谷川岳幽の沢左方ルンゼ

1991/9/29
メンバー:本郷・立木  立木 記


本当に今年は雨にたたられた年だった。そのせいで自分なりに納得した登攀がでなかった。
しかし、幸い、先週の前穂東壁は最高のコンディションにめぐまれて、たまりにたまったフラストレーションをいっきにふきとばすことができた。そして今回、また移動性高気圧がきている。久しぷりに幽の沢へでも行ってみようと思った。ルートは左方ルンゼ、いわゆる正面壁ではないが、良いルートだと聞いていた。昨日はカゼの具合が最悪になり、ユンケルとパブロンゴールドを飲み、ギョーザと、熱い風呂に入って、フトンを頭までかぶってとっとと寝てしまった。
水上あたりまでくるとぽつりときだした。毎度のことだがぽつりとくると本当に気がめいってしまう。とりあえず出合まで行ってみよう。やはり雨だ。早速テントを張って酒を飲む。最近、酒を飲むとすぐねむくなってしまって、年なんでしょうか?あまり期待せずにねることにしよう。
4時に空をながめると、夜中にあれほどテントを打った雨もうその様に満点の星空だ。しかしまだ少し早いので本郷ちゃんを起こそうと思って、チラリと本郷を見ると、シュラフから目だけ出して、私の行動を先ほどから見ていたらしい。また飲みすぎたようだ、どうする?もう少し寝ましょうよ、今何時 5:00です(ここで30分さばよんで、嘘をついていたのだ)。じや 5:30に起きよう。
幽の沢出合いより、久しぶりの沢をつめてゆく。水流横をフリクションをきかせて登ってゆく。すぐに大滝につく。4人づれの先行パーティがザイルを出している。その横を我々はノーザイルで追いこす。その上で中央壁へは右、右俣へ入る。そこに2人まだ寝ているやつもいる。
さらに狭くなった沢をつめると、とつぜん目の前が大きく開ける。カールボーデンだ。なんのむずかしいところもなく基部まではゆける。天気が良いので壁がはっきり見えてありがたい。ちょっとしたテラスでアンザイレンする。2P半でT-1へ上れる。ここで右から上ってきた、、左フェースパーティと一旦合流する。我々はT1から左上ぎみに2Pで左方ルンゼ入り口ヘ達する。昨夜の雨のせいで壁からはかなりしずくがたれている。
ルンゼ入口にはしっかりしたビレイポイントがあり、まず5mほど階段状の岩をのぼる。巾が広いのでフェースのぼりとかわらない。AOで左端を5mほどのぼって、ちょっとした岩の出っぱりにあがる。水平にバンドのようなスタンスがあり、右へ少し移動、フリーで5mほど直上、真上にハングがあり、よく観察してみたがピンが一本しか見えなかったのと、ハングから水が垂れてくるのでそれがいやで1ポイントのAOで右へ壁をまわりこんでフェースを直上から、リッペを左へ回りこんでビレイポイントヘつく。
続くピッチは、出だしの一歩のトラバースがスタンス、ホールドとも外傾しておりぬれているので余計にいやらしい。それ以外は何もむずかしいとところはない。2級の連続だ。ただし一の倉のように残置ピンはない。自分でピトンを打ってビレイポイントをつくらねばならない。3級とはいえ残置ピンがみつからないと、かなりランナウトするのでこわい。
やがて左方ルンゼ終了点につく。いい眺めだ。5ルンゼの頭~一の倉岳、滝沢大滝上部までよく見える。しばし休息後、ブッシュと露岩をたどって中央壁の頭をへて中芝新道へ出る。そこから右へ下っていく、左へ行けば一の倉岳へ出る。所々悪い露岩をこえてやがて芝倉沢出合へと、もう一度本郷ちゃんとここで握手をする。
もうなにも心配はいらない。そういえば左フェースのパーティは、どうしたんだろうとなんて考えながら幽の沢出合をまわりこむ。いわゆるZピッチのところでトップがのぼりすぎてしまいいきずまったらしい。落ちる~という声のあと、ガチャン、ガチャンとものすごい音がした。きっと無事であろう。出合から壁に人は見えないので、大丈夫だろう。
今回は、Ⅴ字右に10人、左フェース2人、左方ルンゼ2人、滝沢に4人も入っていた。一の倉と比べて本当に明るい壁だ。だからこそ天気のよい時にのぼりたい。
陰湿な一の倉と対象的に太陽の似合う壁、それが幽の沢ではないだろうか。

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