北岳バットレス ピラミッドフェース~第四尾根

2008/7/19-21
山本(武)、玉田、長谷川、久保田  久保田 記


満月に照らされ青白く光った雪渓を一歩一歩確実に登る。

昼間、多くの登山者で賑わっていたのが嘘みたいに、あたりは静寂に包まれていた。
聞こえてくるのは、自分の鼓動と雪のきしむ音だけだ。
雪渓の下の方に、クライマー達のヘッドランプが蛍の光のように漂っていた。
バットレスの下部岩壁に至る最後の急な雪渓をキックステップで登り、やっとの思いで取付きに辿り着き、ザックを下ろし、座り込んだ。
一息ついて後ろを振り返ると、バットレスがモルゲンロートに染まっていた。
いよいよ、はじまる。
昨年の夏、一人で白峰三山を縦走したときにみた北岳のバットレスは、あまりにも遠く手の届かない場所だとそう思っていた。それまで単独で登山をしてはいたが、単独でできることの限界を感じ始めてもいた。そして、アルパインクライミングをやるために「登高会くら」の門をたたいた。今から2ヶ月前のことである。
入会後すぐに越沢バットレスで何度かマルチの練習をして、6月には谷川南稜と中央稜を登らせてもらった。今、こうして北岳バットレスを登ろうとしている。
早く登りたくてうずうずしていた。

■ ピラミッドフェース
※かっこ内は「日本の岩場」のピッチ数

1P目(1P) 山本/長谷川リード
十字クラックの左の方の凹角から登る。

2P目(1P~2P) 玉田/久保田リード
1P目からそのまま左に向って、草付きのトラバース。

3P目(2P) 山本/長谷川リード
直近の小さいハングに向って右上するが、ほどなく行き詰まる。しばし迷走・・・。
「日本の岩場」に記載されているトポでは、このあたりは「2P目 草付・フェース」にざっくりとまとめられていて、どこがどうなっているのか全くわからない。
「チャレンジ!アルパインクライミング」のトポがまだわかりやすい。
一旦ビレイ点に戻ってからまた登り、小さいハング左脇でピッチを切った。

4P目(2P) 山本/久保田リード
小さいハングの左脇を登る。

5P目(2P) 玉田/長谷川リード
ハング下のザレザレのかなり悪いトラバース。
ロープが岩に挟まったので、強引にロープを引っ張ったら大量に落石してしまった。
幸いにも下にパーティーはいなかったが、この岩を直撃したらと思うとぞっとした。

6P目(3P-4P) 山本/久保田リード
ハング上のバンドを横断。その後さらにフェースを少し登って、クラック手前でピッチを切る。

7P目(4P-5P) 玉田/長谷川リード
クラックが混じるピッチ。私にとっては実質初めてのクラックだった。
クラックの登り方が全くわからず(ジャミングって何という状態)、当然のことながら苦戦する。
仕方がないのでレイバックでなんとか乗り越える。しびれた。

8P目(6P) 山本/久保田リード
逆層気味のスラブ状のフェース。ムーブに少し悩むも探せばホールドはある。快適の一言。

9P目(7P) 玉田/長谷川リード
コーナークラック。フリーで突破。

10P目(8P) 山本/久保田リード
楽勝で第四尾根へ。

■ 第四尾根
ここからは第四尾根に合流する。ピラミッドフェースを登り終え、極度の緊張から解放されたせいか気が抜けてしまった。第四尾根は多少混雑はしていたものの、とても快適だった。
第四尾根を登り終え、クライマーしか見ることのできないという噂のお花畑を登り、北岳山頂へ出る。
北岳を登る登山者に混じって、ヘルメットやギアをぶら下げて歩いていると、かなり目立つ。
でもそれが、なんだかうれしかった。
北岳山頂から御池小屋までは、一心不乱に駆け下りる。
もうビールを飲み干すことしか頭にないのだった。御池小屋に戻ってからは大宴会。
玉田さんは自動販売機のビールが売り切れるんじゃないかってくらい、次から次へとビールを買いまくっていた。そして、次々とビール缶が空になっていく・・・。恐るべし山岳会。
最高のクライミングでき、いい気分になっていたせいもあって、調子に乗って飲み過ぎた。
ちょっと仮眠するつもりでテントへ戻ったが、もう起き上がることはできなかった。

■ コースタイム
2008年7月19日(土)
7:50- 8:15 広河原
10:20/11:03 白根御池小屋
12:45 下部岩壁を偵察
13:50 二俣
14:20 白根御池小屋

2008年7月20日(日)
2:00 起床
2:40 白根御池小屋発
3:00 二俣
4:40 下部岩壁
5:25 ピラミッドフェース登攀開始
10:45 ピラミッドフェース終了点
12:20 第二のコル
15:05/15:25 お花畑(第四尾根終了点)
15:45 北岳山頂
17:05 白根御池小屋

2008年7月21日(月)
6:30 白根御池小屋
7:38 広河原

■ アプローチメモ
C沢出合から下部岩壁へ入った。登攀日の前日にC沢へ入り、アプローチを確認した。
初見でC沢に入ることはかなり難しいと感じた。C沢の一つ手前の沢からも下部岩壁へ入ることもできるが、ピラミッドフェースへ取り付くためには下部岩壁直下の崩壊しそうな悪い雪渓をトラバースしなければならない。
Bガリーから第四尾根に取り付く為には、逆に、C沢の一つ手前の沢を詰めた方がよさそうだった。
アイゼン、ピッケルは必要なかった。

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