剣岳六峰C、Dフェース

2002/8/10~14
メンバー:羽場・矢野・中島・横澤  横澤 記


ルート:剣岳 八峰Ⅵ峰Dフェース 富山大ルート
Cフェース 剣稜会ルート
チンネ 左稜線(敗退)

ほとんど剣への入山経験がないメンバーばかりでの合宿となったが、いつかは行ってみたかったチンネに、こんなに早い時期に行けると思うと、計画段階からすでにドキドキしていた。
入山前にもらった裕さんからのメールには、「夏の剣は、空が青いというよりも宇宙にむかって黒く続くようで、ワクワクとした気分にさせられる」と書いてあり、僕のココロはもう剣一直線であった。

前夜、大宮23時発で、扇沢に3時ころ到着。天気もよさそうなので、外にシュラフを敷いて寝る。朝、矢野さんの両親に出合い、ご挨拶をする。僕もフト親に会いたくなった。矢野さん、親孝行をお忘れなく。

2002年8月10日
7時30分 トロリーバスに大勢の観光客とともに乗り込む。黒四ダムから水平歩道を歩き、真砂沢を目指す。途中から暑さに耐え切れずに、冷たい沢水で頭を冷やしながら進むカッパ隊となる。暑さのため本日まともな記録なし。このルートは想像以上に長く、コースタイムを軽くオーバー。ハイキング気分がえらい目にあう。
14時30分頃 真砂沢キャンプ場着。重荷のためか、暑さのためか、寝不足のためか、バテバテでよーやく到着。早速酒宴といきたいところであるが、腱症炎で断酒中の矢野さんと下戸の横澤が相手では、とても羽場さんの相手はつとまらない。その日、真砂沢キャンプ場には、ザックから取りだした2リットルのムギ焼酎がみるみる目減りしていく、一人ピッチの早い羽場さんの姿があった。もちろん「これ飲みきれるかなぁ」との羽場さんの自問は杞憂に終わる。

2002年8月11日
剣岳 八峰Ⅵ峰Dフェース 富山大ルート
2時30分 起床
4時00分 出発
暗闇のなか剣沢を登り始め、空が白んでくるころ長次郎雪渓の出合いに到着。長次郎雪渓の途中で簡易アイゼン(6本刃)を取り付け、八峰を目指す。写真でしか見たことのない景色が、徐々に近づいてき胸が高鳴る。
6時30分 Dフェース基部到着。
3人のため、横澤がトップでリード(実は本ちゃん2度目のリード)。取り付きで名古屋山岳会に先行をゆずるも、「つるべ」をしないとの理由で先行させてもらう。
富山大ルートの取付はCフェースとDフェースの間にある雪渓の、Dフェース側基部を奥につめたところにある。ジメっとっした感じがいかにも「本ちゃん」らしくて緊張感が増す。効いているピンを見つけて、セルフビレイをセット。
7時00分 ガスのたちこめる中、登攀開始dfesutoritudai
1P 多少湿った岩を慎重につかみながらジリジリ進む。ハング帯を避けて左へ。足ホールドの乏しいスラブを直上。うーん。シブイ。浮き石の多いテラスを避けて、少し右上したことろでビレイ。結果的には、浮き石テラスでビレイしたほうがロープの流れ・次ピッチへのつなぎを考えるとよかった。
2P 昨年事故の起きたピッチということで慎重にいく。途中ルートファインディングで行き詰まり、羽場さんから指示をもらいながら進む。小ハングを左から越えて、バンドの左にあるビレイ点へ。
3P フェースを右上し、ハイマツ帯を直上。途中のハイマツをガッチリつかみながら(T1)行く。ハング下の斜上バンドを登る。どのガイドにもこのピッチが核心とあるが、岩も硬く難しくはない。ただし、ビレイ点がなかなか見つからない。結局、斜上バンドの出口でイヤーな感じのピン2本を頼りにビレイ。(次ピッチのロープの流れから判断し、ここが正解。ここでビレイする場合には、近くの離れたピンからバックアップをとったほうが良い。斜上バンド下には立派なビレイ点があるが、落石の危険性や次ピッチのロープ流れを考えるとあまり良くない。)
※3ピッチ目が終わるまでは、落石がセカンド(もしくは次パーティ)に直接あたるので注意が必要となる。
4P バンドを左上し、リッジへ。(リッジを目指す場合、直上してから左へトラバースしても、左にトラバースしてから直上しても難易度は同じくらい。)本来であれば高度感バッチリのロケーション抜群ピッチもガスのため視界不良。高いところが苦手な僕には、ガスがありがたい(?)かも。リッジをすこしあがったところでビレイ。
5P ガバホールドをガッチリつかみながらリッジを行く。ピトンとハイマツから交互にランニングを取りながらザイルを伸ばす。ここで手前で切りすぎたため、1ピッチ増えてしまった。
6P 簡単なフェースを行く。立派なビレイ点でビレイ。
7P Dフェースの頭に出て終了。

