丸山東壁 緑ルート

1991/8/12
メンバー:木郷・三好/尾原・長谷川  長谷川 記


今年の夏合宿は、上記4人で、丸山~剣の継続登攀ということになったのだが、丸山の緑ルートについては行く前から多少の不安がないわけではなかった。A2の大きなハングなんてほとんど初めてだし、何となくいやな予感があったのだが、それがこれほど見事に的中するとは、登る前にも思っていなかった。
前日、右岩稜を登り、合宿初日は無難な滑り出しで、二日目も天気はよく、とりつく頃には来る前に感じていた不安もどこかへ行ってしまった。
本郷・三好パーテイー先行で登り始める。中央バンドから下6ピッチは、ほぼ直線のボルトラダーに導かれ順調に登る。途中に1本ポイントフリーのトラバースが入ったり、ラダーが曲がってちょっとルートがわかりにくい、というところがあったりはしたものの、概ね直線のボルトラダーで、傾斜もきつくはないし、岩もしっかりしているので、安心して登ることができた。
中央バンドで一息入れ、いいよいよ問題の大ハングヘと向かう。ハングの直下までは長谷川リード。尾原さんが登ってくる間に、先行パーティーは、トップ本郷さんが登り始める。本郷さんはスムーズにこのハングを超えてしまう。三好さんもこれを脱け、尾原さんも事もなげに脱けてしまった。この三人が登るのを見ていると、自分にもなんとかやれそうだなとおもったのが、これは後から思うと単なる錯覚だったようである。
核心部の手前までは順調で、さあこの次だなと思って、気合を入れて、アブミを登ろうとするが、体が全然上がらない、下を見ると、ランニングを一個はずし忘れているのである。ガックリ来て、アブミの最下段に降り、ロープをゆるめてくれるように叫ぷが、ハングの下からの声がとどかないのか、ロープは全然ゆるまない(ロープをゆるめるようなところでもないので、それでも当然であろう)。
仕方がないので体を右下のほうにもっていてなんとかはずそうともがいているうちに、アブミから落っこちてしまった。上を見上げると2本かけておいたアブミは頭上1mほどのところで、ゆらゆらとゆれている。これはもうだめだと思い、降ろしてくれるよう叫ぷが、そのような気配もない(後で尾原さんに聞くと、降ろしても下のテラスまで届かない恐れがあるので、降ろすことはできなかったとのことで、これも当然の処置である)ので、前にぶらさがっている残置のテープにつかまって、登ろうとするが、これもなかなかうまくいかない。テープにぶらさがってはまた落っこちという動作を何度かくり返すうち、腕は完全にパンプしてしまった。
この間宙ぶらりんになって休んでいる間には、このことは帰ったら、会のみんなに笑われるだろうナアー、とか、リボビタンDが今ここにあったらナアー、とか意外につまらないことを考えたりしていたのだが、やはりリボビタンDのことを考えるよりは、来る前にしっかりした脱出技術を身につけておいて、プルージック登攀か何かで、さっさと脱出しているべきであったのだと思う。
その後、残置のテープに予備アブミをかけ、そのアブミを自分の残置したアブミにかけかえやっとの思いで、核心部の手前まで戻ってきたが、疲れ切っていたせいと、技術のないせいで、核心部がなかなか越せず、ここでもまた長い間アブミにぶらさがってしまった。結局この1ピッチだけに2時間近くかかってしまったらしい。核心部を何とか抜けると、ビレイする尾原さんに励まされながら、ヨタヨタ登り切って登攀終了となる。
もう1ピッチ登って降りて来ていた本郷さん、三好さんも心配そうにこちらを見ている。この時、僕はみんなに心配をかけたので、多少神妙な表情をしていたとは思うが、内心は自分が情けないのと、それでもよく登ったなという満足感とが入りまじって複雑な心境であった。

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