八ヶ岳西面 小同心クラック

2002/12/14~15
メンバー:羽場・横澤  横澤 記


先日、『生まれて初めて「プラスチックブーツ」を購入した。』
学生時代のワンゲル教育のおかげで、重登山靴に絶大の信頼を寄せていた僕は、そもそも今までプラスチックブーツを購入しようと思ったことすらなかった。それどころか、巣鴨にある老舗の靴屋「ゴロー」で重登山靴をオーダーメイドで購入するというシングル社会人らしさを発揮し、学生時代の後輩に、『やっぱりオーダーメイドはいいよー。なんせ靴ズレがおきないモンね。前に「さかい○」で買った靴は慣れるまでに半年はかかったからね。靴と女は妥協しちゃだめだよー』と、植村直己と同じ店で登山靴を購入し、職人の味を履きこなす自分にステイタスすら感じていた。
だが、昨年「クラ」に入会して間もない頃連れていってもらった南沢大滝(アイスクライミング)で、自慢の重登山靴が外れそうになるという恐怖体験をして以来、プラブーツの購入を考え始めた。当然のように<バーチカル・アイス>南沢大滝で、重登山靴に一本締めのアイゼンを付けて登っているヤツは他に誰もいなかった。
そして先月、アイゼン登攀練習と称して矢野さんと行った、「越沢バットレス第2スラブ」の核心部を3分の1ほど登ったところで、重登山靴の中で浮き上がるカカトと必死に戦いながら、プラブーツの購入を決意している自分がいた。そういえば、F1ドライバーのミカ・ハッキネンも鈴鹿のホームストレートでステアリングが外れるという恐怖体験をしている。あまり関係ないが。
そんなわけで、コフラックのプラブーツとシャルレの「スーパー12」というアイゼンが僕の新しい相棒となった。
早速プラブーツにアイゼンを履き、近所の壁でトラバース練習をする。「今までとは違う!」カカトがちょこっとしか浮き上がらない不思議にしばし感動。なんと頼もしい。調子に乗ってアイゼンを蹴り込んでいたら、壁が鈍い音を立てて崩れた。近隣の皆様あってこその独身寮。早々に撤収する。しかし手応え充分。「かかってこいやー。アイゼンクライミング!」やる気満々でいざ八ヶ岳へ。
羽場さん・星山さんとともに前夜初で赤岳鉱泉入りして、ジョーゴ沢でアイスクライミングを練習。まだまだ氷結が甘く、氷の下に水がジャンジャン流れるようないやーなコンディション。
薄い氷にアイゼンをけり込む。「!」。いい感じでアイゼンに乗り込める。羽場さんの「アイスは道具や!」というセリフを反芻しながら、穏やかな天候の中、心地よいクライミングを楽んだ。
その後、アイスのリード(スクリューイン/アウト)を練習させてもらい、当日現地入りの裕さんと合流したところでベースの鉱泉へ帰還。珍しくお酒をあまり飲まないクラの面々。「校歌」も歌われることなく、早々に就寝した。
翌朝、星山さんの体調不良により、小同心クラックへは羽場さんと2人だけで登らせてもらうこととなった。うーん。イカン、緊張してきた。
赤岳鉱泉を7時30分ころ出発し、大同心稜をひたすら登る。樹林を抜けると、こぢんまりとした大同心が目の前に迫る。雲稜や南稜ルートに取り付いているクライマーを眺めながら大同心基部をトラバース。
出発時間が遅かっただけに、当然小同心への先行トレースがあるものとして探すもみつからず、大同心と小同心の間の壁を直上してしまう。行き詰まったところでルートが違うことが決定的になる。羽場さんと2人、あーでもない、こーでもないと、ルート図を眺めながら、結局当初あたりをつけていた基部をラッセルして小同心の取付へ。
先行でラッセルしたおかげで、一番に登攀開始させてもらう。暖かい日差しを少しずつ受けながら、9時15分頃登攀スタート。

1P 羽場さん。ホールドスタンスともに豊富な素敵なピッチ。サクサクとザイルが伸びていく。アイゼンもばっちり決まる。
2P 横澤。両足を突っ張りながら凹角を行く。終了点前に、一部体を外に出す所があるが、ホールドが豊富なので問題なし。抜け口は腕力で突破。きれいなペツルでビレイをする。
※「山と渓谷」1月号にも記載されていたが、八ヶ岳西面を整備してくれた人々がいるらしい。きれいなペツルがところどころ出現し、ありがたく使わせていただく。
3P 羽場。小同心の頭を越して、しばし雪稜歩き。
山頂の手前で1ピッチほど岩登り。その最後に現れる岩壁を越えると、横岳の道標を支点にビレイしてくれていた羽場さんの姿が飛び込んできた。終了点が山頂というフィナーレにしびれた。あっという間の短いルートであったが、やっぱり山頂に突き上げるルートは最高である。終了時刻は10時45分。
稜線上の強い風を受けながら、硫黄岳経由で赤岳鉱泉に戻る。
13時頃 赤岳鉱泉着。テントを撤収し、帰り支度をしていると、ふとジャケットがないことに気が付く。「ん? 確か硫黄岳の下りで暑くなり、雨ブタに挟んでおいたはずであったが、、、」と、青くなる。鉱泉小屋の店番に聞くと、そんな忘れ物はまだ届いてないとのコト。
やれやれ。もうひと仕事。下ってきた道を急いで引き返すと、ジョーゴ沢を通り過ぎたあたりで、硫黄方面から下ってくる単独のオヤジに遭遇。っと、「あーそういえばあったなぁ。道の真ん中に落ちてたからスグに分かるよ。ここから20分くらいかな。」
「あーっ。だったら持ってきてくれよぅ。。。!」と悲痛な叫びを胸に、さらに登山道をさかのぼること10分、素敵なおばちゃん女性2人組が僕のジャケット片手に下山してきてくれた。「ありがとうございます。」
こうして、僕の八ヶ岳冬季初挑戦は終わった。

小同心クラック自体は短いルートであったが、冬壁の入門として一度は登っておきたかったルートだったので、素直に満足のいくクライミングができた。「アルパイン」には踏まなくてはならないステップがいくつかあると思っているが、この小さなステップが、今後次のステップにつながるように次の山を目指していきたい。

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