11時00分。ちょうど4時間かかった。
後続の名古屋山岳会に遅くなったことをわびると、リードはなんと本ちゃん初リードとのこと。「つるべ」なしで全ピッチリード。さすがである。休んでいたら雨が降り出した。終わってみると1ピッチ目が一番難しかった。ルートファインディングに悩まされながらも、剣の硬くて快適な花崗岩を存分に楽しめた、いいルートだった。
縦走路を下降し、Ⅴ・Ⅵのコルへの懸垂支点へ。僕らは手前のハイマツを支点に懸垂したが、コルを目指して斜めに50mいっぱい降りる必要があるためどうしても無理が生じる(ハイマツの懸垂支点からまっすぐ降りるとロープが足りなくなるばかりではなく、Ⅴ・Ⅵのコルへ登り返すことが困難=上からの落石+非常に悪いガラ場による)。同ルートにあるFIXザイルもとても使う気にならない。そのため縦走路を一番奥へつめた懸垂点から、懸垂+クライムダウンしたほうが安全・確実である。
Ⅴ・Ⅵのコルからは長次郎雪渓から剣沢を、来た道を忠実に下る。6本アイゼンでは心もとないので、ピック付ハンマーを取りだして持ちながら歩いた。長めのピッケルがあれば更に下降は快適だろう。
※長次郎雪渓を上部につめるには(あるいは平蔵谷のコルから下降するには、)12本アイゼン(+靴)と、ピッケル(=バイル)が最適と考察。
真砂沢キャンプ場へ帰着し、テントで雨宿りしていると中島氏と合流。
久しぶりの中島節に郷愁を感じる。こうして2日目が終了。

2002年8月12日
剣岳 八峰Ⅵ峰Cフェース 剣稜会ルート → 三ノ窓

矢野さんが腱症炎のため棄権。今日は羽場・中島・横澤の3人パーティで行く。
2時30分 起床
4時00分 真砂沢キャンプ場出発。暗闇の中、昨日と同じ道を出勤。
6時00分 Cフェース取付着。昨日より30分早く到着したが、すでに2パーティあり。剣沢を2時30分に出発してきたというツワモノ達である。ガスがたちこめる肌寒い天候の中、カッパを着る。
cfesukenryoukai 6時30分 中島さんをリードに登攀開始。
1P 簡単なスラブ。凹角の手前で切ってしまったため、1ピッチ増える。
2P 凹角を登り、途中のリッジでビレイ。ロープの流れを考え、正規ビレイ点の前でビ     レイ。
3P 正規ビレイ点へ戻るため短いピッチにする予定で、中島さん登攀開始。ハイマツの中のテラスが正規ビレイ点(2ピッチ目)であったが、フォロー2人が「もっと上にあるはずだ」といらぬことをいい、スラブを直上。50m一杯となったところで、スラブの真ん中でビレイ。正解はハイマツの中でした。すみません。
4P フェースからリッジ。短めに切り、ようやく正規ビレイ点へ戻る。
5P 核心部である張り出しを行く。うーん、快適。
6P 最終ピッチ
8時30分 Cフェースの頭に到着。ぴったり2時間。

