも、桜井さんの上に。桜井さんは左腕を強打し、眼鏡のレンズは外れ、服は破れ、大変なことになった、と思った。が、自力下山の男桜井は強かった。自力でレンズを発見し、はめ、何事もなかったかのように登り始めたのだ。強い…。でも、ごめんなさい、桜井さん。次は、博道さんの上に落ちるようにします。
勾配がきついのは2ピッチばかりで、その後はシカのつけた踏み跡を、尾根伝いに登る。1時間ほどすると、明らかに人間が整備した山道にでる。しかし踏まれた形跡は薄く、慎重にルートファインディングをする。坂口さんがGPSで現在地確認をしているので、心強い。

● 林道(廃道)
12時40分、林道到着。標高1850m。堰堤からは2時間を要した。林道は放棄されてから20年以上経過し、おそらく今シーズンは誰も入っていない。地形図では黒実線なので車が入れる道だったのだろう。コンターラインにそって2キロばかりで登山道にぶつかるはず。しかし、道は悪く、大きな落石が多く、その上をテンニンソウが群生しているため、一歩一歩足もとを探りながら前進する。斜面が崩壊し道が分断されている箇所が3カ所ほどあり、急な赤土斜面のトラバースを強いられる。道は悪いものの、迷ってはいないし、前進すれば下山できるという安心感はある。
14時30分、登山道到着。エアリアでは「林道跡のヘアピンカーブ」の地点に出る。椹島まではあと1時間20分である。

●椹島ロッジ
15時40分、椹島着。ロッジにチェックインする。3000円の券があるのでひとり5000円足して2食付き、風呂付きである。泥だらけの装備を水洗いして干し、生ビール600円をいただく。おいちい。おかわりは、坂口さん、桜井さんが背負って下ろしたロング缶5本をジョッキに入れていただく。うーん、味わい深い。
椹島ロッジは、基本的に山小屋なので、受付時に支払い、夕食5時、朝食も5時と早い。携帯電話は通じず(au)。

● 下山、帰京
翌朝、ロッジのそばを流れる大井川本流を散策。坂口さん持参の竿で探りを入れてみたが、アタリはなし。今回は、たき火もイワナもありつけなかった。
8時のバスの運転手さんは、山や花をガイドしてくれて、楽しい1時間だった。
高速道路は、8月16日上り車線にもかかわらず順調で、畑薙ダムから東京まで4時間あまりで到着した。

【反省事項】

■ 行程について
・ 畑薙ダム駐車場までは、東京から走りっぱなしでも夜間5時間かかるので、集合出発は夕方にすべき。
・ 初日は、7時(臨時)のバスにのり、北沢を越えること。
・ 堰堤からは林道(廃道)を利用しエスケープできることが判明。堰堤から林道2時間+登山道まで2時間+椹島まで1時間=5時間で抜けられる。ただし、登山道までは明るくないと行動不能。

■装備について
・ 高巻き時にゴボウなどで長スリングを多用した。15mくらいの補助ロープが便利かも。
・ GPSが1台あると便利。今回のように正規ルートを外れる場合、とても安心。
・ ロープは30m1本で十分であった。
・ 蚊、ブヨ、ヒル等は被害なし。椹島(標高1100m)では、蚊と羽蟻に注意。
・ イワナは釣れなかったが、いる。
・ 高巻きに、バイルが欲しかった。
・メニューに雑炊をいれると、沢が増水するので注意。リゾットかおじやにしましょう。

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