剣 岳

1994/8/8~10
メンバー:桜井・本郷  桜井 記


8/8 剣沢~三ノ窓

前日、源次郎尾根Ⅰ峰を登った疲れと、今別は三ノ窓までの移動ということで、朝はゆっくりし、8時に剣沢のテント場を後にする。
このテント場は剣本峰が間近に望まれ、その周辺の岩場もよく見える。昨日登った源次郎尾根Ⅰ峰平蔵谷側フェ-スは、その最下部こそ見えないが本当に大きな壁だ。
剣岳には何度か訪れているが、いづれも5月の連休で天気の悪い思い出が多い。遠いということもあるが、岩場の難易度からしていつでも登れるということから、夏には釆なかったのだろう。しかし一歩引いた形で、日本の代表的な岩場を登ってみることもいいんじゃないかと思い、今回の山行となった。
この夏の暑さは異常だった。雨が降らず、山行は中断されることなくよかったのだが、3000m近い剣岳でも日が当たりだすと、とにかく暑い。太陽がだいぶ高くなってからの出発なので、暑さ、水の補給と、全装備を背負っての移動なので荷物との戦いである。 一般の登山者は剣沢をベースにして、軽装での本峰の往復であるが、それでもカニのタテバイや岩稜の登りはきついであろう。我々はギアの詰まったザックを背にしているので、かなりバテてしまった。上から降りてくる登山者は一様に我々の荷を見て驚きと、励ましの声をかけてくれる。本峰直下で降りてくる空身の高校生とおぼしきパーティに“頂上まであと少しですよ”と声をかけられたときは情けなくていやになった。
頂上で大休止をした後、人気のなくなった稜線を二人でとぼとぼ三ノ窓へ向かう。この先所々にペンキでルートを示しているが、通る人も少ないせいか分かりづらい所もある。長次郎のコル、長次郎の頭を過ぎて池ノ谷乗越へ至る。ここからガラガの下りになる池ノ谷ガリーを下る。視界が良ければ三ノ窓や小窓王が望めるのだろうが、今はガスの中でそれもない。何年か前の5月に池ノ谷をつめてここを登ったことがあったのだがその時もガスと雨の中で、記憶もかすれてしまっている。確か三ノ窓には立ち寄って休憩もしたlまずだったが。とにかく下りすぎないようにと意識が働きすぎたのか、チンネの裏側のガリー?に下りてしまった。踏み跡もあり
古いシェリンゲやポリタンの残骸なども落ちていて、下に引き込まれるように降りていった(私はここでチューバーを拾った)。次第に悪くなり、切れた雪渓が現れこれ以上降りるのもおかしいと気付き、池ノ谷乗越は分かっていたので熊ノ岩でビバ-クしようということで登り返す。
すると上から二人の人が下りてきたので、恥を覚悟で道を尋ねると、三ノ窓は池ノ谷ガリーをもっと下るのだと教えてもらい、再びガリーを下って三ノ窓に着いた。その二人はここにベースを張っていてチンネを登ったらしく、本郷の知り合いであった。やっと着いた三ノ窓にツェルトを張り、秘密の水場を教えてもらい水をくみにいく(ここは三ノ窓からチンネに向かい雪渓をトラバースしていく途中のジャンタルムとチンネの間のルンゼに、上の雪渓が溶けて水が落ちており、朝になると止まってしまう)。ささやかな宴会をして早めの就寝とする。

8/9 チンネ~長次郎~雷鳥平

三ノ窓のビバークポイントからすぐに雪渓をトラバースして、チンネ左稜線の取付へと向かう。左稜線は、よく日本離れしたヨーロッパアルプスの様なすっきりとしたリッジと表現され、自分もまあそんなものかなと思っていたのだが、何せその快適さよりもアプローチの遠さとシーズン中の混雑さが足かせになっていた。しかし、今日は我々二人だけということで期待は大きい。奇数ピッチ桜井、偶数本郷で登る。このルートはⅡ~Ⅳのピッチが延々と続くため、どんどん登れ、また連日の疲れも溜ってきているのか、技術的な難しさはさほどでもないが体力的にしんどい。
快適さ半分、早く終らせたい気持ち(これはまた、早く終らせられるという気持ちもあるが)半分である。三ノ窓にもう一日留まれるのならもう少し味わって登れたのだろうが、明日は下山(それも出来るだけ早く降りたかった〉なので、今日は早く登ってベースを下に降ろしたかった。
10時に終了、裏側をクライムタウンして池ノ谷ガリー、これを下って三ノ窓へ。ツェルトを撤収して、再び池ノ谷ガリーを登り返し、池ノ谷乗越へ上がる。ここから長次郎右俣を見下ろすが、すぐに雪渓がはじまっている。この時のために用意してきた、運動靴の大きさに調整した冬用の12本歯アイゼンをはく。私はシャルレのブラックアイスで、前がバンドを使用しているワンタッチなので爪先も痛くなくズレもない。
駆けるように長次郎雪渓を下るとしんどい剣沢の登りが待っている。2日前に登った平蔵谷の出合を過ぎると別山平はもうすぐそこである。ベースのエスパースを撤収したときは、もう16時を回っていたが、賑わう別山平を後にする。しんどい登りの別山乗越まで頑張り、あとは下りなのでビールで乾杯。ガスも出てきて寒くなってきたのであまりうまいビールとは言えなかった。雷鳥平までは一気に下り着き、テントを張る頃から夕立が降ってきた。
クライミングと移動(というより縦走)で、連日の好天もあって充実した合宿であった。剣岳は山懐が深いので、エリアをつなごうとするとルートは易しくともその継続というか、移動に体力を要するなと感じた。少ない休みを使って、また高い交通費も使って剣へ行くのだからいろんなエリアヘ足を延ばしたいと思い、今回のルートプランを設定したのだが、物足りなかったとも思う半面、クライミングをしに行ったというようり縦走しに行ったという気持ちの方が強い。
ここ数年、分散合宿をしてきたが、この様な山行は小人数の方がいいのは決まっている。お互いに力の合った者同士、力の知っている者同士でなければこうはいかないであろう。
ただ自分のパーティがメインで走っていても、同じエリアで同じ会のパーティがいればそれに越したことはない。そしてそのパーティも自分たちと同じようにそのパーティにとって最高と思えるような、たとえば帰りの車中で、お互いに、しんどかったけれど良かった、お互いに頑破ったなと言い合えるような山行が出来るなら素晴らしいと思う。それが年間3回しか出来ない長期の山行、合宿なのだから。

8/10 最終日

今日は下山するだけなので気は楽である。お互いに早く帰りたいので6時起床、7時出発とする。室堂まではさほどの登りではなく、ハイカーやワンゲルの学生たちを見ながら朝の光を浴びつつ歩く。室堂に私が先に着くが、本郷は山行の疲れと飲みすぎのせいかだいぶ遅れて着いた。富山の実家へ帰る本郷とここで別れて、アルペンルートを一人大町へ下る。

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