どこが正規ルートかわからないくらいピンが多すぎる、後続が続々とやってきて結構プレッシャーになるなど、人気ルートの宿命を感じた。岩自体は硬くて快適。
この日は、三ノ窓でビバーク予定のため、Cフェースの頭から、そのまま八峰のトラバースルートを進む。しかし、ガスが濃く進行方向がわからない。何度も地図を広げて、あーでもない、こーでもないと、ルートを検討。剣経験者がいない我がパーティでは、Cフェースよりこちらの方がよっぽど難しい。なんだかんだで、チンネと八峰の間のコルに到着。地図ではこのコルを下るようになっているが、どうも下る気が起きないような、いやーな感じである。踏み跡はあるので偵察にいくとFIXロープあり。どうやらここが正解のようだ。
コルを下り、FIXをたどってトラバース。ちょっと先の懸垂支点から、約10m程懸垂下降する(長く懸垂しすぎると、池の谷ガリーへ落石を大量に落としてしまう。特に登ってくる人がいるときは要注意。)
池ノ谷ガリーの下りは想像以上に悪く、皆で「ラクー」「ラクー」と叫びながら下った。ガスの中、チンネの基部に沿って下っていくと、三ノ窓への踏み跡にでた。
12時15分。小雨の降るなか、ようやく三ノ窓に着いた。当初「三ノ窓到着が昼頃であればチンネを登ってしまおうか」と考えていたが、天気・気力ともに良くない状況なので、風の比較的少ない場所を選んでツェルトを貼り3人で中に入った。・・・せまい。
ベースの矢野さんと、無線の交信時間を12時としていたのを忘れていた。時間はすでに12時30分。あわてて通信するも、案の定通じない。15時に再度交信した時、「こちら矢野ですぅ」と明るい声が聞こえた。この日はヘリが飛んだりして、心配していてくれたようだ。申し訳ない。
ツェルト内もすでにビショヌレ。雨は強まったり弱まったり、、、その度にいい大人が一喜一憂して過ごす。
1人用ツェルトに戻り、楽しい夕食。夕飯はチキンラーメンであったが、ここで朝食を忘れたことに気づく。。。パリっと悲しい音を立て、ラーメンを半分に割った。薄味のチキンラーメンをすすり終えツェルトをでると、まだ雨が降っている。相変わらずのガスでチンネの姿は見えない。悲しさが増した。
18時30分 することがないので寝ることにする。雨音は相変わらず。こんな状況でもなんとか眠れるのが不思議。しかし、夜中に何度か寒さで目がさめた。

翌朝起きると相変わらずのガス。協議の結果、「敗退」することで決定。
せめて取付を確認したいとワガママをいい、雪渓をトラバース。チンネの基部を一番奥まで巻いていくと左稜線の取付だ。ピンが2本並んで打ってあった。未練がましくカラビナをかけたり、ヌンチャクで強度をチェックしたりしてみる。取付のピトンに再登を誓い、敗退を決意。下山開始。
またもや、池ノ谷ガリーを「ラクー」「ラクー」と叫びながら登り、池ノ谷乗越へ。そこから本峰を目指す。ガスの中の北稜は、思っていたよりもルートファインディングが難しく苦労した。9時ちょうど剣岳山頂に到着・・・よくある話だが、急に太陽が出始める。やれやれ。下山の一般ルートもたいして難しさは変わらないが、これでルートファインディングの必要はなくなった。暑い夏の陽気のなか、のんびりと下る。宇宙に向かって続く空が心地よい。
14時00分 真砂沢キャンプ場着。
濡れたものを広げて乾かしていると、仙人池へ行っていた矢野さんと一晩ぶりに再会。予備食でささやかなお祝いをし、剣最後の夜を満喫した。

今回の合宿では、ルートファインディイングに苦しみ、本ちゃんリードでの実力不足を感じた。雨ばかりで毎日カッパを着ていたような気がするが、剣をかけずりまわったおかげで、ある程度の概念を知ることができた貴重な合宿であった。また、近いうちに定着して、チンネを再登してみたい。
追:下山後、実家へ帰省し、両親と「回り寿司」を食いに行った。

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